第9話 モブ、初の学友ができる

そしていよいよ入学の日が近づいてきた。

フリージア学園は全寮制なので俺も寮に入ることになる。

学園が3年制とは言え、しばらくハラルアを離れなければいけない。

でも長期休みとかは帰ってこれるのかな?


「いってらっしゃい、エド」


「うぅ……!お前は本当に自慢の息子だよ……!エド……!まさか自分で勉強や鍛錬するだけでなくまさか学費まで自分で稼ぐなんて……!」


母は少し涙ぐみ父は大号泣している。

槍を売りすぎたせいで武器屋のおっちゃん経由で両親には街の外に出ていることも割と早い段階でバレた。

だけど両親にしっかりフリージア学園に行きたいことを膝を交えて話し、たくさんの話し合いを経て両親は同意を示してくれた。

本当に子供に理解がある両親で嬉しいよ。


「辛かったらいつでも帰ってきていいんだよ。私とお父さんはいつだってエドの味方だから」


「おうとも……!できるだけやってこい!お前はもうすごい奴なんだから……!」


「うん、ありがとう。父さん、母さん。みんなも本当にありがとね」


この場には両親だけでなく、種をくれたお爺さん、槍を売った武器屋のおっちゃん、槍を売った道具屋のおっちゃん、槍を売った旅の商人、槍を売った防具屋のおっちゃんを始めとした交流があった街の人達が集まってくれていた。


「当然ってもんよ。坊主から槍を買い取るために金を集めるのに相当苦労したが親孝行のために学費を稼ぎたいってんじゃあ断れねえよ」


「まさかあのペースで槍を売りに来るとは思いませんでしたよ。まあおかげで儲けさせていただきましたがね」


「あはは、ありがと。そう言ってくれると助かるよ」


俺は正直苦笑しかできない。

結局槍は数え切れないほど買い取ってもらった。

ゲームだと無限に売れたけど現実では相当厳しかったみたいだ。

協力してくれて本当に感謝しか無い。


「それじゃあみんな!いってくるよ!」


俺が手を振って歩き出すとみんな手を振り返してくれる。

俺は前を向き、フリージア学園へ向かうのだった──


◇◆◇


(やっぱりいつ見てもでかいよなぁ……あとテンションが上がる……!)


馬車に乗り、入試のとき以来の数カ月ぶりのフリージア学園に戻って来る。

やはりここは主人公たちの本拠地なだけあってマジロマファンにとっては聖地だ。

そんな場所で俺が生活してもいいのかと思ってしまうが俺もフリージア生の一員。

校訓に怪しい雲行きしか感じないがもう後には戻れないのだ。


「さて、まずは俺が住む部屋に荷物を置いてこないとな。俺の寮は……D館か」


俺は校門で受け取った紙を見ながら自分に割り振られた寮と部屋を確認する。

D館はゲームで必ず訪れる場所ではないしシステム的にも入る事ができない。

ゲームの裏側を覗いているようでワクワクするが同時に少し怖い気もする。


俺はD館に入ると自分の部屋を探して歩く。

こういうの探すのってゲームだと得意だけど現実じゃあまり得意じゃないんだよな。


「俺の部屋はっと……あ、ここかな」


紙に書かれている部屋番と扉に書いてある番号はしっかりと合致している。

寮の一階で管理人に受け取った鍵を鍵穴に差し込みドアノブをひねる。

そして中に入ると思った以上に綺麗で広い空間が広がっていた。


(へえ、思った以上にちゃんとしてるんだな)


「ん?誰だ?」


俺がキョロキョロと部屋を見回していると突然後ろから声をかけられる。

見るとそこには俺と同年代で明るい茶色の髪が特徴的な男が立っていた。

もう雰囲気にも性格が明るい奴って書いてある。


「俺はエドワード。この部屋に泊まれってさ」


「おお!お前もか!俺はハンク。お前と同じく今年からフリージア生になった新入生さ!これからよろしくな、エドワード」


そう言ってハンクは握手を求めてくる。

想像通り距離を詰めてくるのが早いやつだったがそういうノリは嫌いじゃないし、これから一緒の部屋で暮らしていくんだから仲が良いに越したことはない。

俺もガッチリとハンクの手を握り返した。


「ああ、よろしく。ハンク」


「取り敢えず荷物置きたいだろ?こっちだ」


そう言ってハンクは割とスペースがある場所に案内してくれる。

荷物の整理がしたかったからこう広々とした場所を使わせてくれるのはありがたい。

早速と言わんばかりに俺が服を棚にしまい始めるとベッドに腰をかけたハンクが話しかけてくる。


「なあ、エドワードってどこ出身なんだ?」


「俺はハラルア生まれのハラルア育ちだ。お前こそどうなんだ?」


「俺は王都生まれなんだよ。だからあんまり変わらないかなって思ってたんだけどいざ寮に入ってみるとテンションめっちゃ上がるな」


そう言ってハンクは楽しそうに笑う。

クラスに1人はいる典型的な陽キャだな。

俺はどっちかというと旅行とかより普段と変わらない日常が好きだったりするがそんな俺でも少し昂揚してる。


「まあ学校生活は色々と大変なんだろうなー……平民出身は肩身が狭いってよく聞くし」


「それでもフリージア学園に入ることに決めたのか?簡単な道じゃなかっただろうに」


「一応俺の家は貴族とか上流階級とかそういう相手に商売をしてる商会を営んでるんだ。だから人脈づくりのために親父が入れってうるさくてさ……」


「はは、それで入れるならすごいじゃないか」


倍率40倍だしな。

理由はどうあれそれを勝ち取ったのだからすごいものだろう。

ハンクが相当に優秀な証だ。


「あ、そう言えばそろそろ外に出ないとな」


「ん?何かあるのか?」


「バカ、そろそろ王子さまたちが来るんだよ。俺達平民はその出迎えにいかないといけないってわけだ」


……思った以上に面倒くさいな。

ゲームの描写で王子たちが初めて学園に訪れたとき周りに人がいっぱいいたのは演出とか任意じゃなくて伝統という名の強制だったのか。

でもまあ流石に話しかけることは無理でもひと目見てみたいという想いはある。

ゲームの登場人物に直接会えるなんてゲーマーの夢じゃないか。


「ほんと、面倒な伝統だよな。まあでも俺達に断る権利なんて無いし、貴族たちに目をつけられるよりは百倍マシだから結局行くんだけどな」


「俺の準備も一段落ついた。そろそろ行くか」


「おー。だるいけど帰ってきたらこれから一緒に頑張りましょうってことで乾杯でもしようぜ」


「ああ、そうしよう」


俺とハンクは扉を開け、王子たちの出迎えに行くべく正門の方へと向かうのだった。


◇◆◇


「アレック殿下。まもなく学園に到着いたします」


「ああ、ご苦労」


(つまらぬな……学園など憂鬱なことしかなかろうに……)


眠たげなクリミナル王国第一王子の目はつまらなさそうに馬車の窓から見えるフリージア学園を見つめるのだった──

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