4. オトナ…それは愛 

時が満ちたのは月の綺麗な夜のことで御座いました。

 臆病なあたくしも、大切な使命を果たすべく、意を決して運命の殿方との出逢いを求めて添木を登ったので御座います。

 そう、使命なので御座います。

 『命を繋ぐ』このことこそが存在意義!

 誰かに教えられたのでもないけれど、少しの迷いも無く殿方をお待ちしておりました。

 運命に導かれた殿方が、あたくしを背後から抱きしめる様に覆い被さりました。オスらしい立派なツノを持ち、光沢のある体躯は、あたくしより一周りも二周りも大きな殿方で御座いました。

 運命の恋虫。同じ使命を持つ同志。昂る恋情。あたくしは、殿方を受け入れることに致したので御座います。

 一体何処に隠していたのでしょう?黒光りする棘の様なモノをあたくしの身体に突き刺し激しく腰を動かすので御座います。

 

 イタイ、イタイイタイタイタイ…💢 

 コノ下手くそが💢


 その逞しい体躯で強く抱きしめられて逃げることも出来ず、睦言の間中あたくしは泣き叫んだので御座います。

  運命の番。其処に愛はあったのか?

それを確かめる事もせず、事が果てるとあたくしはそそくさと心安まる土の中へと帰ったので御座います。


『生命を育む』というのは種属に差はなく嬉しいものだと思うのです。

 あたくしもお母様がして下さった様に、我が子達が健やかに育ちます様にと祈りを込めて土を固めて一つ一つ大切に卵を産み落として行きました。


 クソが‼︎💢

 ごめんあそばせ。思い出すとあの時の怒りがこみ上げてしまったので御座います。

😩

 聴いてくださいませ!

 人間とはなんと勝手な生き物なのでしょう。夏休みの自由研究とやらの為に、あたくしが心を込めて産みつけた卵を掘り返すので御座います💢許せません‼︎

 あゝ、愛しい我が子たちよ!全ての卵が孵化することは難しいかもしれないけれど、それでもどうか無事でいておくれ‼︎

と、強く願ったので御座います。

 あたくしは我が子に逢うことは叶わずとも、子等の幸せを願わずにはいられなかったので御座います。


 使命を果たしたあたくしは運命に従い、最期の時を待つので御座います。

 その時はそう遠くは無いのでしょう。爪が欠け、脚を一つ失い、二つ失い、もう添木に掴まることも出来ず、土の中に潜ることもせず、今はただ、飼い主様がくださる昆虫ゼリーにしがみ付き、力の限りゼリーを啜って命を保っております。

 でもね皆様、こんなあたくしではありますけれど、憐れんだりなさらないで下さいませ。

 ままならない事も御座いましたけれど、あたくしの生涯は概ね幸せであったと思っておりますの❤️

 そろそろ旅立ちの時間となった様でございます。

 では皆様ご機嫌よう、さようなら…

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