第8話 モブ、試験に挑む
フリージア学園の入試に集まった受験生の人数は約200人。
やはり入学金が高いだけに身なりも良さそうな奴ばかり集まっている。
俺は特段装備や服は新調していないので普通の安物の服である。
まあ両親が買ってくれた大切な服なので恥じる気持ちは全く持って無いけども。
「受験生は来た順番にシールを受け取りこっちに並べ!」
教官らしき人が声を張り上げている。
俺はそちらに向かいナンバーシールを受け取るとある教室に行くように言われた。
フリージア学園の校内はゲーム中死ぬほど移動してきたので頭に問題なくマップは叩きこまれている。
俺は迷わずその教室に行くと既に何人かの受験生が来ていた。
(おいおい……どんな目つきしてるんだよ……もはや殺し合いの直前みたいな雰囲気じゃないか……)
全員目がギラついている。
だがそれもしょうがない。
受験生が約200人ほどなのに対してフリージア学園の平民枠は5人。
フリージア学園は1学年で100人ほどだが平民枠の5名以外は全て貴族令息、貴族令嬢、使用人、貴族の推薦者で埋め尽くされる。
どんな不公平な学校だよと言いたくなるがそういう決まりなのだからケチを付けてもしょうがない。
大豪商とかだと貴族に多額の賄賂を送って推薦してもらったりするんだろうけど俺は入学金を用意するだけで精一杯だし変な貴族と関わりを持つことになったら嫌だしな。
普通に勝負だ。
そうこうしている間に受験生が揃い、試験の時間になる。
教室は静寂に包まれ先生が用紙を配る音だけが聞こえる。
お高い紙をこんなに贅沢に使えるのもお金持ちだらけの学校ならではだよな。
「それではテストを開始する。制限時間は150分だ。始め」
受験科目は国語、社会、数学の3教科。
休憩なしのぶっ続けでやるのもどうかと思うが条件はみんな同じだ。
マジロマにもテストはあったが主人公は貴族推薦枠として俺とは違う日に受験しているはずなのでゲームは何も参考にならない。
だがこの10年間の修行で俺の賢さのステータスは71になっている。
あまり上がっていないように見えるがこのくらいで問題ない。
数学と国語は大して難しくないし、問題は前世の常識が全く通用しない社会だがそれを暗記できるレベルまで賢さを上げた結果が71だったのだ。
教科書をほぼ全て丸暗記レベルで入っているのでほとんど詰まること無く全てを書き終えることができた。
(筆記試験はおそらく問題なし。だけど俺は魔法が使えないからしっかり稼いでおかないと……!)
魔法は貴族の特権、というわけではない。
使えるかどうかは完全に個人差であり俺は使えなかった。
前世の受験で言う英検みたいに魔法が使えると言うだけで加点方式なのだが俺の場合は加点は見込めない。
なので手加減や油断は全くできないのだ。
「そこまで。全員ペンを置きなさい。次は戦闘テストに入る。全員更衣室で着替え、係の者に指示された待機室にて次の指示が出るまで待機するように」
そう言われ俺達は再び移動を始める。
戦闘テストは確か大して強くなかったはず。
体力は低めに設定されているが試験官は平然としているRPGあるあるのパターンだ。
戦いに勝ち、勝負に負けるってやつだな。
待機室で守護者の短槍のチェックをしていると俺の名前が呼ばれる。
係の人についていくと1人の騎士が立っていた。
ゲームでも王国騎士が試験官をやっていたという話を聞けるのでこれは想定内だ。
(他の人がどれくらい戦えるのか全く知らないし……取り敢えず全力でやるしかないな)
俺の今のステータスは今は開けないので詳しい数値は覚えていないが序盤の最後の方といったあたり。
かなり序盤にしては強いはずだが、念には念をだ。
流石に突きは殺してしまいかねないのでちゃんと払ったり斬ったりする。
「全力でかかってきなさい。君の実力を見せてくれ」
「わかりました。全力でいかせていただきます」
「うむ!始め!」
その瞬間、俺は地を蹴り騎士に接近する。
長期戦になればまず俺の負けだ。
実力を見せるならこちらから攻めの姿勢を崩してはいけない。
「はぁっ!」
「ぬん!」
俺の初撃は騎士に受け止められる。
そして俺はすぐに後ろに下がると俺がいた場所に騎士の槍が通った。
人間と戦うのは初めてだがやはり知性というものはすごいな。
魔物の単調な攻撃とはわけが違う。
「ほう、今の攻撃を避けるか」
「次、行きます」
短槍だから子供である俺にも扱いやすいが騎士の長槍と比べるとリーチの差がある。
こちらのほうが小回りがきくのだから常にこちらの間合いで戦いたい。
一撃目が上から襲ってくる。
(舐めるなよ……!)
俺は体をひねって躱すとどんどん踏み込んでいく。
2撃目が足元を襲ってくるのを飛んで躱し更に近づいていく。
俺がこれだけ避けられるのにはわけがある。
俺は6年でステータス上げを止め、レベルが上がらないにも関わらず魔物と戦うことにしたのだ。
その理由は単純、ステータスがいくら上がろうがRPGではない現実世界である以上戦闘センスが必要になってくる。
攻撃を選べば相手に攻撃が当たるわけじゃないのだ。
ステータスは才能であり、それを実力に変えるには経験が必要だった。
俺は四年間、ずっと魔物たちと命の
しかも俺のステータスからすれば圧倒的に格上の相手なのだ。
テストのために手加減している試験官に負けるはずがない。
「はぁぁぁ!!!!」
俺の短槍が騎士の脇腹に直撃した。
鎧と槍がぶつかり合う甲高い音が響く。
「……驚いたよ。まさか一本取られるなんてね」
「ありがとうございました。いい勝負でした」
「うん、ありがとう。君のような将来有望な若者に出会えたことがすごく嬉しいよ。また縁があったら会おう」
こうして俺の試験は終了した。
できることは全てやり実力も出し尽くした。
俺は受かっていることを願いつつ学園を後にするのだった──
◇◆◇
そして2週間後、俺のもとにフリージア学園から一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは『合格』の二文字。
俺はそのことに一安心するも次に書かれていたことに一瞬目を疑った。
それは──
『フリージア学園、平民校訓。其の一、身分をわきまえ常に貴族のためにあれ。其の二、身命を賭して貴人を守りその生命が誰が為にあるかを理解せよ。其の三、教師又は貴族の命令は絶対でありそれに逆らいし者は厳罰に処す』
(おいおいまじかよ……一体どんな軍隊学校だ……)
しかしまさかここまでだったとは……
(こういうのは形だけでも学生は平等って謳うのかと思いきやまさか学校が身分制度を後押ししているなんて夢にも思わなかったな……)
おそらくハラルア防衛の嘆願は認められるはず。
だがどうしてか俺の中に
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