第14話 根っこ的な
「えー水の皮袋と、中途半端な長さの剣とナイフ、あとこれは…非常食か?うへ、なんか不味そうだな」
無事ハンターを倒した俺は、ハンターの荷物を物色していた。物資の乏しい現状、これらの戦利品は貴重な報酬。ありがたく頂こう。
この剣はいわゆるショートソードというやつか。剣なんぞ使ったことないが、そこは男の子の憧れ。今まで脳内で何回も振るってきたし、多分使えるだろ。
「しかし弓矢は持ってなかったな。初日に襲ってきた奴とは別の奴か…おっとこれは」
所持品から初日に襲ってきたやつとは別人だと判断。
そんな事を考えながら男の服を弄っていると、ポケットから小さな箱が出てきた。
「こ、これはまさしくマッチ!やった!ついに火が手に入った!」
今や地球では見かけることも少なくなったマッチ箱。本数に制限はあるが、立派な着火道具だ。サバイバルにおいては有難いことこの上ない。助かります!
「よし、タンパク質…タンパク質だ!肉でも何でもいいから焼いたタンパク質が食べたい!」
この際蛇でもネズミでも何でもいい。焼いた物が食いたい。あ、虫はまだ勘弁して下さい。
そうしてテンションの上がった俺は、早速とばかりに食材を求めて動き出した。、
……
…
「よし、こんなもんだろ」
俺はひとまずの狩りの成果に満足。
獲れた獲物は小さなツチノコみたいな蛇と足卵、それと初見のキノコだ。
蛇は頭落として火を通せば食えるだろ。キノコは毒があっても問題ないし、何なら毒があった方が能力が増えてお得ですらある。
そしていつもお世話になってる足卵さん。今日初めてこいつの産卵?シーンを見た。
茂みに隠れた大きめの足卵を見つけたのだが、何だか様子がおかしかった。観察していると、プルプルと小刻みに震えた足卵に突然パキッとヒビが入り、パリパリと割れたのだ。
そこから出てきたのは6匹の鶏卵サイズの足卵。しばらく呆然と見ていた俺はハッとして、元気よく散ろうとする足卵ベビーを急いで回収した。
相変わらず不思議な生態の生き物よ…。一匹逃してしまったが、貴重なものも見れたし俺は満足だ。
石で囲った所に燃えやすそうな草や木を集め、それらにマッチで火を付ける。
うむ、いい感じ。
そこで串に刺した蛇の開きと黄色いキノコを置き、炙るように焼く。何とも言えない美味そうな匂いが立ちこめる。
そこに塩をひとつまみ。この塩はアイスプラントみたいに塩の結晶を生み出す植物があったので、そこから頂いた。
「熱っ…ハフハフ…うめえ〜!」
久しぶりの肉は格別に美味かった。淡白だけどこれぞ肉!っていう感じ。僕満足。キノコも最高。塩もいいけどやっぱり醤油が欲しい。
「あ、これ毒キノコだ。なになに『ビリリタケ』…おお麻痺!効果は微弱だけど麻痺キノコきた!」
ラッキーなことに麻痺キノコをゲット。いやあ美味しい上に能力ゲットとは、ありがたいですねえ。
「いや〜美味かった。満足満足。腹一杯だから卵は明日にしよう」
ナベがあるから焼きも茹でも出来る。食の幅が広がった事に満足した俺は、最後にゴブ豆を口に放り込んだ。
「うめっ。…お、同期率が50%になった。けどやっぱ何も変わらんな。本当、これ一体何なんだろうな」
何だか分からんがどんどん上がっていくカードの数値。それに俺は頭を捻りつつも「分からんもんは分からん。まあ上がる分にはいいだろ」とスルーした。
そろそろ日も暮れてきた。オレンジ色の空を見ながら程よい木を探す。
「む、この木なんか良いじゃないか」
今日はこの木の上で休もう。
「ァ……ク……」
そう考えた俺だったが、その時また変な声が聞こえた。なんだ?どこから?
しかし周りを見ても誰もいない。やはり気のせいか…でも何だか周囲の様子が変だ。違和感がある。
…そうか、静かなんだ。虫の声も動物の声も何も聞こえなくなっているんだ。
ゴクリ…
俺は重い荷物を地面に置き、ショートソードを手にしながら辺りに注意を配った。何だ、何かいるのか?
場に緊張が走る。そして不意に後ろからガサガサと音がした。
バッとそちらに向き直る。そして木の陰からぬっと現れたのは、体毛の無いゴリラみたいなでっかい豚だった。
「ブタ…ゴリラ?いや、もしかしてこいつオークか?」
ブタみたいなゴリラ、推定オークが鋭い目つきで俺を睨む。正直圧がすごい。ゴブリンとは比べものにならん迫力だ。
あ、頭にちっちゃい豆みたいなのが付いてるじゃん。やっぱりこいつもゴブリンとおんなじ魔物なのか。
「フゴッ、ブフフアッ!!」
興奮した様子のオークは咆哮をあげ、棍棒を手にして俺に向かってきた。やる気だ。以前の俺なら軽く失禁してただろう迫力だが、今の俺は一味違うんだぜ。
「まあ余裕は無いけど…なっと!」
オークによる上からの棍棒叩きつけ攻撃を横に避け、素早く距離を取る。
ひえっなんつう力だ、地面が抉れとる。しかも手が長い上にあの棍棒。反則的なリーチだ。こりゃショートソードなんかで太刀打ち出来んぞ。
「まずはあの棍棒をどうにかしないと」
頭の中で持っている手札を思い浮かべる。手札は多いが俺の力は殺傷力皆無。絡め手でいくしかないのが悲しいところ。
「くらえ!ローションビーム!」
俺は頭にヌルポギを咲かせ、マンドレイクの口みたいな穴からローションを発射。
頑張ればその植物由来の液体なんかを穴から発射できることに、最近気付いたのだ。ギュゥ〜ッと絞る感覚できついし、ビームといいつつ水鉄砲くらいの勢いでショボいのだが、前に発射できることが肝心なのだ。
「ブヒガァっ!?」
突然頭のキモい部分から発射された液体が手にかかり、ヌルヌルと驚きが相まってオークは棍棒を取り落とした。
慌ててオークは棍棒を拾おうとするが、ヌルヌルした棍棒はツルッと手から逃げていく。
「今だ、粘着地獄!」
そして間髪入れずガムフラワーを生やし、花と口の穴から蜜を噴射。これはギュゥ〜ッと絞るように頑張ることで(以下略)
「フゴッ!?ガフガフ、ブヒィーッ!」
俺の放ったガムフラワーの蜜がオークの膝下をガッチリと捉え、固定する。よし機動力は奪えた、あとは料理するだけだな。
しかし気を抜いたのがいけなかった。次の瞬間にはオークの長い腕が伸び、俺の胴体をガッシリと掴んだ。
「く、しまった…油断した!」
まさかここまで手が届くとは。む、足を固定されつつ前に体を投げ出して手を伸ばしたのか。
「ぐ、うぐ…」
「ブヒヒ、ゴフゴフ!」
ギリギリと物凄い力で体を握りつぶそうとしてくるオーク。
あ、これヤバ…。頭の中で危険信号が鳴り響く。は、反撃しなくては…!
「ぐ…喰らいやがれ!」
ゲルリロの実を生やし、マンドレイクの口穴からその果汁を発射。見事にオークの顔面に果汁を浴びせかけたが、オークはブリュブリュブツチチと汚いもんをひり出すだけで力は全く弛まない。くそっ…羞恥心が無いってのは厄介だ。人間だったら絶対に怯むのに!
いよいよ体がミシミシと悲鳴をあげる。ぐ、苦しい…ヤバい…もう打つ手が無い。助けて神様仏様…。一日一善します…お風呂場でおしっこはしません…だから助けてください。
意識が遠のいてきた。
朦朧としながら丸太のようなオークの腕にしがみつき、引きはがそうと力を込める。が、やはりビクともしない。ダ、ダメだ…動かない。
終わり…これで終わりか…。
だがそう諦めかけたその時、それは起こった。
「フ、フゴッ…!?」
俺が掴んだオークの腕が、水気を失った植物のようにしなしなと萎んでいったのだ。
な…何だこりゃ!?
よくよく自分の手を見ると、掌とオークの腕が大量の糸みたいなので繋がるようにくっついていた。
さらによく見るとその糸は植物の根っこのようで、どうも俺の掌から出ているらしい。
「うわああ何ぞこれ!キショ、きっしょ〜!」
手から出てきた糸ミミズみたいな根っこ。それがウネウネと動く様子を見て、俺はゾワゾワとする。
しかしがっちりと食い込んでいたその根っこは予想に反してするりと抵抗なく取れ、力を失ったオークの腕からも無事逃れる事ができた。
そしてすぐに違和感に気付く。
頭が、何だか頭が熱い。これはどうした事だ。今にも頭の何かが弾けそうだ!
「んあ”あ”ぁ〜〜〜っ!!」
高まる何かを抑えきれず、それが臨界点に達した時、突然頭から特大のガムフラワーが開花。そしてそこから引くほど大量の蜜が大放出された。
ビュルルルルルと飛び出た大量の蜜がオークの上半身を包み込む。片腕が萎んで使い物にならなくなったオークは残った片腕で顔の蜜を取ろうともがくが、抵抗虚しく鼻や口にも蜜が入り込んでいく。
「ゴッ……ボゴ……」
そして数分もするとオークの動きは完全に止まり、ゴブリンと同じように萎んで塵となり消えていった。
虚脱感も相まって、俺は呆然とその様子を見ていた。
そしてニョロニョロと掌から自在に出せる根っこを見ながら、スッキリしつつも少し朦朧とした頭で考える。
「この根っこはマンドレイクの力、だよな。これでオークから栄養を吸った…そしてあのバカでかいガムフラワー。根っこで栄養を吸うとああいうパワーアップ攻撃が出来る…のかね」
淡々と推測を重ねていく。
敵から養分を吸収し、それを自分の力にして特大の一撃を喰らわす。多分そんな感じの能力だ。
うむ…いつの間にか新たな力を手に入れていたようだ。正直体がどんどんおかしくなってきている事には恐怖を感じるが、これも生き抜くためには必要な力。これも今後検証していく必要がある。使いこなせればかなりの強みになるからな。
「よし、この力をドレインタッチと名付けよう」
新しい力に俺の心はルンルン気分。技の反動か、かなりの虚脱感と疲労感が体に残っているが、オークの戦利品を回収する足取りは軽かった。
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