第7話 モブ、外道戦略で問題を一挙解決する

「さて……今日はもう一旦ハラルアに戻って休もうかな」


虹結晶は幸先よく一つ得られた。

あれから更に3回ガーディアン相手に盗んでみたけど結果的には1回失敗し、2回はもう一つのドロップアイテムである【守護者の短槍】を手に入れた。

武器なのに装備すると防御力まで上げてくれる優れ物。

特段これが欲しかった訳では無いがこいつにもめちゃくちゃ重要な使い道が存在している。


「まあまずは街に帰ろうか」


俺は魔物から逃げ回りながらハラルアの街へと帰るのだった──


◇◆◇


俺はまず早速虹結晶を交換すべく街にある骨董品協会へと向かう。

各名産品を持ってくると種と交換してくれるのだが、ドロップ品でも交換してくれるなんて優しいよな。

骨董品協会ハラルア支部を俺の虹結晶で埋め尽くしてやろう。

そして永遠に俺に種を寄越せ。


歩くこと数分、博物館のような大きめの建物が見えてくる。

ゲームのときは全く気づかなかったけど結構古めの歴史を感じる建物だ。

俺は一目全体的に建物を見て満足すると中に入っていく。


中も外観と同じように歴史を感じる内装になっていた。

俺がいろんなところを見ていると1人の老人が歩いてくる。


「フォッフォ。どうしたのかね?こんなところに幼子が1人でくるなど珍しい」


「あのね、とっても綺麗な石を拾ったからどうしようかなってお母さんに聞いたらここがいいよって教えてくれたの。ほら、これ!」


俺はポケットからさも偶然拾ったかのように虹結晶を取り出しお爺さんに見せる。

お爺さんは老眼鏡を外し、俺の手にある虹結晶をじっと見つめると驚いたような顔をして俺を見た。


「むっ……!これは虹結晶……!本当に君はこれをくれるのかね!?」


「うん!いいよ!」


「そうか……!ありがとう!では代わりにこれをあげよう。好きなものを選んでくれ」


俺がお爺さんに虹結晶を手渡すとお爺さんは植物の種が色々入った箱を持ってくる。

種類ごとに分けてくれていないという不親切設計だったがまあ良い。

形によって種の種類は暗記しているから何も問題はない。

っていうか俺はこれが欲しかったけど子供にこんな植物の種渡してどうすんだよって話だよな。


(まあそれは置いておいて……どの種にしようかな)


基本的に無駄なステータスは一つもない。

魔法だって俺は使えないしレベルアップもしないので永遠に使えない気もするが『霊剣』という特別な武器をフリージア学園に入学すると全員に与えられる。

霊剣は使用者が魔法を使える効果もあるのでバカにはできない。

つまり魔法に作用する魔力というステータスも一応上げて置かなければいけないわけだ。


(………まあ、ここはセオリー通りに行くか)


俺は長考の末、一つの種を掴みお爺さんにお礼を言う。

そして協会を出て誰もいないことを確認し、ステータス画面を開いた。


名前  エドワード

性別  男

肩書  ハラルアの民

霊剣  なし


レベル ──

膂力  15

速さ  12

守り  11

賢さ  54

魔力  21

体力  10

器用  29


今日一日中走り回ったがやはりそう簡単にはステータスは上がらない。

昨日、丘で見たときと変わっていなかった。


(種の上がり幅は1〜3だ。セーブ機能なんて無いからリセマラはできない。まあここは運に任せるしかないな)


俺は持っていた種を飲み込む。

その瞬間、体に不思議な感覚が駆け抜けた。

俺が再びステータス画面を見ると体力の数値が10から12へと上がっている。

俺が飲んだのは体力の種だった。


(よし、この調子でまずは体力と器用を上げていこう。何回虹結晶を盗めるかにかかってるからな……!)


体力を上げ盗む回数を増やし、器用を上げ盗む確率を上げる。

この2つのステータスがこの計画において最重要であるが入試にはあまり必要ない類のもの。

賢さのステータスを上げれば受験勉強の時間とかも最低限で済むしな。

種の使用は計画的にってやつだな。


「よし、次は武器屋のおっちゃんのところだ」


気を取り直して俺は昨日臆病者の装衣を買わせてもらったお店に向かう。

子供の足なのでそこそこの時間をかけながら歩き続けるとおっちゃんが昨日と同じように商売をやっていた。

俺は昨日と同じようにおっちゃんに近づいていく。


「ねえ、おじさん」


「ん?ああ、誰かと思えば昨日の坊主じゃねえか。今日はどうしたんだ?」


「今日はね、売りに来たんだよ!」


「売りに?」


「うん!カッコいい槍!」


そう言って俺は腰に差していた守護者の短槍をおっちゃんに見せる。

おっちゃんは短槍を手に持ち一眺めすると俺の方に頷く。


「多少使われた形跡はあるが……研げば問題なく使えるな。一体どこで見つけてきたんだ?」


「僕の家の蔵だよ!お父さんが売ってもいいって!」


「ふーん、そうか。まあこの品質なら1500Gってとこだな。どうする?」


「売る!」


どうやらガーディアンを倒すというのは流石におっちゃんも思い当たらなかったらしく素直に頷いた。

そして短槍とお金を交換してくれる。

そのまま俺はおっちゃんに手を振ってその場を後にした。


(1500Gか……フリージア学園の入学金が1000000Gであることを考えると667回売れば良い計算だな……まあ後10年あるし親孝行も含めても余裕の額だな)


それまでにおっちゃんには俺が守護者の短槍を667本売れるだけのお金を用意できる大商人になっていてもらわなくちゃいけない。

まあ一括払いじゃないし、武器屋じゃないと武器を売れないわけじゃないからなんとかなるでしょ。


そしてこれで俺の計画は問題なく進むということが今日実証された。

あとは俺がどれだけ根気強く盗みを繰り返し、金を貯め、ステータスを上げられるかということにかかっている。

フリージア学園の平民枠は少ない上に、将来有望な同年代の奴らがこぞって狙う超難関。

ハラルアを……大切な人たちを守るためにも万が一にだって落ちるわけにはいかないのだ。


「俺はもっと頑張らなくちゃな。ゲームに関わるつもりはないけど攻略対象とか主人公の顔とか拝んでみたいし」


俺は確かな意志とやる気をみなぎらせ、家への帰路につくのだった──


◇◆◇


〜10年後〜


「ようやくこの時が来たわけか」


俺の目の前に建つのは超巨大な建物。

国内最難関、そして最先端の教育が行われると言われるクリミナル王国国立フリージア学園。

平民と貴族は別日の受験なので出待ちして王子たちにハラルアを守ってほしいと直談判することはできない。


「まぁ……でも、俺のやるべきことは変わらないよな」


今こそ血の滲むような修行の成果を見せるとき。

モブなりにできることは全てやった。

ここからは……生まれ持った才能と途方もない努力を繰り返してきた平民の天才たちとひたすら盗んで種を食って魔物たちと対峙してきた凡人モブの対決だ。


「さぁ……美しきマジロマの物語ストーリーに参加しようじゃないか」


俺は来る決戦入試にニヤリと笑い足を踏み出すのだった──

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