第3話 従者の登場
あれから、1年が経った。少し動けるようになると毎回同じように離れに移される。広いけれども、誰もいないから寂しい思いをいた思い出だけしかない場所だ。乳母も私以外の兄弟も見ているからだろうけど、ここに来るのは1日に1回のみ。それも、寝かしつけに来るだけだ。話すこともほとんどなく、ただ乳母が選んだ悪い人が倒される本を読み聞かせされる。それを聞くたびに、お前は悪い子なんだと言い聞かせられている気がして止まない。
昼間はメイドが屋敷の掃除をしているが、話し声が聞こえる。それは、「泣かない不気味な子」や「あんな子に仕えるなんて最悪」などだ。だれも、私が理解できるなんて思ってないんだろう。実際、彼女や乳母の前で言葉を発したことがないから話せないとか言われているのだ。それがさらに、メイドたちの振る舞いを助長させることになっているのかもしれない。
「こんなことなら、話せばいいのかもしれないや」
屋敷は、公爵家として持っている本館よりかは小さいが一般の貴族の屋敷としては本館として扱われるくらいの大きさになっている。建築様式も長い歴史が感じられる建て方をされており、屋敷の中にある彫刻はかつてこの公爵家にいた人が彫ったものとされている。この屋敷を使う子は基本的に才能あふれるものが多いらしい。魔法の暴走などで、本館が破壊されないようにするとともに本人の身の安全も守っているというのが建前だ。実際は、魔力を吸い取って屋敷の状態を保つ場所でもあるのだ。この屋敷を探索したのは何回目かわすれたけれども、ここで見た魔法陣を調べたときにそのような作用があるのを知った。そして、この屋敷から出たら本館に知らせが届くことをここを出た人生の時に知ったのだ。その時は、見つからなかったから問題無かったのが幸いだったのかもしれない。
ドアがノックされる。こちらの返事を待つことなくドアが乱雑に開けられる。入ってきたのは乳母と小さい少年だ。小さいといってもだいたい6歳くらいに見える。私は、彼のことを知っている。何回も何回も私のお世話係りになる少年だ。
「お嬢様、これからあなたの従者になるバルペドロ・アルステラです。挨拶しなさい」
「初めまして、バルペドロ・アルステラです。よろしくお願いいたします」
視線を向けて伏せるだけだ。一切言葉を発することはない。けれども、了承したと受け取った乳母はそのまま部屋を出る。言葉を理解していないとでも思っているのだろう。けれども、5歳までにある程度話せたり礼儀作法ができないと困るのが家の意向だ。だから、自身の夫の愛人の子供を私の従者にしたのだろう。自身の娘や息子でも同じくらいの年齢の子供がいるのにも関わらずそうすることで、彼のプライドも傷つけようという魂胆なのだろう。
「お嬢様、とりあえず何か召し上がりますか?」
話せないと聞いていないのかこちらに質問を投げかけてくる。確かに、寝間着でベッドの上にいるのだから起きたばかりと思っているのだろう。実際は、結構前に起きている。何も食べていないのは事実だから、頷くだけはすることにした。まともな食事が来るかどうかは不明だけれども、彼が来てから初めのうちはまともな食事を口にできていたはずだ。毎回、どんなに回帰しても彼はここにいる時は私に優しかった。そして、毎回浅ましくも期待をするのだ。
今回こそは、信頼しきらないようにしないといけない。どうせ、私が14歳を迎えるときに兄の従者になるのだから。学校に通わなければ、16歳の時だ。優秀な人材が母親殺しのところにいるのが許せないのだろう。
「ベッドから降ろしますね。触れますよ」
こちらに声をかけながら、ベッドから降ろして椅子に座らせる。そして、持ってきた柔らかめの食事をこちらに差し出しながら食べさせる。味は、素材の味でしかない。野菜が多めで肉はない。それは、この屋敷にある食材だからだろうけれども。それでも、いいものではあるはずだ。5歳になるさいに、小さな社交界デビューをする。精霊の祝福祭。貴族の子供が神殿に集まり、精霊からの祝福をもらいに行く。そのあと、庶民がまとめて祝福をもらう。そんな風にして、この世界の魔法は成り立っている。魔力があるだけでは、魔法が使えない。精霊から祝福をもらって初めて魔法を使うことができるのだ。
「とりあえず、お部屋以外の場所も見て回りますか?この部屋から出たことがないとお聞きしました。どうですか?」
なにも答えないことが申し訳なく思うくらい、食事をとりながらもこちらに話しかけてくれていた。すべて無視をするという、人として終わっていることをしているのにも関わらずニコニコと笑いながら話しかけてくる。たしか3属性の祝福をもらっている彼は、鮮やかな青のグラデーションの髪を一つにくくっている。大きめの目を器用に細めてこちらに笑いかけてくる姿はまさに、初恋を奪っていく小さな紳士そのものだ。実際、彼に初恋を奪われた経験はある。なんなら、どの人生でも必ず初恋は彼だけれども身分差を学ぶことで諦めるようにするのだ。彼を選んだ人生では、食事に毒を仕込まれてゆっくりと衰弱死を彼にさせられた。信じていたけれども、そんな信頼とは裏腹に恨まれていたのだと思い知ることになった。実際、こんなところに追いやられて未来が不安な思いをしてたのもあるんだと思う。そこに、次期当主候補の兄から認めてもらえるようになった。けれども、私のお世話係からやめられないし私も離そうとしなかった結果の毒殺なのかもしれない。別れたとしても、兄に私の世話もするように言われて満足に兄やあの娘のそばに居ることができないからという理由で殺される結果になったんだけれども。
「お嬢様、こちらの屋敷は歴史もありますししっかりと見てまわるのもよいかと思いますよ」
その言葉を聞き流しながら、外を眺める。出歩けば出歩くだけ魔力が吸い取られるのから出る気力もなくなる。部屋にいるだけでも結構小さいからしんどいのにさらに動くとなるときついのだ。もう少し大きくなったら楽になるのかもしれない。5歳までには絶対に歩き回れるように連れ出されるんだと思う。そんな理由で、食事というかまだ離乳食を食べさせられた。そうすると、外に出そうとしていたのだろうが眠くなって目をつむる。そうすれば、 またベッドに入れてもらえた。
もう、期待もなにもしたくないから部屋から出たくないや。
嫌われ令嬢は今日も夢を見る 夢見夢 @Addicted
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