第3話 星空の下。ダブルデート。

 いつのまにか、民宿で時間が経った。結構夜になってる。心配になって、陸くんに小さな声で聞いてしまう。

「みんな、何時までいるのかな? お母さんも」

「うちの親父が来るまでいるって言ってたけど。親父は九時か十時にならないと来ないと思う。にしてもー。大人たち、お酒でぐでんぐでんだよな。俺たちはさ、航一も連れて、少し、夜風にあたらん?」

 そう言って、航一くんのことを誘ってる。でも、航一くんは、「今からお笑いの配信やるし。俺は行かんさー」って、つれない反応。

 わたしたちは顔を見合わせて笑う。陸くんと外に出ると、火照ってた体が夜風でぐんと冷えた。


「寒くない?」

 陸くんが気遣いながらも、空を指差した。

「うわぁー。すごい!!」

 声が出てしまう。夜空はまばゆく、まるで、天然のプラネタリウム。

「東京では見えない星。南十字星って星座があるんだ。指さすから、追ってみてほしい」

 南十字星。南半球でしか見えない星座だよね。家の図鑑で見たことある。図鑑の写真の記憶をたどりながら、星を探した。


「あ、あれ?」

 十字の形が、確かに見えるの。

「南十字星って、『はいむるぶし』って、ここらへんでは呼ぶんだよ」

「ロマンあるね」

「そうだな」

 夜風が冷たかったことなんて忘れて、星を見ていたら。


「あんたたち、何やってるのー。もう」

 お母さんまで、外に出てきた。ちょっと怒りながら、こちらにやってきた。

「深瀬さんももうすぐ来るから。そしたら、優里。少し顔合わせして、帰ろうね」

「ごめんなさい。俺、どうしても優里ちゃんと星、見たくて。航一も誘ったんですが」

 陸くんはぺこりと頭を下げる。お母さんは、怒るのもためらわれたのか。

「星、綺麗だねー」

 なんて言って、少し寒そうに腕をさすりながらも、一緒に夜空を見上げてた。

 そしたら、砂利を踏みしめる足音がした。


「なんだい。出迎えかーい?」

 大きな声で、その男性はお母さんに言う。

 お母さんがすごく嬉しそうに手を振った。陸くんは、恥ずかしそうに目をそらす。

「親父、俺とあんまりに、違うだろ?」

 小さな声で、わたしにそっと言った。

 陸くんは反抗期なのかな?

 わたしはふふふ、と笑ってしまった。

 背も横幅もとても大きな男性は、もちろん、深瀬さん。お母さんの婚約者で、陸くんのお父さん。

 

 お酒も飲んでなさそうなのに、すでに機嫌良く鼻歌を歌ってた。

「よろしくお願いいたします。七海優里です!」

 わたしは元気よく挨拶する。深瀬さんは、わたしの頭をわしゃわしゃ、豪快に撫でた。見た目通りの人だなー。


 陸くんも、結構、自然に、手を繋いだりするんだな、とは、昼間、思ってたの。もしかしたら、このお父さんの影響かもね。


 南国の星空の下で、将来、家族になる四人が「ご対面」。

 夜風はやっぱり寒くて、一旦、屋内に退避。三線を民宿のおじさんが奏でていて、航一くんがカラオケみたいな感じで、民謡を歌ってる。すごくいい声だった。

『竹富島で会いましょう』って歌なんだって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る