マイクロ・プレゼント
ちびまるフォイ
スペパ最強のプレゼント
「お誕生日おめでとう。プレゼントがあるわ」
「本当? どこどこ?」
「あなたの研究室に置いてあるわ」
科学研究室に向かったが、プレゼントは見当たらない。
「おっかしいな。どこにもないじゃないか」
床に落ちてないかとほうぼう探したが見つからず。
諦めて研究の続きを、と顕微鏡を覗いたとき。
「あ」
顕微鏡を通して見えた。
『ハッピーバースデー』と書かれたプレゼントが、
プレパラートの上に小さく置かれていることに。
「なんて小ささだ。これがプレゼント?」
ピンセットでつまむのも難しい。
顕微鏡の台から風で飛ばされればもう見つからないだろう。
いったいなにが入っているのか。
プレゼントにはどう結んだかもわからない極小リボン。
そして四角い箱に収められている。中身は見えない。
「どうしたものか……。そうだたしか透視できるやつがいたな」
どこにでもいる透視能力者に連絡を取り、科学研究室へと召喚した。
「むむむ。見えます。見えますぞ」
「本当ですか。このプレゼントには何が?」
「そこまでは見えません」
「どっちだよ!」
「ただひとつ言えるのは……」
「はい……!」
「むっちゃ高価なものということだけです」
「まさか……100万円とか?」
「そんなはした金じゃないです。もっとですぞ」
「まじっすか!!!」
この透視鑑定結果がなければ早々に諦めていたことだろう。
今、顕微鏡で見えているこのプレゼントには100万以上の価値がある。
うまく取り出すことができれば遊んで暮らせるかも。
「ようし開封してやる……!!」
やる気を大きく引き出されたところで、
頼るのは自分の指先ではなくボトルショップ職人だった。
顕微鏡に映る小さなプレゼントボックスを見て職人は言葉を失う。
「えと、これを私に開封しろと?」
「ええ。手先が器用なあなたしかできないんです」
「無理ですね」
「え」
「あまりに小さすぎます。さすがにここまでは……」
「いや世界が誇るあなたの腕前でも開封できないんですか!?」
「もちろん、やろうと思えばできます。
しかし間違いなくプレゼントはズタボロになるでしょう。
中の品物に価値があるのならなおさらです。責任も取れません」
「ぐぬぬ……」
どの職人に聞いても同じ答えだった。
なまじ中身のプレゼントが高価だからと尻込みしてしまう。
ならばと高精度のロボットアームやロボットに頼んでみたが、
こっちもやっぱり断られてしまった。
「デキマセン。チイサスギマス」
「このポンコツめーー!!」
結局、頼れるのは自分だけしかなくなった。
「はあ……この世界はなんて不条理なんだ……」
発注した極小ピンセットと、
特注の拡大鏡をもってプレゼント開封をはじめることに。
うっかりプレゼントを潰したり壊したりしたら、
中身の価値ががくんと下がる危険もある。
なにが入ってるかわからないが、とにかくことは慎重を要する。
「少しずつ……少しずつ……」
プレゼントに結ばれているちょうちょリボンを、
1時間に1マイクロミリメートル動かして、休憩、動かして休憩……を繰り返す。
あまりに気の遠くなる作業。
しかしあまりに集中力が必要な作業。
「きょ、今日はこれくらいにしておこう……。頭がもたない……」
極度の緊張状態と精密作業の組み合わせは、
非常に心と体にストレスと負担を課してしまう。
1日ほんのわずかしか開封を進めることができなかった。
それでも。
このプレゼントを見事開けきることができたなら。
巨万の富と、勝ちまくりモテまくりの人生が待っている。
「諦めてたまるか! 俺は……俺は大金持ちになるんだ!!」
それからは割愛するのも惜しまれるほど、
恐ろしく根気強く辛抱に辛抱を重ねる日々が続いた。
毎日、息を止めながら高度の緊張状態で開封を進める。
季節は代わり、次の誕生日も追い越したころ。
待ち望んだその日がついに訪れる。
「あとちょっと……!」
プレゼントのリボンが解かれ、包み紙が開かれる。
プレゼントの箱がついに見えた。
世界最小のピンセットがそおっと、
かぶさっているプレゼントの蓋を持ち上げる。
手が震える。
ここで壊したら元も子もない。
「ああ、もうすぐ……」
蓋がすべて取り除かれる。
プレゼントの中身がついに見えた。
そこには見たこともない金額が書かれていた。
「い、一兆円!?」
プレゼントの箱に入っていた小切手。
そこにはなんと一兆円もの金額が書かれていた。
一生遊んで暮らしてもお釣りが来るほどの金額。
「や、やったーー!!! 億万長者だーー!!」
1年以上もこのプレゼントの開封を続けたかいがあった。
待っていたのは残りの人生を使っても有り余る財産。
それを1年の努力だけで手に入れることができるなんて。
「なにに使おうかなぁ。あれもほしいし、これもほしいし。
ああ、旅行にいくなんてのもいいなぁ……」
桁ハズレの金額に浮かれて夢をえがく。
それはまだ気づいていない人の特権であった。
やがて気づくことになるだろう。
その小切手には、小切手よりも小さい「サイン」が必要だということに。
マイクロ・プレゼント ちびまるフォイ @firestorage
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