不束者ですがどうぞよろしくお願いします。
椿カルア
プロローグ 両片思いが両思い
高二の6月下旬に行われる『配偶者選定試験』。
近年政府の方針で決まったこの試験は全国の高校二年生の学生を対象に行われるもので、この試験で得たデータを解析し対象の一番相性のいい配偶者が決まると言うシステムである。
そんな試験で俺、
7月の頭、配偶者選定試験の結果が届いたとのことで六限の授業は結果の返却などの時間となった。
試験の結果つまるところこの時間で、俺の配偶者が決まるわけなのだが、俺には試験の最中よりも前からずっと願っているおそらく叶うはずのない願いがあった。
それは、クラスでも指折りの美女で今俺の隣の席にいるクール系美女、
その願いに決して不純な動機は無く、むしろ片思いが成就して欲しいという感じである。
でも正直のところ、俺のポジションはいわゆる二・五軍という何とも微妙な立ち位置に対し、彼女はまごうことなき一軍である。本来ならお近づきにもなれやしないのである。だからおそらく叶うはずのない、なんて思っている。
教師からそれぞれ配られた結果表(通称配偶者シート)の結果を見て、喜びのあまり騒ぎ出す者や、机に伏して落ち込むなど失礼な態度を取る者などの様々な結果が見て取れた。
軽く周りを見渡したあと、俺は先ほど配られた配偶者シートを見てみることにした。
めくろうとする手は緊張で僅かながらに汗をかいていた。
そしてシートの文面を慎重に読み進めると、そこには驚くべき事実が書き記されていた。
配偶者選定試験結果表
氏名 竹内綾人
学校名 県立月野高校
配偶者 長篠茜
(………はい?)
驚愕の結果であった。配偶者の枠に書かれていた名前は、『長篠茜』と書かれていた。何をどう読み返してもそこには俺の片思い相手のなまえがあった。
シートを何度も読み直しそれが嘘偽りのない事実ということを確認すると、俺の意識はどうしようもないほどの喜びに駆られた。
(え、嘘マジで?!え、はよっしゃあ!?えこれ何かの間違いとかじゃなくマジのマジで大マジでございますか?!だとしたらやばい超嬉しい)
と、ここまで内心大騒ぎしたところで、俺はある懸念点を発見する。
(……あれ、でもこれ長篠さんに嫌な思いさせてないかな?)
少年は相手の気持ちを尊重するタイプだった。
そう思い目線をそ〜っと隣の席の彼女へと向けると、そこには―――――――――――――
顔をシートで隠し、僅かに肩を震わせている状態の彼女がいた。それに加え、シートをよく見ると、おそらく彼女の涙であろうものによって一部分が歪な円形に湿っていた。というか憤りの吹雪が起きているのが見えた気がした。
それを見た少年は、
(泣くほど?!そうですよねこんな二・五軍の俺が配偶者とか意味わからないですよね?!ほんともうすいません!!)
ちょっとした自己嫌悪になった。
一方でこの泣いている少女もとい長篠茜はというと――――――――――――――
(やっっったぁ…!え、ほんとに竹内くんが私の配偶者………、うんやっぱり書いてあるよミスとかじゃなくてほんとのやつだよ!神様仏様政府の皆様本当にありがとうございます特に政府の皆様!試験中にこんな試験あっていいのかとか色々悪態ついてごめんなさい全然あって大丈夫でした!あーまずい口元緩んできたし涙も出てきたシートで隠そ…)
有頂天だった。
この少女はこの少女で喜びに駆られていた。
少年が吹雪として見ていたものは、彼女の視点で見ればむしろ幸福の雪解けであった。
もっといえば、彼女も彼女で片思いであった。
だがそしてすぐ、少年と同様に少女もおなじょうな懸念点に気づいた。こっちもこっちで相手の気持ちを尊重するタイプらしい。
(あでもこれ竹内くん嫌じゃないかな。私周りから見たら冷たそうだしつまんなそうだしいやこれ絶対嫌な思いさせてる気がする……)
そう思いつつ、確認がてら顔を彼の方に向けると、彼もまたこちらを見ていて綺麗に目が合った状態となった。
((…………あ))
しばらくの間沈黙が続いたが、先にそれを破ったのは彼女の方だった。
「えっと、あの。………竹内くん」
「は、はひ!?」
「み、身分上は配偶者、ということになりますがまずは……、お、お友達から始めさせてもいいですか?」
「あ、はい!むしろこちらもよろしくお願いします!」
「ありがとうございます。それでは、不束者ですがどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそふ、『ふちゅつかもの』ですが、よ、よろしくお願いします!」
………噛んだ。好きな人の目の前で、人生最大の大事な場面で。
とてつもない恥ずかしさに駆られたが、それもすぐ彼女の次の言葉でかき消されることとなる。
「えっと、もうこの際配偶者という身分なので言わせてもらいます。竹内くん、あなたのことが好きです」
「………っ?!」
告白。突然のそれに少年は一瞬理解が追いつかなったが、少年は少年で勢い余って返答する。
「あえっ…と、お、俺もずっと!長篠さんのことが好きでした!」
「え」
予想をしていなかった返答だったのであろう。
彼女は耳と頬を赤く染め、今一度シートで顔を隠した。
「えっと…、や、やっぱりさっきのお友達からなしで」
「え……」
「その代わり……、私の彼氏になってもらえますか………?」
「っ〜〜…!喜んで!」
この日、二人補両片思いが両思いになり友達をすっ飛ばして恋人になった。
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