バレンタインデー

2年生の時のバレンタインデーでは、後輩の女子4人から連名で、部活の男子メンバー全員がチョコをもらった。


一人ずつ個別のチョコレートではあったが、そこには大きく「義理チョコ」と書かれた付箋がご丁寧に添えられていた。


顧問の先生の分も用意されていて、後輩たちの律儀さに感心した。


その日は珍しく顧問の先生が部活に顔を出していて、理科準備室で何やら作業をしていた。

僕を含め、部員たちはいつものように、それぞれのグループに分かれて、他愛もない話をしていた。


すると、理科室の扉が開き、部員ではない見慣れない一人の男子生徒がやってきた。

僕たち理科部の部員以外が、放課後に理科室にくることはかなり珍しい。


たまたま入り口付近にいた僕の友人が応対したところ、どうやら彼は登山部の部員で、兼任で顧問をしている先生に用事があったとのこと。


友人が彼を理科準備室へと案内し、彼は中へと入っていった。

その後しばらくして彼が理科準備室から出てきた。


彼は理科室の出入り口に向かわずに、なぜかわざわざ僕の方へと近づいてきた。


「先輩のこと、尊敬してます。」

唐突に彼が話しかけてきたが、僕自身にはそんなことを言われるようなことをした記憶がない。

それよりも、これまでに僕は彼との面識すらなかったはずである。


なぜ彼が僕のことを知っているのか、そして、わざわざ話をしにきてくれたのか、理由が全く分からなかった。


すると、少し離れたところで他の後輩女子たちと話をしていた彼女がやってきて、事情を説明してくれた。


彼は、彼女のクラスメイトらしく、以前から理科部の話を良くしていたそう。


そして、一年生に向けた部活動の説明会で、部長と僕とのやりとりを見て、尊敬しているという表現になったそうである。


まさか掛け合い漫才のような部活動説明会で、人から尊敬されることになるとは思ってもみなかったが、僕は素直にお礼を伝えた。


そして、彼が扉の方に向かう時に、彼女がそれを見送るように付き添っていく。


出口で彼女が、彼にチョコレートを渡していたのを見て、少し胸が痛んだが、クラスメイトにも義理チョコを渡すなんて、優しいなぁと改めて思った。


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