第3話 触覚の精霊タッチ

 ある日、ひかるは心の中に小さな「痛み」のようなものを感じていました。何かが胸の奥に引っかかっているようで、モヤモヤして落ち着かないのです。


 「なんだろう、この気持ち…。なんだか胸がチクチクするみたい…。」


 そんなとき、森の中に散歩に出かけたひかるの前に、ふわりと柔らかな光が現れました。その光は次第に形を取り、小さな存在になりました。


 「こんにちは、ひかる。私は触覚の精霊タッチ。君の心の痛みを癒すお手伝いに来たんだよ。」


 タッチの姿は、まるで毛布のように柔らかく、温かそうな色合いをしています。その優しい雰囲気に、ひかるは少し緊張が解けたように感じました。


 「心の痛み…?どうして僕の胸がモヤモヤしてるのか分かるの?」ひかるが尋ねると、タッチは頷きました。


 「心にも傷がつくことがあるんだよ。それは悲しかったり、寂しかったりしたときに生まれるんだ。でも安心して、触覚の力でその傷を癒すことができるんだよ。」


 タッチはひかるの手を優しく取ると、言いました。「さあ、一緒に心の傷を癒しに行こう!」




 タッチに導かれて、ひかるは「やさしさの湖」という場所にやってきました。その湖は静かで穏やかで、周りには温かい光が漂っています。


 「ここは、心の温かさを取り戻す場所だよ。まず、ひかるが最近感じた悲しかったことを教えてくれるかな?」タッチが優しく尋ねました。


 ひかるは少し考えてから答えました。「うーん…。この間、友達に冗談で意地悪なことを言われて、ちょっと悲しかったんだ。でも、言い返せなくて…。」


 タッチは頷きました。「それは心がチクチクしちゃうね。でもね、ひかる、友達とのつながりはとても大切なんだよ。どんなときも、まずは君自身がそのつながりを大切に感じることが大事なんだ。」


 「つながりを感じるって、どういうこと?」


 タッチはひかるにそっと触れました。「例えば、誰かと手をつないだとき、抱きしめられたとき、温かさを感じるでしょ?それがつながりなんだ。言葉だけじゃなく、触れることで心が通じ合うこともあるんだよ。」




 タッチは湖のほとりに座るようにひかるを誘い、そっと手を湖の水面に触れさせました。水は驚くほど温かく、その温かさがひかるの手から胸の中へと広がっていきます。


 「この温かさはね、君の中にある『やさしさ』そのものなんだよ。」タッチが微笑みながら言いました。「自分を癒すには、まず自分の中のやさしさを信じることが大切なんだ。」


 ひかるはその言葉に耳を傾けながら、自分の中に広がる温かさを感じました。その温かさは、先ほどの友達との出来事を思い出しても、少しずつ痛みを和らげていくようです。


 「でも、友達に言い返せなかったのは、弱いからじゃないかな…?」ひかるがつぶやくと、タッチは首を振りました。


 「いいえ、ひかる。それは弱さではなく、思いやりだよ。相手を傷つけたくないという気持ちが、君を止めたんだ。その優しさを忘れないで。」




 「ねえ、タッチ。どうしたらもっと温かさを感じられるの?」ひかるが聞きました。


 タッチはにっこりと微笑みました。「それなら簡単な練習をしてみよう!両手を自分の胸に当ててみて。そう、それでいいよ。そして、自分にこう言ってみてね。」


 「『僕は大丈夫。僕はやさしい心を持っている。』」


 ひかるは少し照れくさそうにしながらも、タッチの言う通りにやってみました。すると、不思議なことに、胸の中がぽかぽかと温かくなっていきました。


 「これ、なんだか気持ちが軽くなるね!」ひかるが嬉しそうに言うと、タッチは頷きました。


 「その温かさは君の力なんだ。心が傷ついたときも、この温かさを思い出して、自分を癒してあげてね。」




 心の傷が少しずつ癒えていくのを感じたひかるは、改めて友達と向き合おうと思いました。「タッチ、ありがとう!僕、明日学校で友達に話してみるよ。」


 タッチは優しく微笑みました。「ひかる、それはとても素晴らしいことだよ。人とのつながりを感じることで、君の心も相手の心も温かくなるんだ。」


 こうして、ひかるは触覚の精霊タッチとの冒険を終え、心の温かさを取り戻しました。次の精霊との出会いでは、どんな力を手に入れるのでしょうか?


 ひかるの旅はまだまだ続きます!

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