第4話 かくしてゲームは始まった
いかにも研究者という感じの人が、とても楽しそうな顔でゲームとやらの開催を宣言しました。
「ゲーム?一体何を言っているんだ。それにあなた達は一体何です?」
男子クラス委員長の城守“しろもり”君が正面から疑問をぶつけました。
正直みんなが思っている事なので、こういう時に臆せず意見が言えるのは羨ましいです。
「あ、僕たちかい?うーんそうだなあ。見ての通り研究者だよ研究者。色々実験とかして、未来に役立つものを研究してるんだ」
男の人はニコニコしながら話を続けます。
「さっきはゲームと言ったけどね、今回僕たちが試したいのは、とある研究成果の検証なんだ。その為に君たちにはこの研究所へ来てもらったんだよ」
来てもらった…という事は、私達をこんな場所に連れてきたのはこの人達。
それならば、この人達なら私達を元の場所に帰すことも出来るのではないでしょうか。
そう思った時、一人の生徒が動きました。
不良のリーダー
「おいテメェ。今すぐ俺たちを元のところに戻せ」
男の人の胸ぐらを掴み、恐ろしい顔で大破君が言います。こ、怖い。これが殺気というものでしょうか。
「あはは。無理だよ、無理無理。ちゃんと実験に付き合ってくれないと〜」
男の人は、胸ぐらを掴まれながらもヘラヘラと笑っています。この人は大破君が怖く無いんでしょうか。
と、そこに大破君が容赦の無いパンチを思いっきり男の人の顔面に叩きこみました。
ズゴン!!
物凄い音がして私は思わず目を背けます。でも男の人は少し後ろに仰け反っただけで、何と殴ったはずの大破君の方が拳を押さえて痛がっていました。
「…ちっ、何だこいつ。異常に硬ぇ」
「あはは、そりゃそうだよ。僕たちは強化手術をしている強化人間だからね、そんなぬるい攻撃全然意味ないよ。あ、でも刃物だったらすこーしぐらいは通るかもよ〜?ねえねえ、やってみる?」
男の人はニヤニヤしながらそう言うと、「さてと…」と気を取り直したかのように皆に向き直り、話を続けました。
「じゃあ本題に行く前に、大事な確認をしようか。みんな、ペアになってカードをちゃんと一枚持ってるよね?」
そうして男の人は、誰も返答しない私達の様子を見渡してウンウンと満足そうに頷きました。
「よしよし、大丈夫だね。それじゃあ行くよ〜、死なないように気を強く持ってね!」
そして男の人は「ポチッとな」と、いつの間にか手にしていたリモコンのボタンを押しました。
その瞬間、私達の足元が突然丸く光り輝きました。そして浮かび上がる複雑な図形やよく分からない文字。
えっ、これってまさか…い、いわゆる魔法陣?
すごく精緻な紋様が描かれていて、それが高速で動いている。まるで一種の芸術のよう。
そんな事を思っていると、私と由美ちゃんの周りをたくさんの小さな光が回り始めました。
よく見ると周りの人達も同じ状況でした。
どうやらペアごとに、二人を光が囲んで回っているようです。
周りを回る光がチカ、チカチカ、と光を強く発し始めたその時
「ぁ、あああぁぁああーーーっ!!!」
突然由美ちゃんが絶叫を上げて苦しみ出しました。頭を押さえてうずくまる由美ちゃん。いや由美ちゃんだけじゃない、他のどのペアもどちらか片方の人が苦しがっています。
「ゆ、由美ちゃん、大丈夫ですか!?」
「い、いやああああぁぁぁーーっ!!」
そして苦しむ由美ちゃんの体がカッと物凄く光った瞬間、それは起きました。
「く…キ…キグ、グクエェェエエェエーッ!!」
何と由美ちゃんが燃え盛る炎の鳥に変化したのです。
そう、炎の鳥。そうとしか言えません。まるで…あのカードの絵のような…
私は恐怖のあまり床にへたり込んでしまい、その場を動けません。
そこへ呑気な男の人の声が聞こえました。
「はーい、それじゃあ今からお友達と融合してもらいます。ちょーっと辛いかもしれないけど、がんばって下さいねー!」
えっ、何?今何て言いました?融合???
私は恐怖と混乱で頭が真っ白でした。
でも火の鳥の由美ちゃんはそんな私に構わず、私の体に覆い被さってきました。
「き…きゃああぁぁあぁーーっ!!!」
熱い!と思う間も無く、由美ちゃんは私の中にズブズブと入ってきます。やだ…体の中に…、混ざる…混ざっていく!
炎が。熱い。体が、内臓が、骨が、焼ける!
…死ぬ、死んじゃう!
周りからも悲鳴、絶叫が絶え間なく聞こえる。そんな中、一切構わずに男の人は話を始めた。
「えー、君達にはこれから幾つかの『試練』に挑戦してもらいまーす。『試練』の内容はステージを進むごとに説明するけど、生徒手帳にも記載しておくから確認してね。じゃあまず最初の『試練』の説明をするので聞いて下さーい」
「まず、これから君たちをバラバラに転移させます。そうだなあ、一つのエリアに大体6人くらいかな?まあ適当に。そしてそのエリアからの脱出をしてもらいます。そう、最初の試練はいわば脱出ゲームなのさ!」
悲鳴が響く中、男の人は楽しそうに続けていく。
「そしてその試練のゴールは『鉄の塔』。でもこの塔に入って先に進むには、『星』が3つ必要なんだ。…そう『星』さ。君たちのカードにも書いてあっただろう?あの『星』だよ」
男の人はどんどん楽しそうな顔になっていく。
「つまり、君たち同士で『星』、つまりそのカードを奪い合うんだ!カードの星が多い人から奪えばすぐに条件は達成。少ない星だったら、まあ何人かのカードが必要になるかな」
「ちなみにカードは、持ち主から離れて3分経ったら、持ち主の脳と心臓が破壊されて死ぬからね。取られないように頑張ろう!」
こ…この人は、何てこと…を…考えるの…
「でもそれじゃあ甘ったれの君たちは動かなそうだよね。だから僕は救済処置も用意した。どうしても友達同士で殺し合いたくないっていう人は、『ハンター』を倒しましょう。ハンターは必ず星を一つ以上持っているから、各エリアに複数人配置したハンターを探せば良いよ」
でも本当は君たち同士で戦ってくれた方がデータ検証のためには良いんだけどね、と言いながら男の人は続ける。
「ただしハンターはけっこう強いよ、人殺しの経験が豊富だからね。戦う時は気を付けないと逆にやられて星を取られちゃうかもね」
周りの悲鳴が少しずつ収まってきたみたい。
私の体もほんの少し、少しだけだけど楽になってきたような気がする。
「そして重要な事がもう一つ。君たちは見ての通り、カードに描かれている魔獣と融合した!つまり人間の枠を超えて、魔獣の力を使う事が出来るんだよ!どう、すごいでしょう!?これ、これこそが僕の研究の成果なんだよ!」
男の人は目を爛々とさせ、明らかに興奮しながら話しを続ける。
この人は何を言っているの…
私の…私の親友の由美ちゃんをあんな化け物にして…
とても正常な思考とは思えない。
「何とこの力、少しずつ成長するんだよ!同期率が高くなればなるほど、魔獣の力を制御して自由に使えるようになるんだ!」
「でも一つだけ注意が必要だ。同期率が低いのに無理に力を引き出そうとすると、バランスが崩れてしまう。力が暴走して魔獣そのものになっちゃうんだ。これ、星が多い魔獣ほど制御が難しいから、気をつけてね」
「ちなみに無事に全部の試練をクリアできたら、その子の状態を全部元に戻してあげる。融合素材の魔獣化した子も戻すし、元いた場所にもちゃんと帰してあげるよ」
そ、その言葉、本当でしょうね…?
…いえ、もとより、やるしかない。
私は…帰りたい。由美ちゃんと一緒に、そして愛する彼、瑠璃丘君と一緒に。
だから…こんなひどいゲームだって、彼と一緒なら絶対にクリア…してみせる。
「それじゃーそろそろ始めるよ!これから転移させるけど、物資はサービスだよ。あと最初の宝箱もサービスね。何が入ってるかは完全にランダムだからお楽しみ。変なものが出ても恨まないでね〜」
その声が徐々に遠くなり、私の意識は完全に闇に飲まれた。暗い、暗い、闇。
でも私の心の中には、燃えるような、暖かいような、そんな炎のような温もりを感じていた。
「それじゃ、
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