第9話「冥界の門と最後の配達」
最後の依頼
翔太がギルドに戻ると、受付のミーリスが神妙な顔で声をかけた。
「翔太さん、これが最後の依頼になります。」
手渡された依頼書には、「冥界の門への配達」と書かれている。届け物は「光の結晶」という小さな透明の石。
「冥界の門……って、死者の世界に繋がる場所だよな?」翔太は苦い顔をする。
「ええ。でも、届け物の詳細は依頼主も知らないみたいです。ただ、結晶を持っていけばわかると……。」
ミーリスの言葉に不安を抱えつつも、翔太は覚悟を決めた。
「どんな場所だろうと、届ける。それが俺の仕事だからな。」
冥界の門への旅
冥界の門へ向かう途中、翔太とミーリスは不気味な光景に遭遇する。周囲は荒れ果てた大地が広がり、空には黒い雲が渦巻いていた。道中には亡霊のような影が漂い、次々に進路を阻む。
「冥界ってのは、こんなに物騒なのか……。」翔太はカートを押しながらぼやいた。
ミーリスが魔法で影を退けつつ、進むべき道を指し示す。
「冥界の門はもうすぐそこです。でも……何か大きな力を感じます。」
門の前にたどり着くと、そこには巨大な黒い扉がそびえ立ち、その前には一人の男が立っていた。
謎の男との出会い
「ここに何をしに来た?」男は冷たい声で翔太に問いかける。
「荷物を届けに来た。それだけだ。」翔太はカートを示して答える。
男は薄く笑う。
「愚か者め。この扉を開けることは、死と再生の輪廻を乱すことになる。それでも届けるつもりか?」
翔太は男の威圧感に怯みつつも、毅然とした声で答えた。
「依頼を受けた以上、俺は届ける。それが誰のためであれ、何のためであれ。」
男は少し驚いた表情を浮かべるが、やがて扉を指差した。
「ならば入れ。ただし、冥界の奥で待つ者に真実を見せられる覚悟があるならな。」
冥界の奥での真実
翔太たちが冥界の中へ進むと、周囲は次第に光を失い、すべてが灰色の世界に包まれていった。やがて目の前に現れたのは、透き通るような女性の姿だった。
「あなたが……光の結晶を届けてくれたのね。」
女性は「冥界の管理者」であり、かつてこの世界を守るために自ら冥界へ封じられた存在だった。
「この結晶は、冥界の輪廻を再び正すためのもの。でも、そのためには、あなたの強い意志が必要です。」
翔太は首をかしげる。
「俺が?俺はただ荷物を届けるだけの配達員だ。」
女性は微笑みながら続ける。
「いいえ。あなたの信念は、この結晶の力を解放するために必要なのです。」
最後の試練
その時、冥界全体が揺れ、地面が裂け始めた。翔太の前に現れたのは、冥界のバランスを乱す「虚無の存在」だった。
「人間がここまで来るとはな……だが、この世界の力を正すなど許さぬ!」
虚無の存在は翔太とミーリスに襲いかかる。ミーリスが防御魔法を張りつつも、翔太は必死でカートを守る。
「俺は荷物を届けるだけだ!どんな困難だろうと、これだけは絶対に諦めない!」
翔太の強い意志が光の結晶を輝かせ、虚無の存在を撃退する。
冥界の再生
光の結晶が放つ輝きが冥界全体に広がり、灰色だった世界が再び色を取り戻していく。女性が感謝の言葉を翔太に告げる。
「ありがとう。あなたのおかげで、この世界も、私も救われました。」
翔太は息を切らしながらも答える。
「俺は……ただ、届けたかっただけだからさ。」
女性は翔太に一冊の古い本を手渡す。それは「冥界の記憶」が記されたものであり、翔太に未来への道を託すためのものだった。
配達員としての誇り
冥界を後にした翔太とミーリス。ギルドに戻ると、依頼受付は空っぽになっていた。
ミーリスが笑顔で言う。
「翔太さん、本当にこれが最後の配達でしたね。」
翔太はカートを見つめながら呟いた。
「どんな場所でも届ける……それが俺の仕事だ。もう荷物がなくても、このカートと一緒なら、またどこへでも行ける気がするよ。」
翔太の配達の旅は終わりを告げたが、その信念は永遠に生き続ける――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます