第6話 モブ、害悪戦法を試す

そして翌日。

俺はこっそりと街を抜け出し初めての外の世界へやってきていた。


「す、すご……ゲームの世界をリアルにするとこんな感じになるのか……」


見渡す限りの平原に見たこともない、正確にはゲームで登場したモンスターたちが普通にそこら辺を歩いている。

色々とゆっくり観察したいところだがそんなことをしている場合ではない。

普通に戦えばまず間違いなく俺は死ぬ。

ステータス雑魚、防具カス、戦闘経験無しの三拍子揃った生粋の弱者なのだ。

すぐにやるべきことを終わらせてさっさと帰ってこよう。


「さて、行くとしようか」


俺はモンスターたちにバレないようにそろりそろりと目的地に向かって歩き出す。

本当は走ってさっさと目的地に行きたいところだがそこは4歳児の体力。

いかに友達と走り回ったり、遊んでいたりしようとも最初から飛ばしていたら肝心なときに体力がなくなってしまう。

基本走る時は戦闘を避けるときか逃げるときと決めている。


(とにかく戦闘しない……それが俺の戦いだからな……)


そして歩くこと1時間ほど、俺はお目当ての場所についた。

小さいからか一度も会敵エンカウントすることなくここまで来ることができた。

ただ緊張感はものすごかったけど。


「さてと……マップは昨日の夜に何回も確認したけど間違ってたら面倒くさいなぁ……」


俺の目の前にドンと構えているのは山肌に開いた大きな穴。

この中は洞窟になっており、俺が目当ての物もこの中にある。

ちゃんと内部構造を把握していないとモンスターから逃げた先で行き止まりだったら同じく人生も行き止まりにぶち当たる可能性がある。

最短ルートかつ、逃走ルートも確保し安全に逃げる。

これが俺の計画だ。


「よし、行こうか」


俺は覚悟を決め洞窟の中に入っていく。

中はゲームと違ってめちゃくちゃリアルでな雰囲気である。

まあ現実だからリアルなのは当たり前なんだから。

最近話題のVRとかでこういうゲームが出たら絶対に買うと思う。

まあ俺は死んでいるので、発売されたとしても買える日は永遠に来ないと思うけど。


(ってそんな呑気なことを考えてる余裕はないな……集中しないと……)


ゲームと違って三人称の俯瞰視点ではないので普通に道を間違えそうだ。

頭の中にマップを想像しながら先に進んでいく。


『ギャオ!』


「うわっ!?急になにっ!?」


突然何かが突撃してきて俺は咄嗟に身をかわす。

だが下半身が弱々だったので倒れ込んでしまう。


『グググ……!』


目の前に突然現れたのは血に飢えた豹レッドパンサー

なんで豹が洞窟にいるのかは全く知らんがこの洞窟では普通に会敵エンカウントする。

生態系なんて正直地球の常識は全く通用せずただただあるのは運営創造神のさじ加減のみ。

基本使ってくる魔法や息攻撃ブレスの属性によって変化するパターンが多いので見た目が変温動物だろうと平気で寒空の下に出てくることもあるくらいだ。


(っていうかそんなこと考えてないでさっさと逃げないと死ぬ!)


さっきの一撃を避けられたのは本当に偶然。

次も避けられる保証はない。

というか、かすっても死にそう。


『ガルル……!』


「に、逃げろっ!」


俺の足はレッドパンサーから見れば鈍足。

だが今の俺には臆病者の装衣がある。

逃げ始めた瞬間、大幅に速度が強化された。


(なるほど……!RPGだったときと違ってコマンド操作じゃないから速さにバフがかかるのか……!ってことは逃げられるも逃げられないも俺次第ってことだな……!)


息も全然上がらないし俺の足とは思えない速度で移動できている。

転ばないようにだけ気をつけて走り続けると俺はレッドパンサーを振り切ることに成功した。


「はぁ……まさかレッドパンサーがいきなり出てくるとはなぁ……まあ臆病者の装衣の効果も改めて確認できたし良しとするか……」


かなりの速度で移動できたので目的地はもうすぐそこだ。

俺は周りに魔物がいないことを念入りに確認して慎重に歩いていく。

そしてお目当ての宝箱を発見した。


「あ、あった……!なんか改めて宝箱をリアルで見るとテンション上がるなぁ……!」


少し薄汚れてるのもリアリティがあってすごくポイントが高い。

ゲーム好きからすればこの宝箱が空であろうと最高の宝物なんだが。

というか中身だけじゃなくてこの箱ごと持ち帰りたい……!


「まあ無理なんだけどなぁ……普通にこの箱ビクともしないし」


宝箱が移動できるなんて仕様は無かったのでしょうがない。

俺は無駄な抵抗を諦め重厚感あふれる宝箱の蓋を開けた。

中には一対の手袋が入っている。


「よかった〜……これで準備は全て整ったな……」


俺は宝箱から入っていた手袋を取り上げる。

これを求めていたんだよ……!

俺が両手に手袋をつけるとブカブカだったのだが小さく俺の手にフィットするように大きさを変えていく。


この手袋は【強奪者の手袋】という装備だ。

マジロマには職業システムなんてものは存在していないのでキャラごとに使える特技や魔法が違うのだがこの強奪者の手袋を装備することで誰でも【盗む】という特技を使うことができる。

この盗むが俺の計画の根幹だ。


「よし、それじゃあちょっと試すとしようかな」


俺はルンルン気分で出口に向かって歩き出した。

結局何回も魔物が襲いかかってきてその度に死ぬほどビビりながら洞窟を出たのだった──


◇◆◇


強奪者の手袋の効果は盗むを使えるようになること。

そして盗むの効果は敵のドロップアイテムを確率で盗めるようになるというもの。

その確率はステータスの器用の数値によって変化するのだが、この強奪者の手袋は器用の数値も上げてくれるのでまさに盗むためだけにあるような装備だ。


「よーし……いたいた……」


俺は身を隠しながらある魔物を視界に捉えて頷いていた。

強奪者の手袋と臆病者の装衣もしっかり身につけている。

……装備の名前が酷すぎるのはたまたまだろう。


「千里の道も一歩から……記念すべき一歩目ってやつだな……」


そして俺は走り出す。

今回の俺のターゲットは力の守護者ガーディアン

騎士のような見た目をしていて身長は2メートルほど。

目が付いてるのかは知らないが、一応後ろを向いている隙に俺は走って近づく。


(行くぞ……!『盗む』)


スリの経験なんて前世も含めて一度もない。

だが自然とどんな身のこなしでどのように体を使えば盗めるかわかる。

よし……!今なら行ける!


『……!?』


「よっしゃ!」


俺が人間相手ならセクハラで訴えられてもおかしくない、ガーディアンの腰巻きに手を突っ込み掴んだものを引っ張り出すと虹色に光る真珠のようなものが俺の手に収まっていた。

これこそ俺が求めていたもの。

確率がゲームでは256分の1だったので長時間粘ることは覚悟していたがまさか一発で成功するとは。


「やべっ!?喜んでる場合じゃない!逃げないと!」


後ろを振り返るとガーディアンが今にも俺に槍を振り下ろしかけていた。

俺は急いで逃げ始めると、臆病者の装衣の効果が発動し一気に体が軽くなる。

ボコン、ボコンと後ろで結構やばめの音がしているのが普通に怖いがなんとか俺は振り切ることに成功した。


「はぁ……はぁ……でもゲットできたな……!虹結晶……!」


この虹結晶を手に入れるために臆病者の装衣と強奪者の手袋を用意したのだ。

盗むを奇襲的に発動しすぐに逃げる。

失敗しても俺にリスクは少なく得られるものはデカい。


そしてこの虹結晶は各町にある骨董品教会というところに寄付することができるアイテム。

その寄付した対価に貰えるものが俺の全ての狙いだった。


「ふ……ふふ……正直こんなことをするのはゲーマーとしてある意味負けな気もしなくもないがしょうがない……!俺は生き残るためならなんだってやってやるさ!」


虹結晶で交換できるものは各ステータスを上げることができる種。

つまり俺は一度も戦闘をせず、ただ盗みと逃走という人間のクズみたいなことを繰り返し、レベルが上がらないならば種ドーピングをしてステータスを底上げするというゲーマーの風上にも置けない外道戦略を始めようとしていたのだった──

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