第4話
「ん? どぐふぉおおおおおおっ⁉」
「おおおおおおあああ⁉」
――ずどおおおぉん……ッ!
戦闘音を聞きつけ全力で駆け付けた俺は、突如としてふっ飛んできた白い何かに思いっきりぶつかった!
空間内の転移が起きて「また空中に飛ばされた」と思った矢先の出来事、俺はぶつかった衝撃そのままにビルの壁に叩きつけられ、そのままの勢いで壁をぶち破り内部に突っ込む。
「がっはッ! このローブ……無かったら、即死だったぞ……!」
「ごほっごほっ……オレ、生きてるのか?」
「俺の、どてっ腹に……突っ込んできやがって……っ」
「あ、あぁすまねぇ……ってまずい! 椿!」
腹の痛みを抑えるように俺がゴロゴロ廃ビルの床を転がっていると、ハッとしたような顔をして腹に突っ込んできたちっさい子はビルから飛び降りる……って待て待て結構な高さだぞここ⁉
俺は慌てて後を追い、空中に身を投げ出した彼女を抱きかかえて『イカロスの翼』を起動した!
「浸食空間内で自殺とか正気かテメェ⁉」
「椿がッ! 離せよッ、あいつが襲われてるんだ!」
「ッ、どっちの方角だ⁉ このまま飛んだ方が速い!」
俺の腕から抜け出そうと
小脇にちびっ子を抱えながら
「あそこだ!」
「了解! 突っ込む!」
「頼むッ!」
上空からでも巨大なエネルジークの姿が見える。でけぇ、表層にいて良いやつじゃねぇぞ?
ゴリラのような獣型の奥に隠れるように小さな人影が見える、まずい……獣型が大きく腕を振りかぶりやがったッ!
「椿いいいいッ!」
「すまん
「は? おおおおおおああぁ⁉」
もはや一刻の猶予も無いと判断した俺は、翼を再び換装する。羽根の一枚一枚が右半身に集まり、右手には一本の黒い大剣が形成された。
翼を失った俺たちは墜ちていく――その勢いをそのままに、俺は大剣を両手でにぎりしめエネルジークの振り上げた右腕へ狙いを定めた!
「もらうぜその腕……ッ!」
「おち、落ちいいいぃっ⁉」
――ズ、バァアン!
一刀――地面に土煙を上げながら|着地墜落した俺は、片膝をついた状態で動けなくなる……足いった……っ!
そんな俺を他所に、必死に俺の腰にしがみついていたちびっ子は俺から降りさっきの轟音と光のせいなのかフラフラと今にも倒れそうな女性に駆け寄っていた。
「椿! ケガは!」
「ボス……? どうやって……」
「オレにも分からん!」
――オァ、オ……ア?
柄の折れたハンマーを持って単騎突っ込もうとしてたのか、椿と呼ばれた女性の両手にはエネルダイト製特有の黒い色をした塊が二つ持っていた。
やっと足の痺れが収まった俺は、感動の再開なのか泣きながら抱き合っている女の子二人を背に、さっきから必死に首を傾げ続けてるエネルジークに対峙する。
「よぉでけぇの。中層中位のテメェがなんで表層にいるのか知らねぇが、ここじゃ敵無しだったからって油断したな」
――オア……アアアアアァ!
「やっと目の前にいる
俺は大剣を構えながら背にいる二人にそう注意する。見たところ探索者じゃないみたいだし、武器も折れたハンマーだけっぽいし。
いつまでも振るわれない落ちた自身の右腕に気が付いて、激高する目の前のでけぇゴリラ。プライドってのはどの生物にもあるもんなんだな。
完全に俺だけをロックオンしている獣型を姿に、俺はエレナが出した依頼の対象が彼女たちであることを確信する。今から二人を抱えて逃げる――のは、中層のエネルジーク相手には難しいな。
「一人でどうこう出来る相手じゃねぇ、オレも戦う!」
「壊れた武器でどう戦うんだよ……まぁ見てろ、『何度か戦ったことはある』」
――グオオオオオオオッ!
獣型が怒りに任せて突進してくる。片腕を失くしてバランスがとりにくいのかそこまで速度は出ていない。
『イカロスの翼』で避けられるが、避けたら後ろに被害がいくな……俺はそのまま大剣の刃先を横に倒し、そのまま走り出した!
巨大な敵と戦う時にまず必要なのは機動力を奪うこと――小回りの利かない巨体の相手の弱点は……視界の届かない股下!
巨体の威圧感に負けないように足を前に進め下に潜り込んだ俺は、そのまま駆け抜けて背中側に回る。
「っだああぁ!」
――アアアアアァ⁉
両足首の腱を後ろから斬り飛ばせば、左腕一本で全体重を支えることも出来ないゴリラは地面に倒れ込む。
弱点の腹……は、うつぶせで倒れてるから無理だな。このまま逃げても良いが、中層のエネルジークは空間のエネルを取り込んで再生しやがるから放置してると他の探索者にも迷惑がかかる。
「あんまりやりたかねぇけど……
――グ、オオオォ……ッ!
「その首、骨ごと断ち切らせてもらう!」
大剣の推進装置が、その限界を超え駆動する。キイイィンと甲高い音と共に赤熱で赤く光る黒い大剣を持ち俺は倒れ込んでいる巨体に足から飛び乗った!
背中を駆け抜け、相手の首筋に合わせて剣を振りかぶり――。
「終わりだ――」
――グ、オオッ――
エネルジークの悲痛な叫び声が途中で途切れる。頭部と身体が別たれた口からは、再び声を発することは無かった。
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