第3話 大事なのは心

 旅の中で、私はルカの強さと優しさを目の当たりにする。


 村で盗賊が暴れていれば助けに入り、道端で泣いている子どもがいれば優しく声をかけ手助けしてあげる、そんな頼もしい彼の姿に思わず胸が高鳴った。


 正直、私が受けてきた剣の稽古はままごとレベルだったと思わされて落ち込む。


「こんなに強いんだから、騎士団に入ればいいのに」

 私は少し意地悪っぽく言ってみた。


「……他にやらなきゃいけないことがあるから」


「なにそれ?」


「内緒」

 そんなふうにかわされるけど、彼の態度にはどこか品の良さが漂っていた。


 ある日、私がふざけて「試験」の話を教えた時、ルカは真剣な顔になる。


「そういう国に嫁ぐお姫様ってかわいそうだと思わない?」


「逃げているだけじゃ、答えは出ないんじゃないか?」

 同意してくれるかと思ったけど、思わぬ反論に私はムッとした。


「でも、六番目のお姫様よ。何もしなくていいなんて言われてきたのに、いきなり完璧な王女になれだなんて、勝手だわ」


「王女としての試験なら、王女としてを考えればいいんじゃないか」


「え……っ」


「大事なのは、心だろ?」


 うっ……それ、父にも同じことを言われた。


 私は、六番目という地位に甘んじて、王族の責任を果たすことなくただ自由気ままに暮らしたいだけの……だ。


 ルカの言葉で、初めて自分が「王女であること」から逃げていたのだと気づかされた。


「私……頑張ってみるわ」

 旅を続ける中で、私は王女としての在り方を少しずつ考えるようになる。


 答えが出たら王城へ戻ろう、そう決めてルカと二人、歩む足を止めなかった。


 途中、私はある村で王家の重税に苦しむ人々を目の当たりにする。父がどれだけ国民に無関心だったかを知り、同時に自分の無力さも痛感した。


「私……」

 ぽつりと呟くと、ルカは優しい目でこちらの答えを待つ。


「王城へ戻るわ。ここにいても何も変わらない。でも、戻っても何も変わらないかもしれない」

 だいたい私が行方不明なのに、なぜ捜索隊は迎えにこないのだろう。もしかしたら、やっぱり六番目なんてなんの価値もない王女なのかもしれない。


「大事なのは心だって」

 ルカはそっと私の頭を撫でてくれた。あんまりいつまでも撫でるから自分が猫にでもなった気分だ。その手はとても温かくて安心する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る