第3話 襲撃 第一日目そして避難誘導
今晩は、なんだか外が静まり返っているように感じるな。虫も鳴いていないようだし、嵐でも来ないと良いけど。まぁ、良いや。寒い寒い。そろそろ寝るとするか。
テーブルの上に置いているランプの火を消してベッドに向かった。
ん?
どこかで、叫ぶような声がしたような……
いや、遠くで、何か聞こえる。西の
金属がぶつかるような音、大きな物が落ちるような音、さまざまな音がしている!
おお。なんだ、なんだ??
これは、何か起きているのか!? 寝ている場合じゃない? ……
あれ?? 静かになったな……大丈夫だったのかな? …………
ドンドンドン!
うぉしょい!!
びっくりした! 裏口側の扉だ。
この家は、通りに面している表側は薬屋を営む店舗になっていて、裏側が住居になっているんだが、わざわざ裏口まで回って扉を叩くってことはカイルだな?
あわてて、扉を開けると、やはり幼馴染のカイルだった。
「リナ!村が襲われている!」
「へ? 襲われているって……魔物?」
「盗賊団らしいぞ。北門付近に三十人はいるって。お父さんたち守備隊が向かったけど結構ヤバいって!」
「えっ、えーーー! も、門は大丈夫? 突破されたの??」
「落ち着けって。外で見回りしていた守備隊が西の
「じゃあ、門は平気なんだ。村に侵入されたのかと思ったよーー。最悪の状態では無いんだね」
ユグリナの村にも魔物の襲撃はあったけど、人間の襲撃なんて初めてだぞ。
守備隊って言ってもカイルのお父さん、ヨハンさんを隊長として九人しかいない。見習いのカイル入れても、たった十人だ。
昔、お父さんから
いやいや、賊は三十人、守備隊は十人だ。三倍の勢力差だぞ。
あ、マズイ。これは、マズイぞ。
と、とにかく情報収集だ……って私、寝間着だった。
「カイル、着替えて準備するから、ちょっと待ってね」
カイルを外に追い出してっと。
あわてるな、あわてるな。
とりあえず、戦闘になるかもしれないから、採取に行くときのようにフル装備だ。
カバンに持ち出し用の怪我の治療薬セットと解毒剤を詰め込んで、念のために睡眠薬も入れてっと。魔物の皮で作られた皮鎧を着て、背中には短槍を背負って、この薬カバンを肩から掛けてーー良し!
「お待たせ、カイル。村の皆は集会所に行くと思うんだ。わたしたちも行こう」
私たちは、詳しい状況を聞くために、村の中心部にある集会所へ走ることにした。村は南北に長くって、私の家は南側にあるから結構遠いんだよ。
はぁはぁはぁ。
だぁーー。やっと、集会所に着いた。さすがにカイルは息が乱れていないようだ。ちょっと悔しい!
おお、やっぱり集会所の中には人が集まっている。
どうやら、村長さんが中心となって村人たちと籠城の準備をしているみたいだが、ワサワサしていて話しかけれないな。
キョロキョロ見渡していると、お、ちょうど良い。
「ナジーラ、おーーい」
良かった。話が聞けそうな人がいた。
ナジーラは私より二歳年上で今年、成人を迎えたんだ。誰にでも優しく朗らかな性格だから皆の人気者だ。
え、私はどうだって?
私は病気や怪我したときには人気者だよ!
んなことは、良いんだよ。
「ナジーラ、戦況はわかる?」
「リナ、カイル……戦況まではわからないけど……さっき、役場のスタッフたちで村を抜け出して、隣町のマグリーナまで救援を求めに行ったの。マグリーナなら国防軍が居るから助けに来てもらうって」
「マグリーナの国防軍か、到着するまで三~四日はかかる……それまで守りきるしかないな」
村は魔物などの襲撃から守るため、村の周囲を頑丈な石の防壁で覆っていて、外との交通のため南北にそれぞれ厚い鉄板に覆われた門が設けられている。その門は単純に北門と南門って呼ばれている。
この防壁と門を使って侵入を防ぐしかない。
「うん、そうなの。それでねカイル。ヨハンさんが、北門に来てくれって言っていたの。」
カイルのお父さん、ヨハン・ローレルさんは若いころ国防軍に居たんだって、その頃から剣術に優れていたってお父さんやお母さんから聞いたことがあるんだ。そんなヨハンさんは、結婚してから村の守備隊の隊長を務めているんだ。
「カイル、ヨハンさんが呼んでいるなら行っておいで。私は大丈夫だから」
カイルは心配そうだったが、私が小さく頷くと集会所から走って出て行った。
「とりあえず、女性と子供は私の家の地下室に避難することになったから、これから村を回って呼びかけるの。リナも手伝ってもらえる?」
「うん。わかった」
私たちは二手に分かれて村人の避難誘導を行うことにした。
私は北側の家々を回り、ナジーラは南側だ。
手あたり次第に玄関を叩きながら声をかけて行った。
「大規模な盗賊団が来ています。女性と子供は、速やかに村長さんの家に避難してくださーい」
お、何軒かの家から子供を連れたお母さんが出てきたよ。やっぱり、皆も何者かの襲撃があったらしいとは聞いているけど、どのぐらい危険な状況なのか知らないもんね。
「リナちゃん。守備隊の皆さんがいれば大丈夫じゃないの?」
いつも腰痛の湿布を買いに来てくれるニータさんだ。
「いやいや、おばあちゃん。駄目だよ、ちゃんと逃げてよ。村長さんの家に行ってね」
「でも、腰も痛いから家に居た方が……」
「敵が三十人なら、守備隊でも村を守り切れるか……地下室に籠るって言っていたから、最悪、村に侵入される事も考えているんだと思うよ」
「はー。こんな村を襲っても、なんも無いのにねー」
ニータさんは、ぶつぶつと言いながら村長さんの家の方に歩いて行った。
うーん。そうなんだよな。三十人とかで襲っても利益は出ないよな。なんでこんなに非効率なことを……って、まあ盗賊なんてする人に、そんな事を考える人はいなのかな。
とりあえず、担当した範囲の家の声掛けは終わったし、このままカイルとヨハンさんの様子でも見て行くか。連絡が来ていないから、怪我人は出ていないと思うけど確認は大事だよな。北門の周辺には、村の外を見張るための櫓と守備隊の詰所があるから、そこにいるのかな?
あぁ、北の詰所には良く行ったな。別に悪さをして捕まったわけではないぞ。北門を出た先に山があるんだ。そこで狩りをしていた人や山の幸を取りに行った人が怪我をすると、北の詰所が一時的に救護所ってことになって、まぁ、それで呼ばれて応急処置をするって感じだよ。
おっと、今はどうでも良いな。
最凶の薬師と呼ばれた少女 ~敵だと? 治療の邪魔だ!!~ 比呂真 @hirodes4
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