美貌

「・・・・・・それにしてもあの骸骨船長があんな美人さんだと思わなかったな・・・」


 時は戻りマリア号(幽霊船の名前)出航前


「ア、アタシの顔・・・・・・アタシの顔!!ふんっ!間違いない!アタシの身体よ!この柔らかい胸に!圧倒的な腰の曲線美!すらっとしてしなやかな脚!アタシのよ!・・・アハ!アハハハハ!!!!!」


 信じられないように鏡を見ながら手で皮膚と肉を確認していたと思ったら、いきなり服を破り捨てて、全身隈なく見て絶叫して大笑いを上げていた。


「・・・お宅の船長さん、痴女なのか?ワシが見ているのもお構いなしだが?」


「キャプテンは生前、その美貌で大国の王子すら落とした事を自慢にしていたんだ。」


「生前のキャプテンは痴女も恥ずかしがる裸同然の服装だった。」


「あぁ、あれは恥ずかしかったな。・・・オレたちにも薄着を強要していたな。」


「スケルトンになってからは自慢の身体も、顔も失って元気を無くてあんな全身を覆うような服装になったな。」


 つまり、生前の美貌が戻って来て歓喜して、生前の痴女が蘇ったという事か。

 世界一美しい物を隠すなんて、それこそ恥ずかしいと言う意味不明な理由で服すら着ない事も、生前は日常茶飯事だったそうだ。


「感謝する!アンタのお陰で!私の宝物は手に入った!!!・・・・・・そう言えば、名前をまだ聞いてないな!」


「グレド・タカシだ。」


「グレドね。アタシはマリア・ディーテ!世界一美しい海賊!傾国のマリアだ!」


「因みに傾国ってのは美貌で国を傾かせたとかではなく、美貌を少しでも傷つけた者がいる国をぶち壊した事から聞いている。」


「傾国じゃなくて壊国じゃないか?」


 傾国と呼ばれる本当の意味を教えてくれているスケルトン子分も実は生前は女性だそうだ。

 言われて見て他の骸骨達を見比べてみると、男性と女性で少し骨の形状が違う事が分かった。


 それにしても海賊は男性が殆どのイメージがあったが、こう見ると男女比は半々くらいだった。


「私達は元々貧しい村出身で冬を越せない時だけ海賊として略奪していた海賊なんですが、マリアは貪欲かつ戦闘能力、カリスマ性も桁違いで村全部を海賊に半ば強制的に海賊家業を本業にしてしまったのよ。」


「・・・・・・前世でも海賊は、普段は漁師として生計を立てていると聞いた事があるな。」


 その村も今は補給地点として残っている上、マリアの力でその村の村民もスケルトンたそうだ。


「・・・気に入った!グレド!お前、アタシの船に乗れ!!」


 マリアはタカシに手を伸ばしていた。


「悪いが、その手を取る気はない。」


「・・・・・・何故だ?誰かの下につくのは嫌なタイプか?」


「いや、そうじゃない。別にマリアの下につくのは悪くない。新たな人生は退屈したくないからな。刺激的で良さそうだ。・・・・・・でも、今はこのイカダの生活を最大限楽しみたい。若く生き返れたんだ。のんびりと楽しんでから。刺激的に楽しむよ。」


「そうね。生前なんだ。・・・グラドは此処から離れられないんだし、焦る必要はないな。」


 あ、死後は海賊決定なんだな。と死後の就職先は決定した。


「宝物って自分の身体だったんか?」


「えぇ、この海域の何処かに死者すら蘇らせたという伝説がある神と交友のあった神が祀られている神殿と都市が沈んでいる・・・いや、アタシは文字通りの海底都市があると思っている。・・・神でなくてもそんな超技術があるなら生き返る事は無理でも、この美貌が蘇ることは出来ると考えていた。・・・でも!グレドのお陰で宝は手に入った!!部下達も復活させたいが、それもアタシの復活で光明が見えた。」


「進化の玉は?候補にはなかったのか?」


 死んでからも長い年月海賊をしているだろうマリアがあんなボロボロの古文書だけを頼りに海を彷徨っているとは思えなかった。

 他にも候補がある筈だと確信があった。

 その中に自分が手に入れれた進化の玉がないとは思えなかった。


「魔物の進化には大きく分けて二つある。一つは魔物が持っている魔石を食べて出来る強制進化と環境、戦闘による適応進化。・・・進化の玉はこの中で強制進化に入るが、アタシ達はこの長い航海で多くの海の魔物の魔石を食べてきた。それで進化してきたが、ここ数十年は打ち止めになって進化の限界を感じていた。」


 魔物には寿命がない。

 核である魔石を砕かれても上位の魔物なら再生して生き残れるほど生命力が高い生物である魔物は進化という特異な現象を持っている。

 それも無限に進化する事はない。

 下位である程進化しやすく、上位であるほど進化し難い特徴があり、大国で特定危険魔物として災害クラスの認定をされているマリア達は既に打ち止めだろうと諦めていた。


「進化の玉にはランクがあり、アタシが進化するには最高ランクが必要だが、最高ランクは国宝クラスとして厳重に管理されている。・・・アタシ達がやろうとしたら、グラドがくれたように自力で見つけないといけない。」


 話によれば通常、進化の玉はダンジョンで発見される品であり、発見されているダンジョンはその土地を所有している国が管理、警備している。

 それも最高ランクなんて代物はダンジョンの中でも指折りの危険なダンジョンの最下層でしか見つけられない物だった。


「だからこそ!グレドがしてくれたのは一生の恩義と言ってもおかしくないことだ!なんだったらアタシの旦那にしていいくらいだ!」


「・・・まだ、結婚する予定はないよ。」


「キャプテン・・・相手は転生者でも肉体は子供ですよ・・・・・・他の奴らにショタコン痴女船長なんて俺たちは言われたくないですよ。」


 マリアは本気でタカシと結婚して良いほどの恩義と好意を寄せていた。

 そんな発言をする船長に昔からあそこの船長は痴女であり、他の船員も露出が性癖のヤバい海賊団だと噂されていたのに、これに加えてショタコン船長という事は船員もロリコン、ショタコンの子供好きだと噂されたら、船員たちは流石に海賊をやめて村に引き篭もる自信があった。


「それも追々で良い。取り敢えず、近場の島を襲ってアタシの美貌が復活した事を知らしめに行くぞ!!!」


 これからそんな理由で襲われる島や国に気の毒になったが、マリア号が見えなくなる頃にはその向こうから朝日が見えていた。

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