~月兎~

紫音

第1話 月兎

昔々あるところに、白い兎がおりました。兎同士仲間を作り群れで活動しておりました。


この頃の兎は、今のように色々な毛並みをしているものはなく、茶色の毛並みをした兎だけでした。

そんな中、白い毛並みを持って産まれた兎は珍しい存在でした。

それはそれは見事に真っ白で、雪の中のかくれんぼでは、誰もその白い兎を見つけることは出来ませんでした。

子兎達は、遊びながらその白い兎に尋ねました。


ねぇねぇ、なんで君は白い毛並みなの?


白い兎は答えました。


知らないよ。でも、お母さんは立派な綺麗な毛並みだねって、いつも褒めてくれるよ。


茶色の兎達は言いました。


ふ~ん。でもさ、うちのお母さんは言ってたよ。兎が白いなんて見たことも聞いたことも無いって。


茶色の兎達は続けて言います。


君、実は兎じゃないんじゃない?


白い兎は間髪いれずに言いました。


そんなことないやい!僕は兎だもん!


茶色の兎達は、白い兎を囲んでからかいだしました。


ちょっと大きなネズミなんじゃないの?

兎じゃないのに兎のふりしてるんだ~

やーいやーい白ネズミ~

村から出ていけ白ネズミ~


白い兎は居ても立っても居られず、その場を離れようとします。しかし、囲まれてる為その円の中心に居るより仕方ありません。逃げ場を無くした白い兎は、その場にうずくまる事しか出来ませんでした。

その様子を見て、更に茶色の兎達はからかいます。


やーいやーい意気地無し~


夕暮れになり、皆帰る時間になりました。茶色い円は方々に散っていきます。


白兎は泣きながら帰ってきてお母さんに聞きました


お母さん、なんで僕は白い毛並みなの?皆と同じ茶色い毛並みじゃないの?


お母さんは言いました


それはね、あなたが特別だからよ。


どう特別なの?


それは言えない約束なの。ごめんね。...でもヒントなら言えるかな...兎の毛並みはね、その土地の色に馴染むようになってるんだよ


お母さんの嘘つき!特別だなんて言ってほんとは何もないんだ!馴染んでないもん!ぼくも茶色の毛並みがいい!


白い兎は家から飛び出しました。


もう友達もお母さんも信じられない!


白い兎は泣きながら山を駆け登ります。

泣いて泣いて、どんどん山を駆け登ります。すると隣の村に出ました。そこにも茶色の兎達がいました。


白い兎だ!

ほんとだ!

嫌だ不気味な!何か悪いことでも起きるのか!?

出ていけ!

出ていけ!

出ていけ!


村の真ん中を泣きながら突っ切り、山をどんどん登ります。


うわぁぁぁぁん!


もう、こらえきれませんでした。

山の頂上で白い兎は大声を出して泣きました。


うわぁぁん!うわぁぁん!うわぁぁぁぁん!!


泣いて泣いて泣いて泣いて泣き続けて

白い兎の目は真っ赤になりました


ふと空を見上げると、そこには大きな大きなまぁるい月がありました。


...お母さんが言ってたな。あの真っ白な月なら、僕の白い毛並みも馴染むかな...


と、白い兎は思いました。


その時、さっき通ってきた村の兎達が後を追ってくるのが聞こえました。


おい!どっちに行った?

とにかく登っていこう!山の頂上へ行ってみよう!


おーい!こっちだ!いたぞ!山の頂上にいるぞ!捕まえろ!この山から追っ払え!


どんどん登ってくる茶色の兎達


白い兎は怖くなりました

そして、目一杯助走をつけて、大きな大きなまぁるい月に向かって飛びました




やぁ、君も来たんだね。ここから見ていて心配していたよ。

ようこそ!

ようこそ!

よく来たね!


そこは白い兎の村でした。


ねぇ、君たちはなんでそんなに真っ白なの?


変かい?君もあの茶色の兎達と同じことを聞くんだね。君のお母さんの言う通り、ここは白いだろう?だから僕らも白いのさ


じゃあ、お母さんの言ってたことは本当なの?


うん、本当さ。


お母さんの言うこと信じられなくてごめんね。白い兎は思いました。同時に寂しくなって泣きました。


おかあさーん!


おかあさーん!


山びこが繰り返します。何度も何度も繰り返します。


1匹の白兎が近づいてきました。


これだけ山に響いているから、きっとお母さんにも届いているよ。

さ、いっぱい泣いたからお腹空いただろう?こっちにおいでよ。皆で君の歓迎会をするんだ。餅つきってやったことあるかい?


餅つき?


知らないんだね。じゃあ一緒にやろうよ!


白い兎は涙を拭いて言いました。


うん!一緒にやろう!餅つき終わったらかくれんぼしようよ!














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