【2】 林音生作品解釈演習Ⅱ「ビターチョコ・ラブ」

(ア) 概要


【牧口】 はい、それでは、時間になりましたので、2時間目の授業を始めます。2時間目は、林先生のご著書の第3作目「だから、それでも⽣きていく!」の中から「ビターチョコ・ラブ」を扱います。

 この物語の概要を、説明できる⼈はおられますか?


【重森】 では、私が。


【牧口】 では、重森さん、お願いします。


【重森】 はい。この物語は、林先⽣ご主催のグルー プ「センチMENTALクラブ」の元メンバーだった、森俊⼀さんご夫妻の、なれそめからご結婚されるまでを描いた、ラブストーリーです。

 ⼤学時代、同じ個別指導塾で、旦那さんは講師、奥さんはチューター(アドバイザー)として働いておられた。

 奥さんは旦那さんのことが気にかかっておられたが、声をたびたびおかけになるも、旦那さんからは、素っ気ない態度しか返って来ない。しかし、ホワイトデーの時に、旦那さんから告⽩を受け、交際がスタート。

 その後、交際は順調かと思いきや、奥さんが旦那さんの素っ気なさに嫌気がさし、国際パーティーで知り合ったイギリス⼈男性と駆け落ち。

 ところが、向こうの⽣活になじめず、ご病気を発症。そこに旦那さんが突如、迎えに来られる。

 帰国後は精神科クリニックkを受診され、治療を受けながら⼤学⽣活を再開。しかし、奥さんは留年。旦那さんは先に社会⼈になられるが、奥さんの卒業に合わせてプロポーズ。というところで物語は終わっています。


【牧口】 重森さん、ありがとうございます。


(イ) ホワイトデー


【牧口】 では、ひとつずつ、エピソードを⾒ていきましょう。はじめの出逢いから、告⽩を受けるまでの下りは、省略しまして、まずは、ホワイトデーの時の、旦那さんの告⽩のシーン。旦那さんのキーワードは「素っ気なさ」ですが、このときも、ただ素っ 気なく「ビターチョコクッキー」を⼿渡すだけなんですね。この辺についてはどう思われますか?


【古田】 じゃあ、僕が。奥さんには、その素っ気なさが、かえって響いていますよねぇ。⼥性って意外と、男の⽋点に惹(ひ)かれるものなのでしょうか?


【牧口】 なるほど。それに対しては、⼥性である林さんは、どう思われます?


【林】 そうですねぇ。求めるときは、イケメンがいいの、優しい⼈がいいの、と⾔ってますが、実際に恋に落ちるときは、男性のギャップに、惹(ひ)かれることが多いですね。


【牧口】 なるほど。この場合で⾔えば、塾講師としては有能でありながら、性格は素っ気ない、というギャップですか。そういうものなのですかね。


【桝井】 そうらしいですよ。俺の親⽗の場合も、似たような感じだったみたいでして。有能でありながら、メンタル⾯の弱い親⽗に、お袋が惚(ほ)れ込んだらしいですから。


【牧口】 なるほど。⼤変勉強になりますね。


(ウ) イギリスに駆け落ち


【牧口】 では、次のエピソードに参りましょう。個別指導塾における、活躍ぶりの下りは省略しまして、続いては奥さんが、旦那さんの素っ気なさに嫌気がさして、イギリスに駆け落ちしてしまうシーン。非常にやばいシーンですが、みなさん、どう思われますか?


【重森】 私は、奥さんが、本当にそのイギリス⼈に、ほれ込んだのかどうか⾃体に、疑問を感じますね。要は、旦那さんの気を引きたかっただけではないでしょうか?


【牧口】 なるほど。本当は旦那さんを愛しているのに、思うように振る舞ってくれないから、たまたま出会った、⾒た目の良い男について⾏った。


【桝井】 俺もそうだと思いますよ。そして、実際、そんな動機で付き合い始めたから、その彼⽒もすぐに冷たくなった。男だって⾺⿅ではありませんから、⼥性が⾃分に本気かどうかぐらい⾒抜きますよ。


【古田】 そうですよね。奥さんだって、本当はそんな異国の地に⾶び出すなんていう、リスクを背負ってまで、駆け落ちしたくはなかったと思いますね。でも、たまたま⾒つかったのがイギリス⼈だった。


【牧口】 なるほど。旦那さんの気を引くためなら、相⼿は誰でもよかったと。確かに、そういう解釈も成り⽴つかもしれません。林さんはどう思いますか?


【林】 私は、半分くらいは本気だったという気がします。気を引くだけでしたら、遠距離恋愛でもよかっ たと思うんですよ。わざわざ、異国の地に⾶び⽴つようなリスクを、背負う必要はなかったはずです。


【牧口】 なるほど。


(エ) 発症


【牧口】 さて、このエピソードに関しては、議論が尽きなさそうですので、話を進めますと、彼⼥はその後、イギリスの地で、⼼理的に⼋⽅ふさがりになり、「こころの病」を患ってしまいます。そして、ギリギリのところで、突如、旦那さんが迎えに来られるのですね。

 このシーンに関して、「恋愛と《こころの病》との関係」についてはどう思われますか?


【古田】 そうですね。恋愛をすると、こころの動きが激しくなりますからね。それが原因で発症したり、すでに発症している場合にも、症状がひどくなったりしがちだと思います。僕の友⼈の中には、恋愛中に限って、幻聴が聴こえ、⼀時的に「統合失調症」を患ってしまう⼦もいます。


【牧口】 なるほど。ほかにはどうですか?


【重森】 あとは、「こころの病」を患っていると、「依存の恋愛」になりがちですね。毎⽇1⽇中べったりになってしまって。お互い、こころの寂しさを、強く感じたもの同⼠の恋愛になりますので、どうしてもこうなってしまうみたいなのです。


【牧口】 なるほど。とは⾔っても、⼈間である限り、恋愛を避けて通ることは、なかなかできませんよね。どうしたらよいでしょう?


【桝井】 中途半端に付き合うより、早いうちに⼀緒に住んでしまうのが⼀番良いようですね。森さんご夫妻も、その後まもなくご結婚されていますし、うちの親も、結構早い段階で同棲していたみたいで。

 そうすれば、こころの寂しさは埋まるので、変な依存の関係にはなりにくいみたいですよ。


【牧口】 なるほどね。勉強になります。




(オ) クリニックの受診


【牧口】 それでは、次のエピソードに参りましょ う。⽇本に帰ったお2⼈は、真っ先に精神科クリニックを受診されます。旦那さんも、彼⼥を失った悲しみから、発症しておられたのですね。

 どちらか⼀⽅にでも、なにかがあってからでは遅いと判断されて、クリニック受診に踏み切られたのですが、このことについてはどう思われますか?林さん、いかがでしょう?


【林】 「涙の成⼈式」における、私のお姉ちゃんの場合も同様でしたが、「こころの病」の疑いがもたげたら、できるだけ早い受診が⼤切だと思います。

 もちろん、それにびくびくして、なんでもかんでも、病にしてしまうのは、考えものですけどね。


【古田】 そうですよね。早期に受診すれば、お医者さんとしても対処はしやすいのだろうと思います。⼀⽅で、ちょっとしたことにも敏感になりすぎると、⽣活が成り⽴たなくなってしまいますよね。この辺の程度の問題は、さじ加減が難しいところだと思います。


【桝井】 そうですね。俺の場合も、親⽗とお袋は、俺をどのタイミングで医者に連れていくか、非常に迷ったらしいです。でも、結果的には、ちょうどいいタイミングだったらしく、お医者さんからは、スムーズな治療を受けることができました。


【重森】 林先⽣は、なんでも、発症から3年も病を放置されていたそうで。当時は、精神病に対する、世間とご⾃⾝の偏⾒が強すぎて、なかなか周りにお⾔い出せにならなかったのだとか。


【牧口】 そうですね。そのため、先⽣は、重症化してからの治療だったため、⼤変だったみたいですよ。その教訓から、このシーンをお作りになったのだと、私は思いますね。




(カ) ラスト


【牧口】 さて、ラストに参りましょうか。お2⼈は、⼤学⽣活および、個別指導塾のお仕事に復帰しますが、奥さんは留年、旦那さんが先に社会⼈になられます。そして、旦那さんは、奥さんの卒業に合わせて、プロポーズをされるというところで物語は終わっているのでしたね。

 このシーンに関しては、特記することはありませんので、解釈は省略させていただきますね。

 さて、みなさん、いかがでしたか?


【桝井】 俺、林先⽣の作品を、もっと深く読んでみたくなりました!


【古田】 僕も!


【林】 私は、⾳⽣(ねお)先⽣独特の恋愛観に、すごく惹(ひ)かれました。


【重森】 私もです。もっと研究してみたいです。


【牧口】 そう思われるだろうと思いまして、私は、特別に「林⾳⽣恋愛理論講義」という授業も設けていますので、よろしかったらそちらも受けてみてください。


【林・重森】はい!


【牧口】 それでは、これで授業を終わります。お疲れさまでした。


【4人】 ありがとうございました。




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復刻版7「センチMENTALゼミナール!」~林音生作品とピアサポート活動の演習~ 林音生(はやしねお) @Neoyan0624

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