第2話 失った家族

 うがぁーー。

 もう駄目だぁ。動けねぇーー。

 草原で仰向けに倒れこんだ。


 隣には、喉を貫かれたブラッディベアが倒れている。

 ほんと、あっぶなかったーー!!


 たぶん、睡眠薬が完全に効いたわけではないと思うけど、それでも奴の動きは鈍っていた。奴が私のことを叩き付けようと腕を振り下ろしたときの速度は、初めの攻防に比べてずいぶん遅く感じた。そのお陰で私の刺突の速度が勝ったんだ。


 いやー。ほんと、疲れた!

 こんな大物、一人で倒したのなんて、初めてだ。まあ、二度とごめんだけどな。

 

あーー!!

そうだ、捕獲用に用意しておいた睡眠薬、全部使っちまったから、今日は罠を設置できないよ。あぁぁもう! 仕方がない、明日にもう一度来るか、でも、大物が手に入ったのは良かった。ブラッディベアの肝と爪は薬の原料にして、毛皮と肉は売れば結構なお金になるかな。


 とにかく、そろそろ、帰りま……


 ん?

 ……あれ?


「動けない? あ、やっちゃった?? マズイ。これは、マズイぞ」


 私が覚えていたのは、此処まで……


 ――――


 短槍は私の身長より少し短いんだ。そしてクマ野郎は液化しておいた睡眠薬を頭っから被っていた。まあ、被したのは私だけどさ。

 それで、その大量の睡眠薬を被った奴と接近戦をすればどうなる。わかるよな? うん。そうだよ……


「だぁーー。草原で丸一日寝ちゃったよ!!!」


 寝ている間に魔物に襲われなかったのは良かったけど……目覚めは最悪だ。

 最悪の理由? 夢だよ、夢。

 私が最もつらかった時の出来事を一日中かけて見せられた。


 ――――


 一年ほど前、さまざまな村や街で謎の病気が広まったのだ。そして私たちの村も例外では無かった。病気の悪性度は高く短期間のうちに次々と村人が感染し命を奪っていった。両親と私は、店で症状緩和のための薬を作り続けていたが根本原因が分からない状態での対処療法でしかなく、まさに焼け石に水の状態だったが、私の両親は患者の家を訪ね歩きながら治療を施していった。


 しかし、遂に私の両親までもが、その病気に感染してしまったのだ。


 その日から、私は両親に会うとこができなくなった。

 両親が倒れている現状では、私が村で唯一の薬師。私まで感染して倒れると村が全滅する可能性まであるのだ。


 結局、村人の約半数の人々と共に、両親も助からなかった。


 両親を亡くしてからも、この病気と向き合い一人で戦い続けた。そしてついに原因となっている菌を殺菌できる殺菌薬を作りだすことに成功した。その影響は大きく、ユグリナの村人はもちろん、周辺の村や街の人々の命を救った。それ以降も、薬師として自信と責任感と誇りをもって務めてきた。村人たちも信頼してくれて親しく声もかけてくれる。


 しかし、それでも限界を感じていた。

 薬師と回復士の違いって奴だ。

 薬師は病気の治療や症状の緩和はできる。しかし、怪我への対応は鎮痛剤の投与や化膿どめ、止血剤の投与など対処療法になる。怪我自体を根本的かつ早期に治せるのは、回復魔法が使える回復士なのだ。


 村の皆には言えない……皆、私を頼ってくれている。

 重傷者が出たら助けられないかもしれないなんて……言えるわけがない。


 ――――


 ふーー、嫌な夢だったけど、最後の焦りは夢が覚めても続いている。

 やっぱり、ブラッディベアのような狂暴な魔物が村に入ってきたらと思うと怖い。

 たくさん重傷者が出たら、薬師の私じゃあ間に合わないかも……


「あ! このブラッディベア、どうやって運べば……」


 うーーむ。やっぱ、私一人で運ぶのは無理だな。

 誰か村の人に手伝って貰うか…………


 よっこらしょっと。うむむ! 地面に寝てたから体中が痛い。

 うゎ! 薬草が……せっかく採取したのに枯れそうになっている。

 枯らすのと乾燥させるとでは、ぱっと見た感じは似ているが全く違うんだ。

 綺麗に洗って、余計な部分を切り捨てて、素早く乾燥させないと品質が落ちまくるんだ。

 あ、いや、それどころでは無い。急いで帰ろう!!


 ――――


 で、村に帰ったら、帰ったで大騒ぎになっていた。

 薬草採取に行くって門を出たのに定時になっても戻ってこない!?

 遭難か、魔物に襲われたか、盗賊にさらわれた??

 色々なことが想定されて村の守備隊と村人総出で捜索を開始しようとしていたよ。


 うん。マズイ。これは、マズイぞ

 ブ、ブラッディベアのお肉を皆で山分けにしましょうよ。な! な!


 うーーん。理不尽だ。結局、こってり怒られた。あのクマ野郎のせいだ。


 うぉーーっし! 思いっきり食ってやる!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る