最凶の薬師と呼ばれた少女 ~敵だと? 治療の邪魔だ!!~
比呂真
第1話 薬師の少女リナ
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エルディア王国の北西に位置する小さな村、ユグリナ。
高くそびえる山々に囲まれ、そこに潜む魔物たちの脅威と隣り合わせで生活している。そんな村に、薬師の少女が居た。彼女の名前はリナ・アレン。
彼女は幼いころから薬師の両親に鍛えられ、十三歳にして薬師としての知識と技術を身につけていた。
――――
だぁーー。しっつこいぞ!!
体当たりを避ける! 殴りかかってくる腕を――
鋭い爪のひっかき攻撃は、短槍の柄で受け流す!
追い詰められないように、常に円を描くように後退する。
あん!? 今、私は忙しいんだ。
分かるだろう? 襲われている真っ最中だ。
人の二倍はある巨体に、私の胴体ほどある太い手足。手には鋭い爪があり、おまけに太い腕から繰り出す馬鹿力は丸太さえ叩き切ることが出来る。もちろん人の体など、ひとたまりもない。
奴の名は、ブラッディベア。
私は、そいつに襲われた。ことの発端は、少し前に遡る。
――――
ここ数日、雨が続いたが、今日は天気も良く、秋晴れと言っても良い陽気だ。
私は意気揚々と村の近くの草原に来ていた。今日は、ここで、薬草採取と魔物捕獲の罠も仕掛けるつもりだ。
この草原は、所々に大きな岩や低木があって、さらには小さな丘に窪地まである。土地自体が起伏にあふれて、いい感じで日当たりのいい場所と日陰の場所とを作ってくれている。そのお陰で、日向の薬草も日陰の薬草採れるお気に入りの場所だ。
お、日向に育つ『ルミネ草』、これは鎮痛剤や解熱剤の原料になる薬草だ。そして、こっちは日陰が好きな『キキョウグラス』、これは咳止めの原料なんだ。毎年、冬になると風邪をひく人が多くなるから、今のうちには採取しておきたい薬草たちだ。
よしよし。順調、順調。
いやぁ、薬草採取って楽しいから、ついつい夢中になってしまうんだけど、衣類がドロドロになるのが欠点なんだよ。
まぁ、地面を這いずり回る私が悪いんだけどさ。
おっと、草藪の陰に止血剤の『月光の雫』が……
私よりも背の高い草藪の前で、黙々と薬草を取っていると、ふっと風が流れた……
んぁ? なんだ! うっぷ!
これは大型獣の匂いだな。風向きが変わって、どこからか匂いが流れて来た!?
ふむ。いつも来ている場所だからって油断しすぎか。
しょうがない。周辺の気配を探ってみるか……
げっ!! あ、マズイ。これは、マズイぞ。
めっちゃ近い。この草藪の裏側だぞ、間違いない!
うっわぁぁ。いつの間にか、風下から忍び寄ってきたんだな。
これは間違いなく、お昼ご飯に私を食べる気だよな。
うーーん。今更隠れてもバレバレだし、走っても逃げきれないよな。
戦うのは苦手だけど、そうも言ってられないか。
うぉーーっし! やってやろうじゃないか!!
動きにくい草藪の中を突っ切りはしないだろうから、あとは、右回りでくるか、
それとも左回りでくるか……
相手の動きに対応できるように、五感を研ぎ澄ませて……
グッ!
地面を強く踏みしめる音と同時に空気が動く。
えっ! 上か! 黒い影が空から飛びかかってきた。相手は草藪を飛び越えたのだ。
どうゎ! 思わず、反射的に地面を転がったから良かったけど、あっぶなー
「うわ! ブラッディベアだ……」
ただの野生動物じゃなくって、ガッツリ魔物じゃないか! これ、一人で戦うのかぁ、キッツイよな。はぁぁ、嘆いていても仕方がない、私一人で何とかするしかないんだけど。
私も、薬の原料になる小型の魔物や動物は狩ることはあるけど、そもそも私は小柄で体重も軽いから戦闘には向いていないってお父さんにも言われたなぁ。まあ、その代わりに、気配感知とか、身体強化とか、攻撃の受け流しなどなど、とにかく、避ける・躱す・逃げるに関しては、ガッツリ仕込まれたけど……
って、今はそれどころじゃあ無い!
「グゥオーーッ」
人間の二倍ほどある巨体のブラッディベアは、低い唸り声と共に、その太い腕を使い襲い掛かってきた。背中に背負った短槍を手に取り素早く構える。そう、これが私の武器だ!
で、冒頭の状態に至ったわけだよ。
まったく、避けても躱しても、攻撃してくるし。いつまで続くんだよー!!
かぁーーもう! ほんと、しつこい。
攻撃は躱せても、終わりが無い……困った。
こいつ、体力はあるし、走っても速いし、ジャンプ力もあるうえに馬鹿力。
おまけに魔導士泣かせの魔法耐性があるから初級魔法は効かない。さらに剣士泣かせの硬い毛皮で斬撃も効きにくいって、こんなの、一対一じゃなくって、複数の兵士で囲んで戦う魔物なんだぞ!!
このまま持久戦じゃあ勝てないし、うまく逃げて撒くことが出来たとしても、こいつが村に行くかも知れない。そんなことになったら、絶対、怪我人が出る。あぁそうだな。村に行かせるわけにはいかないよな。
やっぱり、ここで倒すしかない!
とは言っても、短槍の技術だけ倒すのは難しいよな。ここで攻撃に転じると間違いなく隙が生まれて殺されるのは私の方だ。
ん? 魔法は使えないのかって思うだろう!?
うん。自慢じゃないが、私の攻撃魔法は全く役に立たない、初級にも届かない生活魔法レベルだ。
いや、本当に自慢じゃあないな……
だが、しかし、防御魔法に関してはお父さんから叩き込まれたから使えるんだ。
まずは、身体強化!!
防御魔法の一種である身体強化だ。これでスピードと力を――爆上げ!
そして、最後の切り札は……
肩に掛けているカバンから薬瓶をまとめて数本取りだす。
これはホーンラビットの罠のために、今朝、調合したばかりの睡眠薬だ。この薬を全部使っても、大型の魔物、しかもブラッディベア相手に足りる? というか、そもそもブラッディベアって睡眠薬が効くのか?
はぁぁ、きっと、試した人なんていないよな??
でも、やるしかない!
ブラッディベアは、ちょこまかと躱す獲物(私)に苛立ったのか、二本足で立ち上がり威嚇してきた。
うぉーーっし! なめんなよ、クマ野郎が!!
奴に目掛けて全ての睡眠薬を投げつけた。薬瓶が奴の腕や顔に当たって割れる。
奴の動きが一瞬だけ止まったぁーー!
短槍をしっかりと両手で構え、身体強化を使った全力疾走!!
奴の腕が……私目掛けて振り下ろされてくる。そこを掻い潜って!
槍先の一点に……まっすぐになるように……走る勢いと全体重を――いっけぇぇ!
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