不幸TVを見逃さないように!

ちびまるフォイ

どちらであっても不幸

『本日も不幸TVのお時間です。

 今日の天気は最悪。きっと気分の悪い1日になるでしょう。

 

 では次のニュースです。

 〇〇町のコンビニに強盗が押し入りました。

 もうこの国の治安は終わっています。

 

 そこで、この国の終わってる治安

 ワーストランキングの街を紹介します!』


昔はチャンネルとかいう概念があったらしく、

テレビ局も複数あったらしい。


今ではチャンネルは1つだけ。

報道されるのは不幸TVのみ。


「この国もいよいよ終わりだなぁ……」


不幸TVでは繰り返し悲しい出来事や、

ショッキングな出来事を明るく楽しく報道していた。


毎日神妙に葬式ムードたっぷりな報道されていても

それはそれで見ていて気が滅入る。


『それでは今日も1日くそったれな1日を!』


だからといってこれで良いわけでもないが。


テレビを消すと仕事の準備を整えて家を出る。


「ああ、家でゆっくりしすぎたかな。ちょっと急ぐか」


いつもより遅く出発した穴埋めをするため

少し小走りで交差点にさしかかったとき。


「うわっ!?」


耳をつんざくブレーキ音。

目前に迫るバンパー。


交差点を曲がってきた車はすんでのところで止まった。


「あ……危なかった……」


もう少しでひかれるところだった。

ナンバープレートの先っちょが足に触れている。


「気ぃつけろバカヤロー!」


運転手は中指を立てて車を再発進していった。

それを見届けるとまだ高鳴る心臓を抱えて出社した。


午後にはもう今日のことなど忘れていた。


すっかりもう暗くなった仕事終わり。

家につくやテレビを付ける。


『本日の不幸TVがニュースをお伝えします。

 △△町で悲しい事件です』


「おいおい。うちの近所じゃないか」


普段は流し見のテレビに食いつく。


『今朝、とんでもないひき逃げがありました。

 ~~交差点で車と歩行者が接触しました』


「……あれ?」


『運転手は歩行者を跳ね飛ばし、

 そのうえそのからだにうんちをしたうえで逃走。

 今も逃走を続けています』


「これ俺か……?」


『歩行者は全身バラバラに砕け散って死亡。

 容疑者はさらに周囲の壁を破壊しながら逃走中。

 事故現場にいた人に独自取材をしたところ、

 容疑者はかねてから恨みがあり、

 ぶっ殺したいと周囲に話していたそうです!!』



「いや盛りすぎだろ! 素材の味がなくなってる!!」



ニュース映像で映されたのは今朝ぶつかった交差点。


なぜか生々しい血痕なども残っているが、

自分は五体満足で元気いっぱいで今も晩酌している。


自分以外に周りに人なんかいなかったし、

インタビューに応えていた事故現場の人なんかいない。誰だあいつ。


ニュースでは実名報道をしていないので、

爆発四散した自分が明日も元気に出社して

同僚全員を怖がらせることもないだろうが。


「すごい盛り方するなぁ……。

 まあテレビだし、多少のエンタメ要素は必要だろうけども」


それからは少し見方がかわってしまった。



『不幸テレビがニュースをお伝えします。

 危険な闇マフィアがこの町で活動を始めました!』


『次の不幸なニュースです。

 芸能人の〇〇さんが俳優仲間△△さんを巻き込み

 集団自殺パーティをして一命をとりとめてしまいました!』


『次の不幸ニュースです。

 国会では一定収入に満たないカスどもを

 自動的に殺して口数を減らす法律を可決しました!!』




不幸テレビでは今日も悲しく不幸な出来事を報道していた。


「はいはい。どうせ盛ってるんでしょうね」


でも以前よりも引いた目で見るようになっていた。

自分の事故の盛られ方から逆算するに、真実は20%ほどしかないのだろう。


そのうち不幸テレビも見なくなった頃。

電源を入れていないのに勝手にテレビの電源がつく。



『緊急不幸ニュースです。

 この報道は非常に重要なので強制的に報道しています』



「な、なんだなんだ」



『世界が本日終わってしまいます。

 みなさん、どうか自分の大切なものをお手元にお持ちください』


「え゛」



いつもの明るく楽しいトーンから一転。

ガチめの真剣な報道姿勢に身構える。


しかしこれが本当なのか。


これまでの経験から不幸テレビでは盛って報道している。

世界の終焉だの、人類の終わりだのと繰り返し報道しているが

実際はたいしたことないんじゃないか、と。


「うーーん……どっちなんだ……」


本当にやばいのか。

盛っているからそうでもないのか。


悩んだ末に、嘘つきな狼のお話しを思い出す。


嘘ばかりついて誰も信じてもらえなくなった狼が、

最後の最後に本当のことを話しても信じてもらえないという童話。


今回もそのたぐいかもしれない。


「本当に世界が終わってしまうかもしれない……!」


報道を信じて地下のシェルターに逃げ込んだ。

自分の宝物を抱きかかえて、いつ世界が終わってもいいように備えた。


シェルターに備え付けのこたつに入り、

みかんを食べながら今か今かと世界の終焉を待っていた。


そして、ついに最後の不幸テレビが始まった。



『不幸テレビのお時間です。

 そしてこれが最後の報道です。

 みなさんに世界の終わりをつたえなければなりません』



「ごくり……」



『不幸テレビは本放送をもって最終回。

 それはまさに世界の終焉。この世の終わりです!!

 みなさんどうかお元気で!!』



こたつをひっくり返した。

やっぱり盛っていた。


「世界終わってないじゃないか!!」


シェルターに隠れた自分が本当に馬鹿らしい。

家から貴重品だけもって慌てていた自分が滑稽でならない。


「ああもう……終わってせいせいする。

 なにが不幸テレビだ。うそっぱちばかり。

 次はまともな番組が始まると良いな」


不幸テレビが最終回を迎え、次に新番組がはじまった。



『新番組、幸福テレビのお時間です!

 きっと今日も1日最高の日になるでしょう!

 

 希望的観測天気予報では、きっと快晴とのこと!

 

 きっとあなたの収入は来年100倍になりますし

 事故のニュースもありません! 幸せです!

 

 地球の近くには星が通るので、

 きっと願いも叶うでしょう!! 祈りましょう!


 みなさん、今日もきっとハッピーな1日をお過ごしください!』



「新番組もアクが強いなっ!!!」



いったいどれだけの真実味があるのか。


それを確かめることはできなかった。



なにせ、地球の近くに接近していた隕石が

何もかもを吹き飛ばしてしまう1日だったから。

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