桜、あなたを想う

「桜を見ると切なくなる」とあなたが言う。

 「こんなに綺麗なのに何故?」と私は思う。


 「理由はわからない。でも切なくなる」とあなたが言う。

  儚げな顔で桜の木を見上げるあなた。

 

「そなたと桜を見るのはこれが最後じゃ」とあなたが言う。

 季節は暖かいはずなのに……私の心は真冬のように冷たい。

  

 綺麗な着物を身にまとい石畳を歩くあなた。

 あなたの手を引き迎えの籠にお連れする。


 「桜を見たら、思い出してほしい。伴に過ごした日々を……」

 凛とした表情で籠に乗り込むあなた。

 「姫、お幸せに……」私は声を振り絞り声をかける。

 「ありがとう……」これが私があなたと交わした最後の会話。


 砲弾の音が聞こえる。燃え盛る炎、人々の悲鳴、刀を交える音、

 振り向いた先には光る日本刀。それが一気に私の体に線を引いた。

 一瞬であたりが真っ暗闇になった。

 これが私が見た最期の記憶。

 

 「夢か……」と俺は目が覚める。

 「やべぇ、遅刻だ。」ぎりぎり家をでて道を走る。

 息を切らし走る先に見えたもの……そう、満開の桜の木。

 

 桜の木の下に立ち止まり息を整えながら

見上げる俺。

 「桜を見ると切なくなる……」と俺は思う。

 理由はわからない。だけど、「せつなくなる」

 

 「綺麗な桜ですね……」と声がした。

 振り向くと桜の木を見上げた君が俺に話かける。


 とおい昔のおぼろげな記憶が蘇る。


 「ええ、そうですね。よかったら俺と一緒に見ませんか?

   これかもずっと……ずっと」

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