第17話 けものフレンズ


「ええと、本当にありがとう。君たちのおかげで助かったよ」


小さな黒リスと、ムキムキの二足歩行グリフォンもどき。僕はその二匹に改めてお礼を言った。


『いいって事よ。それにお前、何かほっとけねえ感じなんだよ』


『俺、お前、助けたい。だからやっただけ』


そんな僕の感謝を受け取ってか、二匹とも表情は柔らかだ。普通ならそんな動物の表情の変化なんか理解できなかったけど、【木霊】の能力のせいか感情がよく分かる。…気がする。


「本当に助かったよ。ところで、君たちはええと…動物なんだよね?」


『おう、俺はハガネリスだ。こう見えてもけっこうおっさんなんだぜ』


『俺、グリフニア』


「ええと…、それってそういう種族名って事でいいのかな。さっきのゴブリンはやっぱり君たちとは違うの?」


情報収集は大事。僕は確認するためにそう尋ねたんだけど、黒リスから興奮した思念が飛んできた。


『バッキャロウ、当たり前じゃねえか!あんな奴らと一緒にすんじゃねえ!』


「あ、ご、ごめん。僕何もここの事知らなくって…」


そんな僕の謝罪に黒リスは『おっと、すまねえ』とすぐに落ち着いてくれた。このリス、短気すぎるよ。


『あのな坊主。ああいうゴブリンとかの魔物ってのはな、生き物じゃねえんだ。何者かに作られた気持ちの悪いやつらなんだよ』


『やつら、変。死ぬと消える』


「なるほど…、異質な存在なんだね。でも作られた…か。もしかしてあの研究者が…?」


二匹の話を聞いて僕は考え込む。でも黒リスは構わずに話しを続けた。


『異質っていやあ、坊主からも変な感じするよな。でも坊主のは何ていうかな、嫌じゃねえんだ。むしろあったけえ感じがすんだよな』


『気持ちいい。一緒、いたい』


そんな二匹の言葉を聞いて、僕は嬉しくも気恥ずかしくなった。僕はあんまり人付き合いが上手じゃないから、こんなストレートに好意を向けられるなんて初めての事だったから。


「そ、そう、ありがとう。…あの、もし良かったら、僕と一緒に来てくれないかな。君たちがいてくれたら心強いし…」


だから僕はこの二匹に協力を求めた。

【木霊】の力のおかげとはいえ、この二匹からは本心からの好意を感じる。

危険も多いこんな場所で生きるには絶対に僕一人じゃ無理だ。この二匹がいてくれたらすごく心強い。


そんな僕のお願いに対する返事は、


『おう。丁度子供も巣立ったとこだし、いいぜ。坊主の面倒見てやるよ』


『俺、お前、助ける』


と、真っ直ぐに肯定するものだった。



「ありがとう…二人とも本当にありがとう!これからよろしくね!…ええと、そうだ君たち名前は?」


『そんなのねえよ。人間じゃあるまいし』


『俺は俺』


うーん…名前が無いと不便だし、味気ないなあ。

そう思った僕は二匹に名前を付けることにした。


「僕が名前をつけてあげるね。ええと…ハガネリスの君は“クロ”。グリフニアの君は“グリ”でどうかな?」


『クロ…捻りも何もない名前だな。まあいいや、その名前で呼んでくれ』


『グリ…。気に入った』


悪態をつきつつも嬉しそうなクロと、素直に喜ぶグリ。ふう…いい反応でよかった。


「僕は児玉剛義。ツヨシって呼んでね」


こうして頼もしい二匹が僕の仲間に加わってくれた。


……




『おう、着いたぞ。ここが川だ』


僕の肩に乗ったクロが指し示す通り、目の前には立派な川が流れている。おお…見るからに綺麗な川。十分飲み水にできそうだ。


「すごい…ありがとうクロ!これで何とか生き延びられるよ」


そう感激しながら僕は水を手ですくい、ゴクゴクと喉に流し込んだ。おお、よく冷えてて美味しい!

満足いくまで水を飲み、空になったペットボトルにも水を補給した。


「ふう…これでひとまず飲み水は大丈夫かな。あとは食べ物なんだけど…」


そうして困った顔を見せれば、気の良い二匹は『仕方がないな』と言いながらも気合を入れ、森の中に入って行った。本当、何から何までありがたいです。


そして30分も経った頃、二匹は揃って戻ってきた。

クロが丸めた尻尾の中には、木の実のようなものが何個か入っていた。そしてグリの手には平べったい紫色の蛇が握られていた。それを見て僕の顔は少し引き攣った。


「あ、ありがとう二人とも。あの、グリ…その蛇って食べられるの?それに僕は生じゃちょっと…。火があれば食べられるんだけどなあ」


遠回しに僕食べたく無いです、と伝えたつもりだったけど、グリは何とも無いような顔で言った。


『俺、少しだけ火、吹ける』


そしてグリは落ちていた枯れ木を拾い、その口から小さな火の玉を吐いた。

1cm程の火の玉が枯れ木の先に着火し、ゆっくりと火が燃え広がっていく。僕はその様子を呆気に取られた顔で見ていた。


「え、ええーーっ!?い、今の何?火を吹くなんて信じられないよ!あ…そうか、ここはもう元の世界じゃ無くって異世界…それならこういう事も…」


ブツブツと呟く僕を見てグリは首を傾げてたけど、構わずにしっかり火がついた松明のような枯れ木を僕に差し出した。


『ツヨシ、火、着いた』


「えっ?ああ、ごめんね、ありがとう。グリ、君ってすごいんだね、本当に頼りになるよ」


松明を受け取りながらお礼を言うと、グリは嬉しそうに目を細めた。


『おいツヨシ、俺だってすごいんだぞ。危ない奴が近付いたらすぐに分かるんだからな』


そんな二人の様子を見てクロが自分の能力をアピールしてくる。そんなクロの言葉を聞いて僕は「うん、助かるよ。期待してるね」と笑顔で応えた。


グリに着けてもらった火を使って焚き火を起こし、紫色の蛇を焼いて食べてみた。火をつけてもらった以上逃げられなかったからね。

グリが鋭い爪を使って腹を割き、内臓を取り出してくれたのでちゃんと身だけ食べれた。意外と淡白な味だけど美味しかったのでビックリ。取り除いた内臓はグリが食べてた。


そしてクロが採ってきてくれた木の実。見た目は完全に小さなウンコみたいな硬くて茶色い木の実だった。でも殻を割ってみると中には黄色いナッツが入っていて、これがめちゃくちゃ美味しかった。何でも「ウンピョコの実」というらしい。何て嫌な名前だ。

でも見た目はアレだけどまた食べたいな。僕がクロにそう言うと、クロは嬉しそうに『また採ってきてやるよ』と言ってくれた。


「ふう、お腹いっぱいだよ。二人ともありがとうね」


そんな満足そうにお腹をさする僕を見ながら、クロが質問してきた。


『ところでツヨシ、お前これからどこに行くんだ?』


「ええっと…鉄で出来た塔っていうところなんだけど…二人とも、そんな建物知らない?多分大きな建物だと思うんだけど…」


そんな僕の返答に少し考えて、グリが口を開いた。


『大きい建物…あっち、あった。俺、見た』


そうしてグリは指を指す。でもここからじゃその方向は木々に隠れていて見えない。


『俺も知ってるぜ。どれ、ちょっと待ってな…おお、確かにあっちだ。長細い建物がこっから見えるぜ』


そしてクロがその場で木に登り、確認してください。確かにその方向に塔があるみたいだ。

多分それが僕の目指す鉄の塔の可能性が高い。やった、進む方向が分かったのは大きい。僕はホッと胸を撫で下ろした。


「ありがとう!多分その建物だよ。二人とも頼んでばっかりで申し訳ないんだけど、案内お願いできるかな?」


『分かった、任せろ』


『おう、気にすんな』



そして二匹の案内のもと僕は歩を進めていく。そしてその先で僕は、思わぬクラスメイトと出会うのだった。

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