第22話

 嘘はつかなくていい。表層で中層のエネルジークに襲われたってのと、それが一度だけじゃなく二度も起こっていることを探索者ギルド側に説明するだけだ。


「な? 簡単だろ?」

「はうぅ……その役目、私じゃないとダメなんですか……?」

「この中で正規の探索者はお前だけだ花城。エレナに『ヒイラギ工場』を外部協力者として選んでもらうにしても、正規の手順を踏むためには必要なんだ」

「はうぅ……やるしかないんですね……」


 すごく後ろめたい気持ちを抱えたような苦悶の表情を浮かべている花城。別にやることは限りなく白に近いグレー行為だから罰則なんざありゃしねぇよ。

 多少のお目こぼしぐらい、エレナなら完璧にこなしてくれる。


 俺がそう花城を説得すると、彼女は渋々ながらも了承してくれた。青い顔をしてプルプル震えていたような気もするがきっと気のせいだろう、うん。


 悪い笑みを浮かべていたような気もするが、フクロウの仮面と口元に巻いたマフラーで見えてなかったはずだし。


「まぁ、これも全部仮説が正しければなんだが。というわけで早速削ってくれ」

「仕方ないよなぁ~、危険な場所ってんならちゃんと『調べねぇ』といけないよなぁ~?」


 ブンブン戦槌を振り回しながら攻撃的な笑みを浮かべてエネルダイト鉱床に向かう柊。うっきうきで黒い結晶にハンマーを叩きつけると、ぽろっと簡単に結晶の一部が欠けた。

 それをポケットに入れた彼女は吹き溜まりから戻ってくると、うげーっと苦い顔をする。


「やっぱこの鉱床はエネル濃度がたけぇ。いくら人間にエネル中和器官があるとはいえ、あんま長居したくねぇな……」

「大丈夫っすかボス?」

「あぁ、さてもうここにいる理由はねぇよなフクロウさん?」


 柊の言葉に俺は頷く。流石に俺も、無理して留まっていたがやりたいことは終わった。

 俺たちは足早に撤退する。帰りもエネルジークに何度か遭遇したが、その全てを隠れてやり過ごす。


 何とか出口までたどり着いた俺は、花城を柊たちについて行くように言った。


「ごほっ……花城、お前はこのまま柊についていけ」

「はうぅ……やるんですね……」

「そういうこった、柊たちも上手くやったらいい」

「おうっ、任せな!」


 後は任せろとばかりに自身の胸を叩いて笑みを浮かべる柊に花城を託すと、俺は一人別の出口から出ようとする。

 だが――。


「ごほっ、ごほっ……! くそっ……」


 浸食空間から出られるといったところで、俺は吐血してしまった。口元を拭いながらブレる視界のなか、俺はつい思わず悪態をついてしまう。

 端末を取り出して現在時刻を確認し、浸食空間に潜っていた時間を割り出すが六時間ほど……表層なら問題なく動ける時間のはずなのに。


「かはっ……あそこのエネル濃度が、中層レベルまで高まっていたのが原因か……?」


 口元の血をマフラーで乱暴に拭いながら、俺は重い身体を引きずって浸食空間から脱出する。全身が痛い、今日はもう寝よう……花城を、柊たちについて行かせて正解だった。今の俺の姿は、あまりにも見せられない。


 いつもはすぐに帰れる自分の店までが、無限のように感じる。全身の痛みと今にも気絶しそうな気持ち悪さが足にかせがついたかのように歩みを遅くしていた……。

 

 やっとの思いで店まで返ってきた俺は、店の扉を開けたところで足の力が抜ける。くそっ……俺は店の扉に寄りかかるようにしてずるずると身体を落とした。

 あいつら柊たちの前では平気そうな振りをしていたが、ちゃんと誤魔化せていただろうか……?俺はフクロウの仮面を乱暴に顔から剝ぎ取りつつ抗えない眠気に自身の限界を感じる。


「フクロウさん、は……希望で、なければならない……からな」


 理想フィクションに追いつけない現実に怒りを覚える。俺は――そうならなければならないのに。


 「未海……」

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