第1話 一緒にお昼がしたくて

七月初頭、配偶者選定試験の結果が配られ、私こと長篠茜には元片思い相手、竹内綾人くんが配偶者になりました。

ちなみに元片思いというのは、結果配布の時に色々……、そう色々あって身分上は配偶者というもののまずは友達をすっ飛ばしてお付き合いすることになったからです。


もちろんびっくりしましたよ。片思いしていた相手が自分に片思いしてるなんて、現実かどうか疑いました。昨日の夜と今朝二回、頬をつねりました、痛かったです。どうやら現実のようです。



四限終了のチャイムが鳴り、授業終わりの生徒は各々昼食を取り始めるために動き出している。

いつものくせかばんから弁当を取り出そうとして、今朝のことを思い出す。

そういえば今朝は珍しく寝坊をして弁当を作りそびれた事を思い出し、鞄から財布を取り出して購買に向かうことにした。



教室から少し離れたところにある購買では、昼食の限定メニューを購入しようとする生徒同士の激しい戦いが起きていた。

とりあえず限定メニューの方はいいとして、購買のパン売り場のラインナップを見て今日の昼食を考えることにした。


(サンドイッチ、メロンパン、チョココロネ……、どれも美味しそうだけど、今日はこれにしよう)


悩んだ末、私が手に取ったのはパニーニだった。大きさは程よく、昼食にするにはもってこいのメニューである。

そうしてパニーニをもって会計に向かおうとした時、ふと誰かに声をかけられた。


「長篠さん」

「!竹内くん」


声をかけてきたのは私の配偶者及び彼氏の竹内くんだった。


「長篠さん購買?珍しいね」

「はい、珍しく寝坊してしまって今日は人生二回目の購買です」

「そっか〜二回目か〜。ちなみに一回目の購買利用のときはなんかあったの?」

「前日に弁当の具材を作り忘れました」

「そりゃ大変だ」


そうしてちょっとだけ他愛のない会話をしてから、私と彼は会計を済ませた。ちなみに彼はメロンパンとカレーパンを買っていた。

そして私は、彼にある提案をした。


「あの、竹内くん。よかったら一緒にお昼食べない?」


ほんの少し勇気を出して聞いたものだから、薄っすら耳が熱い感覚がある。

私の提案を聞いた彼は一言「逆にいいんですか?」といった。


「?逆に、とは」

「え、いやだって、俺みたいな奴と昼メシとか―

―――」


よく見ると彼は耳を赤く染めており、困惑や緊張の類の感情が顔に出ていた。

そんな彼に対し、私はこういった。


「竹内くんだから、いいんです」

「………へ?」

「というか竹内くんじゃなきゃ男性をご飯になんて誘いません。そもそも私達は配偶者でありお付き合いをしている身分です、嫌だなんて思いませんよ」


ここまで言うとこっちが恥ずかしくなってきた。顔が熱い。


「でも、嫌ならそれでいいですよ。私はその気持ちを尊重―――――――」

「嫌じゃないです!お昼、一緒に食べたいです!」


彼はどうやら決心がついたようだった。いや、内心断られるかヒヤヒヤしました、よかったです。


「じゃあ早速、一緒にご飯食べましょうか」



購買近くの空き教室で私と彼は隣同士で座り昼食をとることとなった。

ビニール袋の中からパニーニを取り出し、一口口に含む。ベーコンの塩味と卵が程よく混ざり、絶妙な味わいを感じさせる。端的に言えば美味しい、すごい美味しい。


私がパニーニの三分の二程度を食べきったあたりで、彼から質問が飛んできた。


「長篠さんパニーニ好きなんですか?」

「まあ嫌いじゃないですよ、おいしいものは好きですから」

「……長篠さん、ちょっと失礼かもしんないんですけど言っていいっすか」

「?はい、何でしょう?」

「俺、長篠さんと付き合う前は長篠さんのことすごいクールでなんというか仕事人みたいだなって思ってたんですけど、こうして関わってみると長篠さんって結構可愛いんですね」

「……………へ?」


…………………可愛い?え、かわいい?カワイイ?kawaii?今、この人はなんと言った?え、可愛い?私のことが?……え?!


思考を巡らせていくうちに、私の顔はみるみる熱く赤くなっていった、もう湯気が出そうだった。


「…ど、どこをどう見て可愛いと?」

「いや、購買でパン買おうとしてた時に長篠さんのこと見つけて、しばらく声かけるか悩んで見てたんだけど、その時さ、長篠さんパン売り場で顎に手を置いて首傾げたり、前のめりになったりして悩んでんの見てて、可愛いなって思って」


無意識だった。私は無意識にそんな仕草をしていたというのか…………。


「………可愛いって言われたの、初めてです」

「え、本当ですか?」

「はい、学校とかではなるべくキリッとしなくては、という意識が強くて人とは話しますが関わりがそんなにあるわけではないのであんまり言われません」

「あ〜、確かに前まで俺達も関わり少なかったですよね。そんな中での両片思いか〜」

「本当にびっくりですよね、あの試験がなかったら本当に叶わぬ片思いでしたよ。試験様々です」

「ですね」

「そうだ竹内くん。一つお願いをしてもいいですか」

「?お願いとは?」


少し気恥ずかしいとは思ったが、もう付き合っているのだ。これくらいのお願いはしてみてもいいだろう。

一度深呼吸をして彼に伝える。


「私はこれから、竹内くんと二人の時にはなるべく素を出そうと思います。なので竹内くんも私と一緒の時は少しでいいので素のままでいてください」


私のお願いに対して彼は一言「こちらこそお願いします」といった。

とても嬉しかった。

本当に些細なお願いだと思う。でも私にとっては大きすぎるほど大きな一歩だった。






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