幽霊海賊マリア船長
タカシは自分の雑多なイカダを見て、堂々と答えた。
「あるように見える?」
「・・・見えないな、血塗れの服装に岩を四方に配置している意味不明なイカダで漂流している子供・・・普通には見えないな。何もんだ?」
初期の服と上半身とともに流れて来た質の良い血染めのシャツしか手持ちにないタカシは血染めの服の方が着心地が良い為、お気に入りではあった。
潮風で血の匂いもあんまり気にならないのも良かった。
「・・・・・・」
「当ててやろうか?転生者だろう?」
「当たり。・・・それにしてもよく分かったのう?」
「何も知らないようだから、教えてやるが、この海域はな。潮の流れに乗っていたら絶対来れない海域だ。・・・そもそも、陸地から5000キロは離れている事の海域でそんなイカダで辿り着ける訳がない。」
自分達も目的が無ければ、絶対に近づかない海域のこの場所にただの子供が生きて漂流している訳がないのだ。
「それにアタシの船がぶつかったのにびくともしないイカダなんて馬鹿な物を持っているなんて転生者くらいだ。」
この海賊達はこんな海域に誰もいるとは思っていない為、前方不注意でイカダと衝突していたのだ。
それなのにイカダは転覆どころか、乗っている子供はぶつかった事にも話しかけるまで気が付いてなかった始末である。
こんな不思議なイカダを持っている子供=転生者しかないと船長は確信していた。
「それもそうか・・・良い加減、その物騒なのを下ろしてくれない?見ての通り、ワシは弱者だよ。」
「そんな堂々とした弱者は知らんな。・・・それに転生者はアタシ達の知らない未知なる能力を持っている可能性が高い。丸腰の素人でも警戒しないのは馬鹿だ。」
「転生者って有名なのか?」
明らかに転生者が自分以外にいるのは分かる話し方をする骸骨船長に率直な質問をした。
「冒険をしている奴なら生涯に一回は会う程度だ。・・・言い伝えでしか聞いたことのない奴らの方が多いだろうな。」
「へぇ、じゃあ船長さんも会った事があるのか?」
「あるも何もアタシの一味を壊滅させたのは転生者だよ。・・・・・・あぁ、勘違いすんなよ。だからって同じ転生者の事を恨む程、狭量ではないよ。」
骨しか胸を張ってそんなつまらない事はしないと断言した。
確かにもし、件の転生者に会ったりしたら冷静さをかなぐり捨てて、スケルトンらしい理性のない死体として殺しに行くと確信があった。
「・・・・・・お頭、確かにアイツ、何もないですぜぇ。」
「そうか・・・でも、気を緩めるなよ。何かあればアタシを気にせず殺せ。」
「・・・何か物騒な事を言っている気がする。」
コソコソと船長と船員が話していると、さっきまでコチラに向けた剣をしまい、船長がイカダに降りて来た。
「本当に何もないのか?」
「な・・・いや、よく分からない奴ならある。ワシの世界にはないから。使い道も分からないから、価値は分からんが、欲しかった渡すぞ。」
「どれだ?」
タカシが指差したのはダンボールをふんだんに使った祭壇だった。
そこには初日に置いた魔石(小石サイズ)より大きくなった魔石(石サイズ)と進化の玉が飾られていた。
「・・・・・・・・もしや・・・」
「うん?この玉の事を知っているのか?」
「そっちも欲しいが、それよりこの祭壇に置いてある木彫り・・・これは・・・・・」
船長はこのタコ似の木彫りが気になるようだ。
「・・・おい!あの古文書を持ってこい!!」
「へい!」
船長さんが木彫りを手に取りじっくり細部まで見た後、祭壇に置き直した。
船にいる船員に指示を出すと、その船員が船内からボロボロの古文書を持ってイカダに降りて来た。
「・・・・・・・・・特徴的な触手に、この不気味さ・・・そして、この材木・・・間違いない、古代に存在したという支配者の像だ。」
「え?なにそれ?」
「これを何処で手に入れた?」
元々、嘘なんてつくつもりはなかったが、凄い剣幕で嘘を許さないという船長の気迫から何から何まで話した。
「つまり、この釣り竿で釣ったという事か・・・?」
「キャプテン、この釣り竿を・・・」
「いや、これはコイツが持っていた方が良い。」
船員が大事なランダム釣り竿を奪おうと船長に提案したが、即座にそれを却下していた。
長年、スケルトンになった後も冴えている勘がこの釣り竿はこの転生者が持っている方が自分にとって都合が良いと呟いていた。
「・・・・・・おい、何か欲しい物はないか?」
「どう言う事ですか?」
「取引だよ。この木彫りのような品が釣れたら、アタシに寄越せ。その代わりに欲しいものがあったら調達して来てやる。」
「・・・取引?こっち方が圧倒的に弱者なのに、奪ったり恐喝しないんだな。」
海賊な上に此方は数も、個も下な状況で正当な取引をしようとする船長の気持ちがタカシには分からなかった。
「それは今の話だ。転生者に限らず、この世界には虐げられた者が覚醒する事は昔話でもよくある話だ。そして、それは実話でもある。」
船長としては自分が求める物の手掛かりになる者を手放すような行為をする訳にはいかなかった。
何より転生者の爆発力と覚醒を舐めた結果が今の自分の状況でもあった。
「・・・ワシとしてはお得な取引だから。良いが・・・取り敢えず、この古代のハチミツとこのよく分からない玉を渡しておく。・・・魔法関係の本が欲しいな。」
「良し、契約成立だ。・・・この玉はアタシ達のような魔物を進化させる玉だ。・・・まぁ、アタシの様な上位種が進化するような高品質な玉なんてそうそうないが・・・?あれ?玉は?」
船長としてはまた、新しい新入りでも入ったら使うか、と考えていたタカシから手渡された玉が手からない事に気がついた。
「せ・・・船長・・・」
「うん?どうした?お前らそんなびっくりして・・・おい、お前もどうしたんだ?」
「せ、船長・・・これを・・・」
「おい、アタシが鏡・・・ぎ・・らい・・・・・・」
船長は船員達も、タカシも驚いた顔で固まっている事に疑問に思いながら、船員から手渡れた手鏡をつい見てしまうとそこには怒っている生前の綺麗な自慢にしていた顔があった。
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