第10話 モブ、攻略対象を初めて見る
ハンクと一緒に外に出ると既に生徒たちが何人も正門脇に並んで立っていた。
王族が相手だから上級生とかも関係なく出迎えに来るらしい。
だから多分この学園で重要なのは身分>立場>年齢>実力の順番なんだろうな。
つまり家柄もなく、推薦もなく、新入生な俺はこの学園で最も下っ端ということになる。
(まあ別にいいけどな。この学園で大成したいわけでもないし)
俺とハンクは既に出来上がっていた列に並ぶ。
続々と生徒たちが各寮から出てきて並び始める。
なんか王族を出迎えるために強制的にこういうことをするって日本じゃあまり考えられなから本当に別世界に来たんだなって感じがする。
「王子殿下のおなりだ!全員最敬礼!」
この世界では頭を下げひれ伏すのが最敬礼ではなく気をつけをし、腕を後ろで組むこと。
俺達は一斉に最敬礼の姿勢を取った。
すると奥から一台の馬車がやってきて止まる。
見るからにお高い馬車でありそこにはクリミナル王家の紋章までついている。
扉が開き、1人の男が馬車から降りてきてしっかりと武装した二人の騎士が横に控える。
「みな、ご苦労」
そう言って男は歩き出す。
フリージア学園の制服を来ているにも関わらずその輝かしい金髪と碧眼、そして長身の体は細くも引き締まり明らかに他の人とは纏う雰囲気が違う。
(なるほど……あれがクリミナル王国の第一王子、そしてマジロマにおけるメインの攻略対象アレック=クリミナルか……)
アレック王子は
王家のしがらみや習わしに飽き飽きとして憂鬱な日々を過ごしていたときに、平民出身でいつも明るく眩しい笑顔を見せてくれるヒロインに惹かれた、みたいなストーリーだったはずだ。
まあまだヒロインとは出会っていないだろうしどうせ内心つまらないとか思ってそうだな。
(おい、エドワード。殿下ってすげーイケメンだな……俺初めてみたけど貴族令嬢たちがこぞって婚約したがるのもわかるなぁ……)
(喋って怒られても知らんぞ。大人しく黙っておけ)
隣にいるハンクがコソコソと話しかけてくるがこんなところを見られたらまずロクなことにならない。
俺が釘を刺すとハンクは興味深そうな目をアレック王子に向け、黙り込んだ。
だけどアレック王子って本当にイケメンなんだよなぁ……
ゲームでも当然イケメンだしそれを現実にそのまま持ってきたって感じはするんだけど絵以上にイケメンに見える。
遠目からでも芸能人オーラ感じちゃうし、顔が小さくて手足も長い。
一度でいいから俺もああいう人生を送ってみたいものだよなぁ……
(他の攻略対象は……見当たらないか。まあいくら攻略対象とはいえ、王子に勝る身分の人はいないからな。この状況で堂々と出てくるほど図太くはないか)
マジロマの攻略対象は7人。
多すぎやろ、とツッコミを入れたいところだが逆ハー総取りエンドやバッドエンド、複数の攻略対象と結ばれるエンドなどエンドの数だけで見ると更に多岐にわたる。
俺の場合は、マジロマを買いたてのときに色々試しながらやってたらいつの間にか終わってたバッドエンドと各攻略対象とのエンドしかプレイしていない。
だがまあそれだけでもキャラの魅力は伝わってくるし、マジロマのファンとしてキャラの姿を一目でも見てみたい気持ちはあるのだ。
「はぁ……終わったな。エドワード、部屋に帰ろうぜ」
「ああ、そうだな」
なんにせよ今日できることは何も無い。
同じ学園に通っているのだから一度くらいは遠目に見ることはできるだろう。
俺は男趣味じゃない一度見れたら満足だ。
どっちかというと攻略対象より女の子たちを見たい。
(まあ、いずれは王子に接触しないといけないんだけどな……)
勝算はある。
そして俺にはこれ以上何かを準備することはできないのだ。
後は全てを天に任せるのみだ。
◇◆◇
フリージア学園に入学して一週間ほど経った今日このごろ。
一番下のクラスであるD組に配置された俺だが平民組は漏れなくこのクラスだし、他には貴族推薦の平民かやる気が無く全く登校してこない下級貴族ばかりのクラスなので特段困ったことは何も無い。
一応担任の先生も平民出身だしな。
「思ったより快適だったなこの学園。設備も一番下のグレードのものしか使えないけど俺達からしたらめちゃくちゃ豪華だしな」
「俺なんてあんなに美味い料理は食べたこと無いぞ」
ハンクと一緒に廊下を歩きながら話す。
ハンクには既に俺が何の変哲もない平民の子で学費とかも自分で稼いだことを話している。
最初に俺に親父に入れと言われて入学しただなんて無礼なことを言ったと謝ってきたが俺が特殊ケース過ぎるだけなので特段気にしていない。
だからこそそんなハンクから見ても豪華なら俺からすれば超豪華である。
不満なんて一つもない。
「でも俺はエドワードが作る料理も好きだぞ」
「いきなりなんだ?金でも貸してほしいのか?残念ながら貸せるお金はうちには無いぞ」
「ちげーって。普通に美味しいと思ったから言ってんだよ」
ハンクが宿題が終わらないと嘆いていたときに夜食を作ったことがあってハンクはそれをいたく気に入ったらしい。
卵焼きというthe庶民料理だが逆にそれが良かったのかもしれないな。
寮内にスーパーみたいなデカさの購買に売ってる材料もすごく良いものばかりだったし。
「また機会があれば作ってやるよ」
「まじで!?よっしゃ!じゃあまた宿題はやらずに残しておこう!」
「ダメだ。宿題はちゃんと片付けろ」
夜食のために宿題やらないとかアホか。
こいつの場合冗談でもなんでもなく本当にやりかねないからこうやって一回一回釘を刺さないといけない。
ただ学生ってこんなに辛かったっけ……
この学園の宿題が多すぎるのもあるだろうけど社会人とはまた違った大変さがあるよなぁ……
(まあ仕事するよりはいいけどな。こうして一度社会人を経験すると学生時代がどれだけ貴重かって実感するよなぁ……)
「お、おい。エドワード、見ろよ。すっげえ美少女がいる」
廊下を歩き続け、中庭に差し掛かったころハンクがそんなことを言いながら軽く肘でつついてくる。
つられて目を向けると驚きで目を丸くした。
特徴的なピンク色の髪の毛を背中くらいまで伸ばし、その目鼻は恐ろしいほど造形的で整っている。
そしてマジロマをプレイしていたときに最も見たことがある顔だった。
(おいおい……!
そこにいたのはこの世界の最重要人物、後にバッドエンド以外では光の巫女として世界を救うことになる少女、ジェシカだった──
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お待たせしました、次の話から本当の意味で本編が始まります(予定)
前作はタイトル詐欺って言われることもまあまああったんで今回はそうならないように頑張ります。
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