憧れのセリフ

「・・・・・・・・これで一週間か・・・ランダム釣り竿以外は成果ゼロ。餌が喰われた形跡すらない、何度が釣れた猟奇的な遺品でサメでもいいから釣れるかな?と思ったが、それも無しか。」


 タカシがイカダ生活を始めて約一週間、初回1日が本当にボーナスでも掛かっていたと思うほど、ランダム釣り竿の方も当たりは少なかった。

 殆どが石か、枝、もしくは板や岩である。

 お陰で四方を岩で囲んで隙間は大きいが、柵代わりは出来た。


 ショップで釣り竿を2本追加したが、この一週間は何も掛からないどころか、取り付けた餌にも食べていない事から、魚が本当にいない事が分かった。


 それでも、たまに釣れる猟奇的遺品が釣れた時に血抜きと遺体は丁重に海に投げ捨てたが、サメとかが血の匂いに誘われて掛からないか、期待と焦りすぎて命の危険を晒している心配でソワソワしていた。

 結果として何も・・・なかった。


 今日のランダム釣果で全身がほぼほぼ揃っている計算になるが・・・・・・明らかに靴や服、帽子などのサイズ、種類からバラバラ殺人事件が幾つも起きている事が分かった。


 ・・・・・おっかねぇ、世界・・・いや、このランダム釣り竿の範囲は分からないが、世界中だと仮定したらこれくらいのバラバラ事件が起きても・・・おかしくないのか?


「それにしても釣れないな・・・左足の靴は小さくて履けないから土とサボテンを買ってプランターの代わりにしたけど・・・まぁ、良いか・・・」


 そんなマネーがあるなら、他に回せって感じだが、これも生活レベルを上げてくれる癒しと言うやつである。

 特にショップには日によって安売りしている物がある。

 土は違うが、このサボテンは塩害に強く、この熱帯だと思われる気候にも最適というこのイカダに合っているものが5割引きという破格の値段で安売りされていた。


「それにしても何がいけないんだ?・・・ガチで魚がいないか?見たことないし、可能性もあるな。」


 透き通る海を見たり、決死の覚悟で潜ってみたりしたが、少なくとも見える範囲、潜れる範囲には何もいなかった。


 釣り糸が短いのかと値段的に釣り竿を一本、生活費を削ってアップデートしたが、水深500メートル対応の釣竿にしても何も掛からなかった。


「もしかして、ポイント・ネモ・・・かなりの深海なのか?・・・・・・ランダム釣り竿で生活費をまだ賄えているが、このままだとイカダのアップデートが出来ないな。」


 アップデートとはショップで購入した品の中でより良い品に追加料金を払う事で改良してくれるオプションの事である。

 このイカダもより良い船に出来るアップデートが出来るのだが、自分の所持金からしたらかなりの高額なものとなっていた。

 アップデート以外にも柵や魔物迎撃用の大砲などの設備品もあった。

 これも高額である。

 柵に関しては簡易なら安いが、それを買う前に岩が釣れた為、簡易は節約の為に買わなかった。


「・・・・・・銛を買いたかったけど・・・・はぁ、意味ないな。」


 タカシは憧れのセリフがあった。

 それを言うシチュエーションは釣りではない、銛突きなのだ。

 魚をグサって取って、天に向かって高らかに叫びたかったが、これは当分無理だなと諦めていた。

 そもそも素人の銛のビギナーズラックで取れる魚がいるかも分からない世界だが、それでも前世では叶うことがなかった夢を叶えたかったのだ。


「・・・・・・魔法の才能・・・普通だな。」


 基礎魔法運用書に載っている簡易的魔法の才能診断をやってみた結果、ごく普通だと分かった。

 中には特化してたらするらしいから。

 まだ、魔法の中でも才能があるものもあるかもしれないが、期待しない事にする。

 普通の才能があるだけ良しとする方が良いだろうと、前向きに考える事にした。


「まずは魔力量を増やす基礎練習をして、魔法を使う土台を作る・・・と、まぁ、すぐ魔法を使えるわけないわな。」


 生まれ持った魔力量が多いと最初から魔法を使えるらしいが、タカシの魔力量は普通なので基礎練習をしてと普通の段階が必要だった。


 昔いた初代魔王は生まれながら強大な魔力を持っていたせいで、母親を燃やして自己出産したという悲惨な逸話があるそうだ。


「いや、怖すぎるだろ。・・・つーか、挿絵もリアルにグロくて本当にこれ、子供向けの本か?絶対トラウマものだろ。・・・こんなもん。」


 おまけ話に付いている魔王の話とか、全てに挿絵が付いているが、その全てがグロい。

 R-18指定を受けてもしょうがない程のグロ絵である。


「・・・・・・今日も何も釣れないな・・・もう夜じゃん。」


「坊や、こんな所で釣っていても何も釣れないぞ。」


「そんなの分かって・・・・・・!いつの間に・・・」


 背後から声を掛けられたタカシはビックリして振り返ったが、そこには誰もおらず、代わりに巨大な船がイカダに停泊していた。


「それで?・・・金目の物はあるかい?」


「えぇ、海賊?」


 しかも、見える船員も、剣を抜いて向けてくる船長だと思う人も全員骨で出来ていた。

 幽霊船の海賊船に襲われました。

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