六番目の王女は試験から逃げ出したい

宮永レン

第1話 縁談ただし試験付き

 私の名前はアストリーヌ・シエル・ラヴァリエ。リュシエール王国の王女……だけど、全然王女らしくないことは自分でもわかっている。


 刺繍もダンスも苦手だし、好きなことは剣を振り回すことくらい。おかげで「おてんば姫」なんて呼ばれているけど、気にしない。


 だって、私は六番目の王女だから。淑女の模範解答みたいなお姉さまたちには何をしたって敵わないし、あなたは何もしなくていいからとも言われている。


 柔らかい夜明けの光を思わせる深い銀灰色の髪は、動くたびにかすかに青みを帯びて揺れた。瞳はラベンダーのように優しい紫色で、月明かりのように淡い。


 でも、お姉さまたちの方が、侍女の手でもっと美しく飾り立てられる。おてんば姫にはおしゃれはするなということなのだろう。剣の稽古をするのに邪魔だから髪を短くしようとも思ったけれどそれは止められてしまった。


 そんなある日――。


「アストリーヌ、お前を隣国の第三王子と婚約させる。ただし先方の条件である『試験』を受けてもらうとのことだ」


「試験?」

 私は首をかしげた。


 どうやらそれは、花嫁候補にふさわしいかを測るものらしい。淑やかに舞う技術や王女としての気品を示すとかなんとか……正直、聞いただけで嫌になった。


 いかにも優雅な王女を求めていそうな話に、私は頭を抱える。


「父上、私なんてお嫁に出したらリュシエール国の恥になります!」


「自分で言うな!」

 父は呆れながら言葉を返してきた。


「どうせ不合格になって笑い者にされるのに……」

 私は唇を尖らせる。


「そんなことはない。大事なのは心だ。おまえもとうとう家のために――」

 その後の話は聞き流し、私は早々に自室に戻ったのだった。


 ――いったいどうしたらいいの!?

 室内をあっちに行ったりこっちに行ったりしながら悩んだ結果、一つの結論に至る。


 ――逃げよう!

 私は翌朝、こっそりと王城を抜け出した。


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