第18話 幽霊のような
僕は川沿いを歩きながらクロとグリの案内に従って進んでいた。
あれから3日。食べ物は二匹が採ってきてくれるし、川沿いなので水はいつでも飲める。そして現れるゴブリンはグリが倒してくれる。僕は仲間のおかげで何とも順調なサバイバル生活を送っていた。
「うんまあ…!」
そしてゴブリンが落とす謎の豆。これは僕しか食べられないって二匹が口を揃えて言うので食べてみたら、物凄く美味しかった。しかもカードを見ると同期率が上がっている。それを知った僕は、なるべくグリにゴブリンを倒してもらってたくさん豆を食べるようにした。
「今の同期率は35%かあ…」
この数値が上がれば力の向上に直結するんだろうけど、今ひとつ実感が湧かない。目に見える変化が何もないんだもんな。
『じゃあ食いもん探してくるぜ』
『肉、探す』
そうして今日も、食べ物を探しに二匹が森の中へと入っていった。いつも悪いなあ。
僕はといえばペットボトルの水を交換して、焚き火を絶やさないよう枯れ枝を火にくべる事ぐらいしか仕事がない。
「はあ、僕は何にも出来ないなあ…助けてもらってばっかりだ」
そんな事を呟きながら火に枝を入れる。
頬杖をついてボーッとしているそんな僕だったけど、そこで不意に女の人の声が聞こえたような気がした。
「えっ??」
キョロキョロと周りを見渡す。あれ?今確かに聞こえたんだけど。しかも遠くじゃなくてすごい近くで。
見た限り誰もいない。おかしいなあ…と思いながら、僕は何気なく後ろを振り向いた。
「うひゃああぁーーーっ!!」
僕のすぐ後ろに女の子が立っていた。
顔は長い黒髪で見えないけど、着ている服はうちの高校の制服。猫背で静かに立つその女の子に、僕は見覚えがあった。
「う、薄井さん…?」
そんな僕の問いかけに、女の子はコクリ…と頷いた。あ、合ってたみたいだ。
薄井
某ホラー映画の幽霊のような見た目で、存在感がないのにすごいインパクトのある人だ。そういう方面である意味有名。それにこの子が喋っているところとか見たことないし、ミステリーすぎる人だ。
「あ、あの…薄井さん、それ…」
そして、そんな薄井さんは手に立派な包丁を持っていた。こ、この組み合わせはヤバいよ…絶対に刺される未来しか見えない。
でも僕の言葉を聞いて薄井さんはじっ…と包丁を見つめたあと、ゆっくりと皮袋にしまってくれた。た、助かった…。
僕は出来る事ならクラスメイトとは戦いたくない。僕が弱いってのもあるけど、やっぱり知り合いと殺し合うなんて馬鹿げてる。
「あ、ありがとう。薄井さんは、その…どうなのかな、このゲーム。僕はあんまり戦うとかしたくないんだけど…」
僕に争う意思はないですよ、と薄井さんに伝えてみると、薄井さんはしばらく黙ったあとボソリと呟いた。
「……私も…戦うのは嫌……」
すごく小さい声だったけど、確かに聞こえた。嬉しい事に薄井さんにも戦う意志はないみたい。というか初めてこの人の声聞いたよ、超レアなんじゃないか。
「よ、よかった。あの…それじゃあ薄井さん、もし良かったら僕と一緒に進みませんか?ほ、ほら一人より二人の方が安全だし…」
ここはとにかく生き延びる事が先決。ハンターなんていう危険な存在もいるんだ、絶対に協力していった方がいいに決まってる。星のことは…後で考えればいいんだ。
そんな僕の提案に、これまたしばらく黙ったあと薄井さんはコクリと頷いてくれた。
「よ、よかった!ありがとう!それじゃこれからよろしくね」
僕がそうお礼を言った丁度その時、二匹が森から戻ってきた。
『おいツヨシ、大丈夫か!何だそいつは!』
『今、助ける』
そして薄井さんを見るなり血相を変えて飛んできた。ちょ、待て待て!
うわ薄井さんも包丁出さないで!あっそうか、この声薄井さんには分かんないのか。多分グリ達の声はただの鳴き声くらいにしか聞こえてないのかも。
「ちょ、ちょっと待って、ストップストップ!!どっちも味方だから落ち着いて!」
そんな戦闘態勢の面々の間に入り、僕は必死に事情を説明した。
「…というわけで、僕の【木霊】の力でこの二匹には手伝ってもらってるんだ」
色々とかいつまんで僕たちの事を話し、何とか薄井さんに納得してもらった。いや、返事はなかったんだけど多分分かってくれたと思う。…分かってくれたよね?
でもクロとグリはまだ不審な目を薄井さんに向けている。まあ彼女は何も話してくれないし、そんな感じになるのも分かるんだけどさ。出来れば平和に行きたいよ。
「あ、あの…薄井さんは何の力を持ってるの?」
自分の事は話したから一応彼女の事も聞いてみた。まあ一番大事な事だから簡単に教えてくれるとは思わないけど、一応ね。パーティを組むんだし、そのうちにでも教えてくれると助かるんだけど。
そんな事を考えていると、またしばらく黙った薄井さんはゴソゴソとベルトをいじり、何とカードを僕に差し出してきた。
「えっ!?これ、見ていいの?」
僕の問いに薄井さんはコクリと頷く。こ、これいいの?もし僕が悪いやつだったら奪っちゃうかもよ。いや僕はそんな事しないけど…一応信用してくれてるってことなのかな。
「あ、ありがとう。じゃあ見せてね」
そしておずおずと彼女のカードを受け取った僕は、その内容を見てみた。
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【
『透過』の力。実体と幽体の狭間にあり、自由に物体を透過する。
同期率:39%
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おお、薄井さんレイスなんだ。星は僕と同じ一つだけど同期率高いなあ。それにこの能力もすごい。も、もしかして、一人でゴブリンとかいっぱい倒してきたのかな?
「あ、ありがとう。同期率高いんだね、もしかして魔物と結構戦ったの?」
なのでカードを返しながら本人に聞いてみると、薄井さんはコクリと頷いて返答してくれた。やっぱり…この人ちゃんと強いんじゃないか、こんな細いのに。これ、もしかして僕がこの中で一番弱いのでは…。
そんな風にちょっと落ち込んだけど、心強い仲間が出来たと思って割り切ろう。
そうしてまだ警戒しているクロ、グリをなだめながら、みんなで一緒に木の実や焼き蛇を食べた。薄井さんもちゃんと食べてくれた。感想はやっぱり無かったけど全部食べてくれたから、多分悪くは無かったんだろうと思う。
こうしてちょっと怖いけど頼りになりそうな薄井さんが僕のパーティに加わった。
キラーキラーハッピーソウル・モンスターズマスター・スタースターゲーム 〜突然訳の分からないデスゲームに巻き込まれた学生は、最低ランクの星一つ能力で生き残る〜 花祭 きのこ @kinoko36
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