多分、もう死んでるんだよね?お姉ちゃん

紅日もも

莠御ココ縺阪j縺瑚憶縺

 私の目で見るこの世の中は、夢の世界みたい。


 退屈を抱きながら暮らす田舎町の初発電車に乗り込んだ私は、乗客がまるでいない、明かりも少ない、日の出の陽ざしがときどき車内に零れるのを眺めることしか楽しみの無いような薄暗いシートに座って真正面を見据える。


 いや、見据えるというより、ただぼーっとが座っているのを眺めているという表現が正しい。

 私の目の前のシートに腰を下ろして、私と同じように真正面にぼーっと目を向けている女性。


 彼女は、

 私のこの世界でたった一人の最愛の人。

 大好きな人。

 生涯を添い遂げたいと考えている想い人。

 そして、、、



 私の、たった一人のお姉ちゃん。



 今この車内には私たち二人しか存在しない。


 ◇  ◇  ◇



 電車に数時間揺られて辿り着いた東京を姉妹で満喫する。

 はところどころで落ち着きが無くなったり意味深に陰りを見せるものの二度目の都会の誘惑の多さには流石に勝てない女子高生であった。


 時間も耽って夜も本格的になり始めた頃合い。


「ねぇお姉ちゃん。前にも一回、こうして都会の夜を遊び歩いたことがあったじゃん?……覚えてる?………覚えてるよね。そのときにさ、私はまだ中学生だったし、お姉ちゃんもまだ高校生で流石に帰りの電車に乗って帰らないと補導されちゃうよーって時に私、「まだ帰りたくない!」とか駄々捏ねて、お姉ちゃんのことすっごい困らせたよね」

「あはは!そんなこともあったねー。都会のルールとか常識って、私たち田舎娘のそれとは全然違ったし。私たちと同年代だと思うくらいの子たちがモデルさんみたいに綺麗な恰好して、堂々と夜の煌びやかな都会を歩いてたよね」


 あの頃を思い返せば、妹は立派になったもんだ!うんうん。おねーちゃんは妹の成長を一番近くで見れて、とても嬉しいし誇らしいよ。


 いつの間にか小生意気にも背丈だって並ばれちゃってさ。


 ちょっと悔しいし、私も成長期は終わってないはずなんだけどなぁとか伸びない身長に残念がったりもするけれど、それでもやっぱり、妹の顔を真正面から同じ高さで見れることが嬉しいんだ。


「制服で出歩いてるのなんて私とお姉ちゃんくらいでさ。しかも二人とも全然可愛くないただただ野暮ったいだけのセーラーだったから、余計に都会ここじゃ浮いちゃって、恥ずかしかったよね」

「そうだったそうだった!でも流石は私たち姉妹だよね。過去の失敗を活かさずにまた同じ過ちをおかしてしまうとは……。案の定、浮いてる感じが否めないよね」

「………」


 あんなに当時は恥ずかしい思いをして、次に東京におでかけするときは絶対におしゃれなワンピース着て行くんだとか意気込んでたのに、すっかり忘れてた。

 今日もまた妹も私も制服で、これじゃすっかり三年前の二の舞だ。


「………」


 まぁでも見方を変えれば今の私たちは姉妹揃っておんなじ高校のおんなじデザインの制服を着た、仲良しペアルック姉妹と微笑まし気に見られる可能性も高い。

 一度はやってみたかったんだよね。妹とお揃いの学校の制服デート。

 でも私たちは歳が三つ離れてるから、絶対に現役では叶うことは無いと思っていたけれど………。


 あれ?


 そういえば、、、


 どうして私は、制服を着てるんだっけ?


「ねえ、お姉ちゃん」

「ん?どうしたの?」

「………。お姉ちゃん、ちゃんと私の話、聞いてる?聞こえて、る?」


 ?????


 妹の言っている意味が、わからない。



 ◇  ◇  ◇


 お姉ちゃんと二度目の東京デートをしてから、さらに三年の月日が経過した。


 今は家のリビングのソファーで、お姉ちゃんと肩を寄せ合ってホラー映画を鑑賞中。

 お姉ちゃんは相変わらずぼーっと真正面に目を向けたまま、し何を考えているのかも分からない。


 ………。


 ただ、なんとなく。なんとなくだけれど、お姉ちゃんがホラー映画にビクビクと怯えているような、そんな気がする。


 試しにちょっとだけお尻の位置をずらしてお姉ちゃんと私、互いの間にスペースを作ると、スススっと、まるで私に縋りついてくるみたいに、ぴとっと、距離を縮めてくる。


「(かわいい)」


 横目で、それでも表情は死んでいてぼーっと何を考えているか分からないお姉ちゃんを観察する。

 この時間が、夢みたい。

 私の世界はいつだって、お姉ちゃんが傍にいてくれる限りずっと、そう、夢の世界みたいなんだ。


 ブーブー♪


 ふと、テーブルの上に置いていた私のスマホが通知を知らせる。

 手に取ってみれば、それは速報と見出しに書かれたニュースだった。


『六年前、女子高生一人を殺害。女子中学生一人に軽傷を負わせ逃亡していた犯人が捕まる』


 そんな題名の記事。

 お姉ちゃんを見る。相変わらずぼーっとしている。


「………。」


 今度はさっきと真逆で、二の腕や肩、太ももがくっつくぐらいまでお姉ちゃんとの距離を私が縮める。そしてひっそりと彼女に寄りかかる。

 頭をお姉ちゃんのひんやりとした肩にあずける。



 私は、何も考えないことにした。



 私の目で見るこの世の中は夢の世界みたいで、そしてきっとそれは怖い夢。

 お化けが出てくるような、小さい頃よく見ていたような、そんな怖い夢。


 けれど、私にとっては幸せな夢。

 いつまでもこんな時間が続いてほしい。


 そう、心から願って。


 私はお姉ちゃんの肩にすべて預けて目を閉じた。

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