第2話 用心棒と過ごす夜
自由って素晴らしい……とはしゃいでいたのは最初の方だけ。
外の世界は思った以上に厳しかった。財布を盗まれ、馬車にも乗せてもらえず、初めての冒険は早々に詰んでしまう。
日が沈み、途方に暮れていた私を助けてくれたのは、ボロボロの鎧を着た若い騎士だった。
肩より長い金の髪を後ろで無造作にくくっている。瞳は琥珀色で、まるで金色に輝く大河のように底知れない深みと力強さを感じさせた。高く通った鼻梁と彫刻のように整った顔には穏やかな笑みが浮かんでいる。
「何か困っているのか?」
長身の彼は私を優に見下ろしてきた。
「え、えっと、旅の途中なのだけど、財布を盗まれてしまって……でも、できるだけ遠くへ行きたいの」
咄嗟に嘘が口をついて出る。遠くへ行きたいのは本当だけど、ここで王女などと言ってしまったら大騒ぎになるかもしれない。
「ふうん。ずいぶんと世間知らずなんだな」
ルカと名乗った彼は、口はまあまあ悪いけど親切だった。とりあえずルカを『用心棒』として雇うことにし、一緒に旅をすることになった。
「私が無事に逃げきれたら、望む分だけ報酬を差し上げるわ」
立ち寄った宿場で食事を摂りながら、提案する。
暖炉の薪がパチパチと音を立て、賑やかな部屋をさらに暖めていた。
「追われているのか? 面倒事はごめんだぞ」
ルカは冷たいエールを喉に流し込んでから眉をひそめた。
「あ、えっと、悪いことはしていないから大丈夫!」
私は慌てて首を横に振った。
王城から逃げ出したことは、きっともう発覚していることだろう。探しに来ることも想定内。だけど、逃げ出すくらい嫌なことだと父がわかってくれれば、今回のおかしな試験つきの縁談も破談にできるかもしれない。
「まあ、いいや。で、どこに行きたいんだ?」
「そうね……あなたが行きたいところでいいわ」
「初対面の相手をそんなに信用していいのか?」
ルカは苦笑して、ローストした鹿肉を口にする。
私もさきほどそれを食べたのだけど、香ばしく焼き上げられた肉は甘辛いたれがよく絡んでおいしかった。肉の旨みが口の中で広がり、ハーブがいいアクセントになっているのだ。
王城で出てくる料理も最上級の食材と料理人を雇っているので、まちがいない味なのだけど、今夜の料理は今まで食べたものよりも格段においしかった。
「あなたの目はまっすぐでとても澄んでいるから。悪い人じゃないと思う」
私がにっこりと笑うと彼は肩をすくめる。
ちぎったパンは少し硬くて、チーズと一緒に合わせると甘みが増す。まだ成人していないので、ルカのようにエールは頼めなかったけど、林檎のジュースも甘酸っぱくておいしかった。
うん、「おいしかった」しか言っていないね、私。
「そういうのを世間知らずっていうんだよ」
そう言って笑った彼の目はどこか冷静で、私が隠している正体を見透かしているようだったけど、それ以上追及されることはなかった。
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