…
「どうして今になってオレの前に現れた?」
「聞きたい?」
「聞きたくない」
オレが歩き出すと、彼女は慌てて「ち、ちょっと待ってよ!」と手を伸ばして、オレの袖をつかんでくる。
どうせまた、何か面倒を持ち込んできたのだろう。
彼女は何か都合が悪くなると、オレの前に現れるのが通例だ。
「よそを当たってくれ」
オレは電車の来る方を見たまま言った。
「そんなつれないことを言わないでよ」
「よくそんなことが言えるな。ヒロミの方だろ、去っていったのは」
「今のあたしには、あなたしかいないの」
オレは黙っていた。この言い方も彼女の常套手段である。そうやってオレの気を引こうとしている。
そう何度も、やすやすと彼女の手に乗る訳にはいかない。
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