誰もいない密室にて
そして有栖が俺を案内したのは、大学近くの有栖専用ラボ――というか、秘密基地だった。そこには沢山の段ボールが無造作に置かれていた。
「有栖、これは……?」
「フフン、これが私の最新発明!『全自動呪いの本読み上げ機』だ!」
と有栖は置いてあったホワイトボードをまくって俺に見せた。
ホワイトボードには大きな文字で先ほどのお馬鹿な名前がデカデカと書いてあって、その構成図らしきものが描いてあった。
そのシステムの中心には書台があり、そこに本を置くらしい。
その正面には台に固定されたロボットハンドを置き、SONY製のデジタルカメラDSC-RX10M4も設置する。
そいつはケーブルでFIJITSU製のラップトップに接続し、こいつが機械を操作する。
そして仕切りを置いた先で、また別のラップトップ。こいつはスピーカーと接続するらしい。
そしてスピーカーの前には人の頭を模した模型があって、マイクが装着されていて、それが3台目のラップトップに繋がっている。
「なるほど、俺はお前のやりたいことがなんとなくわかったよ。でもね、お前にはないけど僕にとっては結構大切な常識って奴が邪魔しちゃって言葉にしたくないんだわ。説明を頼む」
「読むものが呪われる小説があった時、その『読む』という行為は何なのかと私は考えた。知性を持つものが人間だけだった時代には単純だった問いだろう。だが、もはやAIはすでにチューリングテストを突破し、人間よりも人間らしいAIなど巷に溢れている!ではそのAIにこの本を読ませたとき、果たして呪われるのは読み取ったAIなのか、読み上げたAIなのか、聞いているAIなのか。それを私は検証してみようと思うのだ!」
「なんて馬鹿の発想なんだ。頭が良いというお前の設定はどうなった?」
「重要なのはドライブ感だよ!!」
「なるほど、つまり『本を見る知性』、『本を読み上げる知性』、『本を聞く知性』に分割することで、その霊障がどこに発生するかを確認し、そのオカルトパワーを検証してみようってことなんだな?」
「そう!科学とオカルトの境界線に一石を投じる壮大な実験だよ!」
「なお、私たちは呪わるのが怖いので、この1階下に降りて、すべては遠隔操作で起動だけを行う。あとはシステムが自動ですべてを終わらせてくれるから私たちの身は安全だ!私が保証するよ!」
「そして、俺にはこの段ボールを開けてセッティングを手伝えってことか。本当にただの雑用じゃねぇか」
「でも君ちょっとウキウキしてるだろ?」
「バレたか」だっと楽しそうじゃねーか。
全てをセッティングし、試験稼働を行うまでには2時間くらいかかった。試しに普通の本を持ってきていて、そいつを読み上げさせたらちゃんとすべてが上手くいった。
そして俺たちは問題の本を書台にセットし、胸をドキドキさせながら、自分たちが組み上げたシステムにすべてを託し、下の階へと降りて行った。
「それでは、一緒に押そうじゃないか。スイッチ、オン!」
「スイッチ、オン!」
俺たちの中にあった変なテンションは、ここを頂点にして滑降していくことになる。
実験は粛々と進む。有栖は最初は遠隔監視のPCから、写真の量や、テキストサイズなどを監視していた、だがそれを読み上げる段になると、進捗が恐ろしく緩やかになってしまった。
もちろん、システムを変更すれば、5倍速でも10倍速でも読み上げを加速することは出来る。だがそれでは味というものがなさすぎる。そこだけは俺と有栖の思いは一致した。しかし全自動でシステムが動いていると、つまり人間には何もやることがなくなるということなのだ。
窓の外の天気がやたらと朗らかに見えてくる。鳥の鳴き声が鮮明に響く。時々外の道を車が走っていく。
頭の上では呪いの本が読みあげられているというのに、おかしい事の一つも起こらなかった。ただただ静かに時間が流れていく。
「なあ、有栖」
「ん?」
「これ、終わるのに何時間かかる?」
「あと2時間くらいかなぁ…」
「俺たち、何する?」
「……暇だね」
俺たちの盛り上がる気持ちは完全に萎えていたので、俺たちは途中で帰ることにした。
翌日の地元新聞の記事。
つくば市で火災発生、住宅1棟が全焼
20XX年X月X日午後XX時頃、茨城県つくば市XX町で火災が発生し、ビル1棟が全焼しました。近隣住民から「煙が上がっている」と119番通報があり、消防隊が現場に駆けつけましたが、建物はほぼ焼失しました。幸いにも、火災発生時には人は居らず、死者や負傷者は確認されていません。
消防によると、火災はXX時XX分頃に鎮火。周辺の住宅には延焼せず、大事には至りませんでした。近隣住民によると、発生当時、激しい煙と炎が見えたとのことです。
現在、警察と消防が現場を調査しており、出火原因について詳しく調べています。現場付近では一時的に交通規制が敷かれ、住民らに避難勧告が出されましたが、鎮火後には解除されました。
消防当局は「乾燥する時期が続いているため、火の取り扱いには十分注意してほしい」と呼びかけています。
「有栖ぅぅぅーーーー!!!!!!」
「ラボごとサンプル燃えたー!!!!!」
呪いの本の真偽はわからない。ただ一つ言えるのは、有栖院有栖の暴走は誰にも止められないということだ。
実験:読んだら呪われる本 しゅんさ @shunzai3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます