第5話 味覚の精霊テイスト

 ひかるが森の中を歩いていると、どこからか甘い匂いが漂ってきました。目を凝らして進んでいくと、目の前に色とりどりの果実が実る大きな木が現れました。その木の下には、小さな妖精のような存在が待っていました。


 「こんにちは、ひかる!私は味覚の精霊、テイストだよ。今日は一緒にいろんな味を楽しもう!」


 テイストは丸い体にカラフルな模様があり、周りにはふんわりとお菓子のような甘い香りが漂っています。


 「いろんな味?どういうこと?」


 ひかるが尋ねると、テイストはにっこり笑って答えました。


 「味覚には、甘いだけじゃなく、酸っぱい、苦い、しょっぱい、いろんな味があるんだ。それはね、君の人生の経験にも似ているんだよ。」


 テイストが差し出したのは小さな皿に乗った真っ黒な果実でした。ひかるが恐る恐る口にしてみると、思わず顔をしかめるほど苦い味が広がります。


 「うわっ、これ苦すぎるよ!こんなの、全然おいしくない!」


 テイストは笑って言いました。「確かに苦いけれど、それは君がこれまで経験してきた苦しいことや悲しいことと同じ。味わってみることで、そこから学べることがあるんだよ。」




 テイストはひかるを木の根元に座らせました。そして、一枚の葉っぱを見せながらこう言いました。


 「ひかる、この葉っぱに君がこれまで経験してきた苦しいことを書いてみて。」


 ひかるは少し考えてから、友達との喧嘩や失敗して恥ずかしかった出来事、怒られて悲しかったことなどを葉っぱに書きました。


 「こうして書いてみると、いろいろあったんだな…。」


 「そうだね。でも、苦い経験も君を成長させてくれる大切な味なんだよ。」


 テイストはひかるが書いた葉っぱを手に取り、魔法のようにふわりと浮かべました。すると、葉っぱが輝き始め、少しずつ黄金色に変わっていきました。


 「苦い経験も、こうやって学びに変えることができるんだよ。君がその経験から何を感じて、何を学んだのかを考えてみて。」


 ひかるは考えました。「友達と喧嘩したけど、そのあと仲直りできた。僕がちゃんと謝ったからかな…。あと、失敗したことで次はどうすればいいか分かった気がする。」


 「その通り!経験は、味わうことで次のステップに繋がる大事な教えになるんだよ。」




 テイストはひかるを果実の木の中へと招き入れました。そこには、たくさんの種類の果実が実っていました。甘いもの、酸っぱいもの、香り高いもの…。


 「さあ、今度は新しい味を試してみよう!」


 ひかるはさっきまでの苦い果実とは違い、甘い香りのする果実を口にしました。すると、心がホッとするような気持ちになりました。


 「これ、美味しい!なんだか幸せな気分になるよ!」


 「そうだろう?人生には新しい味や感情を楽しむ瞬間もたくさんあるんだ。心に新しい味を加えることで、これからの君の毎日がもっと豊かになるよ。」


 テイストは続けました。「甘い味だけじゃなく、いろんな味をバランスよく取り入れることで、心も体も元気になるんだよ。」


 ひかるは木の実を次々に味わいながら、自分の中にいろんな感情や経験があることに気づきました。それはどれも、自分を豊かにしてくれる大切なものだと感じました。




 冒険が終わるころ、テイストはひかるに一つの果実を手渡しました。それはこれまで見たことがない不思議な果実です。


 「ひかる、この果実は未来の味だよ。君がこれからどんな経験をするかで、この果実の味が変わるんだ。」


 「未来の味…?それってどんな味になるんだろう?」


 「それは君次第さ。これからもいろんな味を楽しんで、自分だけの物語を作っていってね。」


 ひかるは果実を大事に握りしめ、深く頷きました。「ありがとう、テイスト。僕、これからどんな味でもちゃんと味わっていくよ!」


 こうして、ひかるは味覚の精霊テイストから大切な教えを受け取りました。次の精霊との冒険では、また新しい自分に出会えることでしょう。


 ひかるの旅は、まだまだ続きます!

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