井戸?

「・・・・・・外部の情報源とショップ、釣り以外の食糧、雑貨の入手方法が生まれたのは幸運だな。・・・マリア達には感謝感激と言ったところか、これで節約の目処がたつ・・・急がないとな。」


 タカシが急いでマネーを貯める必要が出来た。

 それは出航前にマリアが言った事だった。


「グレド、転生してからずっと此処にいるのか?」


「あぁ、そもそも転生したのはつい最近の事だ。」


「・・・・・・なら、早くこのイカダから卒業した方が良い。」


 真剣な表情で話すマリア、素っ裸じゃなかったらより真剣さが伝わるものである。


「?そりゃあ、いつかはイカダを卒業したいが・・・・・・何かあるのか?」


「今から約五ヶ月後、嵐期らんきに入る。」


「嵐期?」


 嵐期とはその名の通り嵐が期間中ずっと続く期間の事である。

 それもポイント・ネモの嵐期は他とは一味も、二味も違う。


「何せ、竜すら恐れてこの時期は絶対に上空を飛ばない。竜巻に、大雨、突風、雷、嵐を連想する気象が休む事なく続く。・・・いくらこのイカダが神仕様の転覆しないイカダでも上に乗っているお前はひとたまりも無い。」


「やけに心配するんだな?ワシが死んだ方が仲間にできて良いんじゃないか?」


 凄く心配してくれるマリアに冗談っぽくタカシは言うと・・・


「馬鹿か、嵐に流れた水死体をこの広大な海で探すなんて一苦労だ。・・・保険は掛けているが・・・な。」


 マリアは何かを確認するようにタカシを見つめていた。

 どうやら、面倒ではあるが、この広大な海に流されてもタカシを発見できるすべを持っているらしい。

 追求したが、教えてはくれなかった。


「・・・・・・・嵐期は半年続くそうだからな。この凪期なぎの間に食糧も貯蓄しないとな。・・・こだわってマリアから食糧を貰うのを拒否しなければ良かったか?」


 マリア達は取り敢えずの感謝の印として、魚などの一ヶ月分の食糧をタカシに渡そうとしたが、この世界の初めての魚は自力で釣った魚が良いと断ったのだ。

 

 その執念のような強い意志を尊重して、マリア達は引き下がった。

 でも、この場所は魚がいないで有名であり、海底にしか魚がいないと言われている。


 凪期とは今のような風もなく、波も穏やかな期間の事であり、圧倒的な透明度を誇るポイント・ネモではこの時期にしか見られない現象がある。

 それが浮いている船である。

 水面の境が分からなくなって起きるまるで船が宙に浮いていると錯覚してしまう。

 特にポイント・ネモは幻想さが桁違いであり、この海域が知られるまで伝説の海と実しやか噂されていた。


「無駄に時間を潰してても仕方がないしな。・・・やっぱり先行投資としてランダム釣り竿を買うか?」


 ランダム釣り竿は一本100,000マネーである。

 決して安くない買い物だが、それでも今の効率が2倍になるのははっきり言って美味しいとは思っていた。


「・・・・・・でも、貯金が無くなるな。」


 今のタカシの所持金は100,050マネーである。

 まだ1日分水とカロリーバーがあると言っても、1日全部が5マネーのハズレの日もある。

 この炎天下で水なし、食料なしは死を意味する。


 次、マリア達が来るのはマリアが言うには1ヶ月くらいでまた来ると言っていたが、副船長を担当している女スケルトンのフレイ・ユーチが言うには、死んでから着込むというフラストレーションによって島を襲った瞬間に露出狂が爆発すると思うから、時間を忘れて次来るのは年単位で先になるだろうとの事だった。

 魔物になって寿命という時間制限に縛られなくなった弊害で時間にもルーズが更にルーズになったそうだ。


「お、掛かったな。・・・良いのが当たってくれ。」


 今日はここまで当たりはなし。

 せめて、今日のハズレをチャラにしてくれるアタリが釣れて欲しかった。


「お!これはっ!」


 手応えがある。

 タカシの中でランダム釣りにもアタリが出やすいジンクスみたいなのが生まれ始めていた。

 手応えがあるほど、良いものが当たっている気がしていた。

 特に新しい魔石(石)が当たった時は大物の予感がした。

 釣れたら少し大きめな石だったので確認するまで少しガッカリしていた。


 今回も何か、良いものが来る予感があった。


「こ、これは!確定演出!」


 釣り上がるタイミングで水面が泡立つのは確定演出だとタカシは思っている。

 予感と違って5マネーみたいな最安値の品は釣れていなかった。


「おりぁぁぁ!!!・・・・・・井戸?」


 釣り針に引っ掛かっていたのは石造の立派な井戸だった。

 人がすっぽり入れるほど直径が大きい今まで最大サイズの釣果だった。


 海底井戸


 その名の通りを信じるならこの井戸の中は海底なのだが・・・釣り針にペットボトルを引っ掛けて井戸の中に入れてみると、バキボキと音がした。

 音が止んでから上げてみると、そこには水圧で潰れたペットボトルがあった。


「通常のペットボトルより頑丈なペットボトルがこんなに潰れたとなると、少なくてもかなりの深海ではありそうだな。」


 もしかしたら、このイカダの下と繋がっていると仮定して、見栄えのために帆を立てようと思っていた真ん中に井戸を配置した。


「よし!釣るか!」


 井戸の中に餌をつけた釣り針を投げ入れたタカシは早く釣れないかなと期待に胸を膨らませた。

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ポイント・ネモ〜スリルを要求したらイカダ生活?!〜 栗頭羆の海豹さん @killerwhale

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