「他の奴に頼め。オレは忙しい」

「あなたじゃないと、ダメなの」

「なぜだ?」

 ヒロミは胸元の金色に光るペンダントトップを握ると、臆面もなく、こう言ってのけた。

「あなたなら、あたしを裏切らないから」

 オレは思わず鼻で笑った。

 もう、オレはあの日のオレではない。


「何が可笑しいのよ?」

「ほんと、大した自信だ」

「馬鹿にしてるの?」

「いや、感心しているんだ」

「相変わらず皮肉屋さんなのね」


 そう、皮肉を垂れる性分の半分は多分オレの育ちに由来しているが、もう半分はおそらくこの女のせいだ。

 皮肉を口にすることで、苦々しい記憶を辛うじて笑い飛ばす。

 オレは常日頃、そういった努力を払っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る