第4話 イェルの過去

「イェル…お前さんは…」


 ノッペさんは驚いていた。でもボクにとっては話してほしくなかったのだ。思い出す度に涙が止まらない…怖いんだ…。


「たぶん言われたら辛いんじゃねぇかな?例えば周りに言いふらす可能性があるとか」


 シェインが推測をしてきた…あってる…だってこの話を聞くとボクの印象が…。

 キャリナがボクの目線に合わせて優しく話しかける。


「あなたのこと、誰にも言わないわ。約束を破ったらその口でガブっと腕を噛みちぎってもいいからね!」


 かなり物騒なことを言ってるけども…この人たちは悪い人じゃないような気がした。

 ……話されるのは怖いけど、ボクはノッペさんに頷いた。


「わかった、イェルの過去を話すが他言無用じゃぞ」

「わかっている」

「聞かせてくれ」


 シェインとキャリナも真剣に答えた。


「そう…あれば6年前のことじゃ…」


 ノッペさんの言葉から昔のことを思い出してくる。


 6年前、剥鱗はくりん病という未知病が世界中で流行り出した。竜人族や爬虫族に罹る病気で鱗が簡単に剥がれてしまい最終的に鱗のない皮膚が黒く変色して死んでしまう病気なのだ。

 その病気に…母さんが罹ってしまったのだ。母さんは町で医者をやっていた。外部から来た人も診ていたからか剥鱗はくりん病に罹ってしまったのだ。剥鱗はくりん病に罹った者が現れれば家族諸共迫害の対象になってしまう。ボクと父さんがそうだった。

 それでも、誰か治療法を見つけてくれると最後まで母さんの看病をしていたけど、ダメだった。母さんの面影が無いほどの変わりようで…何も出来なくてとても悔しかった…。

 その後夜中に父さんと町から出ていくことを決めて他の町まで崖の道を通っていたけど、誰からか雇われた武器を持った人たちが現れた。恐らく剥鱗はくりん病を広めないために雇ったんだろう。その日は雨でボクは荷車の中にいた。父さんは相手と言い合ったなこんなことを叫んだ。


「娘も剥鱗はくりん病末期で森の奥で捨ててきた。お前たちが殺すのは私だけだ!!」


 ボクを捨ててきた…いいや、父さんの言った意味はなんとなくわかった。ボクだけを逃すんだと。


「荷物なんて捨ててやる!」


 父さんはボクを乗せた荷車を崖の下の森林に突き飛ばした。ボクは必死に捕まっていたが、当たりどころが悪かったのか途中で気を失った。

 次の日、雨が上がっていた…周りははっきり見えるなか、見たくなかったものがあった。

 そこには父さんが剥鱗はくりん病のように鱗を剥がされ身体中を熱で焼け焦げさせて絶命していた姿があった。


「あ…ああ…あああぁぁぁ———っ……」




 あれ以来、ボクはショックで声を失った。

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