終話 遅れてきた平穏−オベロン視点−

 それからはあっという間だった。ティニーの祖父であるエイムズ卿が人間族の代表として妖精族の代表である私との間で友好条約を締結。


 ディザリエ国王は今回の騒動以前から、その悪政により民からの信頼は皆無だった。そのため、国民らはその呪縛の解放に皆喜んでいた。

 残された王妃は何も知らなかったためとばっちりになってしまい可哀想であったが、彼女は王族としての責任を取りたいと言ってその地位を返却。実質上のディザリエ王国の滅亡である。その後腹を切る覚悟であったため、皆で全力で止め、その覚悟を新しい国のために役立ててもらえるよう、議員としての地位に着かせた。


 新しい国というのは“新生ユグドラシア共和国”の事である。

 世界樹と旧ユグドラシア領土の幻術を全て解き、我々妖精族は皆旧ディザリエ城下町へと移り住んだ。

 人間も妖精も耳の形が少し違うだけで見た目にほとんど差異はないため、両者の溝はすぐに埋まった。我々が図々しくも城下へ進出してきた事に人間側の不満はないかと心配もしたが、人間も人間で「今まで悪魔だと思っていて悪かった」と、反省する点はあったようだ。


 そして人間側からの要望で、邪心のない魔物らも城下に住んではどうかと言ってくれたので、希望する魔物のみ城下へと移り住んでもらった。魔物にとってヒトの社会での生活は初めてであったが、皆すぐにその暮らしを理解し、金を稼ぐために仕事を始めた。


 大きな熊の身体を持つジャイアントグリズリーは、その体格とパワーを活かして建築の職に就いた。

 ポイズンマッシュの毒は人間の研究のおかげで強力な回復薬になることが判明し、今では街で一番大きな道具屋のマスコットキノコである。

 中でも一番面白いと思ったのは、タナトス君の仕事だ。彼の職業は“悪夢の掃除屋”。悪夢に悩む人から依頼を受け、その悪夢を吸い取るのが彼の仕事だ。彼に悪夢を吸い取ってもらった人は皆ぐっすり眠れるようになり、その評判は口コミでどんどんと広がり、今では予約3ヶ月待ちの超人気店だ。


 国の方針は大統領と議会で決定され、私はそのどちらにも属していない。あくまで国を創っていくのはその国に住むヒトと魔物。そんな願いを込めて共和国という形にした。


⸺⸺あれから20年。


 ティニーは27歳になったが、見た目は人間の15、6歳といったところだろうか。人間族の容姿をしているが、我々妖精族と同じように長生きしそうだ。


 そして彼女は世界樹の麓にある“魔法・魔導開発研究所”の初代所長であり、彼女の自由気ままな開発によりこの島全体の暮らしは格段に豊かになった。


 島の上空でそんな想いにふけっていると、私の魔道通信器がピピピと鳴った。タッチをすると目の前の空間に画面が現れ、元気そうなティニーとタニアと“くまのぬいぐるみ”の顔がドアップで映った。

「お父様!? 今どこ!?」

「今か……今は空だね」

『おっ、空なら丁度良いじゃない』

「うん? 何かあったのかい?」

「うん、超ヤバイ魔導具が出来ちゃった!」

『超ヤバイです! クソヤバイです!』

 そう言ったのは世界樹の意思。今はくまのぬいぐるみにその意思を宿し、ティニーに命名され、“ユグ”と名乗っている。

「ティニー、ユグ。ヤバイという言葉は実に曖昧な言葉でね、どうヤバイのか説明してもらわないと……」


 やれやれ、全くうちの子は世界樹の語彙ごいをどんどん崩壊させていくんだから……。


「お父様ー!」

『オベロン様ー!』

『オベロンー!』


 そう呼ばれて下を見ると、私の背中についている羽とそっくりの羽を生やしたティニーが、くまのぬいぐるみを抱えてタニアと共に私の目の前まで飛び上がってきた。


「どう? お父様、お父様とお揃いの羽の魔導具だよ。ヤバイでしょ?」

 そう天使のように満面の笑みを浮かべる我が子を目の当たりにして、私の語彙も崩壊した。

「あぁ……クソヤバイな……」


 見ているかい、フィオナ。少し時間はかかってしまったが、君の望んだ共存という平穏は、今確かにここにあるようだ。


⸺⸺おしまい⸺⸺

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私、妖精王の娘ですけど、捨てちゃって大丈夫ですか? るあか @picho

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