勇者のまねごとを見届けて。

茶葉

第1話 すべての終わり。

死ね、死ねよ、俺なんて死んでしまえ。


だが、死ぬ勇気などない。だから、ただの生きているという罪悪感と苦しさ、億劫さがドス黒い色となって、体の中で、心臓の中でグルグルと渦巻いている。


ただただ気持ちが悪い。


吐きたい。


だが、吐き出せる物なんていうものは彼の中には残っていなかった。


ああ、なんで、なんでこうなっちまったんだ。


絶対、生きていなければならないのは、俺じゃない。


俺じゃないんだ。


俺じゃ、ないんだよ。


ああ、あああああああああああああああ!


彼は頭を手で抑える。


何もかもが灰になった地面にうずくまる。


あの言葉が、あの彼女の言葉が、彼の中で、彼の頭の中で、湧き上がる水のように、思い出される。


「もう追い込まないで。もう自分を責めないで。もう、もう、いいんだよ。自分が生きたい道に向かっていいんだよ。テネブル。私は、私たち家族はあなたを愛してるわ。」


手が震える。


頭が痛くなる。


目から、その黒く汚れた瞳から、ぼとりぼとりと透明な玉が落ちる。


止まらない。


俺は生きていいのか?


こんなにも、こんなにも、…………


急に力が抜けていく。


体が動かせない。


なぜ?


俺は今、ほんの一瞬だけ前に向けられたような気がしたというのに。


俺は死ぬのか?


手の震えが、全身へとまわる。


体が震えている。


頭痛がひどくなる。


痛い。痛い。寒い。寒い。


俺は、どうなるんだ?


ああ、ごめん、俺、俺に抗えないんだ。


やっと、やっと、解放されたのにな。


最後の最後まで、俺は自分に勝てない。


彼はどうにか仰向けになった。


彼は、震える右手を右腕を、震える左手で抑えながら、黒い雲の間から差し込む光に手を伸ばす。


彼の人生で初めて、彼は光に手が触れた瞬間だった。


彼の顔には、今までには見せたことのない、誰にも見せたことのない、笑顔が溢れていた。





空を飛ぶ白い鳥の瞳に彼の姿が映る時、彼の右手が地面の灰に触れる。






『悪魔の子、テネブル・ムーティス。この地、ヘリレドで永遠に眠る。』


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2024年12月25日 20:00

勇者のまねごとを見届けて。 茶葉 @tyara

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