第21話

 エネルが薄くなった空間が、一瞬で元に戻る。あの人型に蓄積されていたエネルが空気中に戻ったのか、元の空気感へと戻っていた。


「……っ、sequenceシークエンス終了。結構、ギリギリだったな……」

「だあぁッ、疲れた……んだよ削った先から再生って……」


 俺とオリバーは揃って地面に仰向けに倒れ込む。結果だけ見たら無傷の勝利だが、中層上位のエネルジークなんて一撃でも貰ったら死ぬような化け物。

 普通は探索者が六人一パーティーで挑むような奴を二人で討伐できたのは――ひとえにここが表層だったからに他ならない。


 俺たちが荒い息をつきながら休憩していると、やっと戦闘が終わった緊張感から解放されたのか後ろにいた花城たちがこちらに駆け寄ってきた。


「フクロウさん!」

「この前のエネルジークに引き続き二体目とかどうなってんだよ……おいっ、大丈夫か?」

「あぁ、俺は基本守るだけだったからな……怪我は無いか?」

「ばっちりっす。といっても、こんな化け物が定期的に出てしまうならこの鉱床は使えないっすね……」


 表層なのに中層のエネルジークが定期的に現れる鉱床なんて使い物にならないっすよ、と椿が残念そうに肩を落とす。

 中層のエネルジークを倒せて、エネルダイトを掘り切るまで警備が出来る探索者か……数も少なければ莫大ばくだいな人件費もかかるな。


 そうなれば、その分ヒイラギ工場の生産する装備は利益のために探索者に手が届かないレベルの値段になってしまう。『自分たちのように探索者の夫を亡くした女性を増やさない』と、彼女たちヒイラギ工場が追い求めている理想とは真逆の未来だ。

 

 しかしなんでこんなにもイレギュラーが続くんだ?と俺が上体を起こしながら考えていると、成金野郎がオリバーを立たせて撤退準備を始めていた。


「こんな危ない所は一刻も早く離れるに限る! おい、帰るぞ!」

「へーいへい……んじゃなフクロウ野郎。俺はこのうるせぇハゲを外に送っていくから」

「ハゲとらんわ⁉ 見ろこのふさふさな毛! おい無視するな、置いてくな!」


 ものすごくきれいな死亡フラグ発言に俺がつい心配をするなか、二人は先にエネルダイト鉱床から離れていく。

 確かに、この鉱床が危険だと分かれば安全に採掘できないここに価値は無い……あの成金野郎、思ったより引き際の判断が良いな。


「素直に引いたっすね、ボス」

「中層のエネルジークが出るってなりゃあ誰だってああなる。どう考えても他の鉱床より危険だ」

「ウチらはどうするっすか?」

「しゃーねーがオレらも撤退だな……ここで無理に掘りにいっても、次にアイツらが来たらフクロウさんへの負担がとんでもねぇことになる」


 戦槌を地面に放り投げては頭をガリガリ掻いてはぁっとため息をつく柊。中層のエネルジーク相手にまともに戦えるやつは今ここにフクロウさんしかいねぇ、と撤退を椿に伝えているのを見ながら俺は何故こんなにも連続してイレギュラーが起こるのかを考えていた。


 偶然や奇跡は二度は起こらない、同じことが起きるときは何かしらの『必然』がここにはある……。


「か、帰りましょうフクロウさん」

「ごほっごほっ、ちょっと待て。何か引っかかる」

「……考え事か? せめて帰ってからじゃダメなのか」

「またここまで来るのが危険だからな……ごほっ」


 俺はマフラーを口元まで引き上げて何が原因なのかを考える。ここだけ中層レベルのエネル濃度なら分かる、だがあのエネルジークを倒せたのはここが表層レベルのエネル濃度だからだ。

 つまり、エネルジークが生まれる時だけエネル濃度が中層レベルまで引き上がったことになる。


「もしかして――」

「何かわかったのか?」

「……柊、教えてくれ。エネルダイトが表層で採れたとき、『含有量』は何%だ?」

「あー……場所にもよるが二十前後だ。それを毎回精錬してちっちぇえエネルダイトを集めてる。まさか……っ!」

「おそらく、その『まさか』だ。ここにあるエネルダイトは高純度の可能性が高い」


 柊が目を見開いて俺の考えと同じところまでたどり着く。エネルダイトってのはエネルが凝縮して固まった鉱石だ、高純度であればあるほど……そこのエネル濃度は高くなるはず。


 俺は地面から穴が開いて吹き溜まりのようになっている鉱床を見下ろした。

 おそらくこの吹き溜まりの中だけ中層レベルのエネル濃度になっていたと考えれば、このイレギュラーにも説明がつく。

 俺は柊に鉱床にあるエネルダイトを採取することを提案すると、柊は渋い顔をした。


「誰の鉱床か分からないうちに削るのはな」

「あくまで調査だ……これで高純度のエネルダイトだと分かれば、ここ一帯の危険度は跳ね上がる。そうなれば中層レベルのエネルジークに襲われたという事実と共に、探索者ギルドが『危険性を取り除くプロジェクト』として――」


 ――合法的にこの鉱床を採掘することが出来る。

 俺がそう言えば柊と椿ははっと驚いたような顔をする。その後、悪い笑みを浮かべて二人は俺の言った計画を詰め始めた。


「たしかに、こんな危ない場所は取り除くしかないっすねぇ……?」

「そうなりゃ採掘に明るい外部協力者が必要だよなぁ?」

「取り除いた鉱石は探索者ギルドは要らないだろうからな、『処分』はその外部協力者に一存するだろうよ」

「はうぅ……みなさん悪い顔をしてますぅ……」


 花城が俺たちのあくどい笑みを見て震えているが、この計画にはお前も混ざるんだぞ。探索者ギルドにこのことを話すのはお前の役割なんだからな?

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