第6話 熊蟄穴【くまあなにこもる】

雨野千晴様


拝啓

 本年も余日少なくなってまいりました。

 いかがお過ごしですか。


 さて、先日のお手紙には、揺らがない【自分】が欲しいとのことを書かれていましたね。


 嫉妬や羨望を抱くのは私だってそうだ、と書くと、今の雨野さんには嘘っぽく感じるでしょう。


けれど、そうやって上ばかり見ていてもきりがないのです。文学の世界には、偉大な先達が大勢いますし、異才の後進がこれまた大勢います。しかし、そのなかで、日の目を見ずに消えていった作品や作家はそれよりも多いのも、また事実です。


 自分やその作品をその末席に加えてもらうという気持ちでいればいいのではないでしょうか。その評価をされるのは、自分が死んだあとだと思っていればいいのです。


 小説を書くことが【好き】という気持ち。

 その気持ちを大事に、書き続けること。

 そうして書き続けていれば、いずれ【自分】が確立していくのではないでしょうか。


 忙しない師走。心身ともに調子を崩しやすくなる時期です。雨野さんにおきましても、体調に気をつけて、ご自愛ください。

                            敬具


  202×年12月12日

                          降谷小雪

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