冬
冬休みは実家に帰ることにした。
親に電話をしたのは何年ぶりだろう。
年に1度は会っているから声を聞くのは珍しくない。
けれど、電話で話すのはなんだか照れる。
実家でも連日インターネットについて話した。
テレビも相変わらずこの話をずっとやっている。
実家の布団は嫌いだ。
寝つくのに時間がかかる。
昔からずっとそうだ。
下宿してベッドで寝るようになってから、すぐ眠れるようになった。
布団のせいだろうか。
それとも家に誰かいるから眠れなくなるのだろうか。
眠れないと、ついつい余計なことを考えてしまう。
インターネットのなかった時代はどんなだっただろうか。
今まさに経験しているけれど、これが当たり前だなんて想像もつかない。
正月は親以外にあけましておめでとうを言えなかった。
新年の挨拶のためだけに電話をするのは気が引けたから仕方がない。
今思うと、この頃にはもうかなり気持ちが参っていたように思う。
誰かと会話をしたくて
僕の唯一の趣味は観光地以外を訪れて小さな発見をまとめることだ。
変な看板のようなウケの良いものもあるが、大抵は素朴で何の変哲もないものばかりだ。
特徴のない錆びた標識であっても何年前からあって何年間放置されたのかを考えると面白い。
人が住んでいる場所には、どんなものにも人の接した痕がある。
自分でも変な趣味だと思うが、案外ネットには似た趣味の人も見つかった。
僕らはネットにそれらを公開し、互いに意見を交換していた。
卒論はもう提出したし単位も足りているから大学は消化試合のようなものだった。
変な趣味は全くお金儲けにはならないけれど、どうしても続けたかった。
だから就職活動はしなかった。
思い立ったら行きたい場所に行きたい。
正社員は考えられなかった。
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