第2話 「島の夕焼け」と夜ご飯
午後二時くらいから始まった荷解きは、決して終わってるとは言えないけれど。
お母さんが陸くんとわたしに「さんぴん茶」のペットボトルをくれた。さっき、空港で売ってたものを買ってたんだな。
「二人とも、中学生なのに働きすぎ! ちょっと散歩してきたら?」
お母さんがニコニコして言った。陸くんは「あ、そしたら、西桟橋でも案内しますよ」とお母さんに言うと、わたしの手を自然に取って、「行こっか」と言って、ちゃんと目を合わせて、笑う。
「夕焼け。今の時間ならちょうどだよ。見にいこうか」
島の夕焼け。それは心躍るよね。
この荷解きの時間のあいだ、わたしたちはすっかり打ち解けていたんだ。陸くんの笑顔がその証拠!
わたしは外に出た。
太陽がだいぶ西日になってる。
わたしの新しい家から、西桟橋というところは徒歩で二十分くらいということ。
さっき繋がれた手は一瞬だ。でも、ぬくもり尊い。わたしは自分の左手をすごく愛おしく思った。
沖縄特有の木々が林になってる。少し日の沈みかけてるこの時間は、世界が夕焼け色に色づいてる。
陸くんが案内してくれたのは、石の橋。橋は途中まででなくなってるんだ。見たことなかったけれど、桟橋ってみんな、こういうものなの?
「ここが西桟橋。インスタ映えスポット。見てみ」
陸くんが指差した先では、まあるい太陽がちょうど、海の向こうに隠れていってる。太陽は沈む前にひときわ明るく輝いてる。炎みたいに。
「綺麗」
じわりと涙がこみあげてきて、自分で驚いちゃった。え? わたし、太陽が沈んでくくらいで泣いちゃう?
でも、すごく綺麗。
西桟橋の上に二人で立って、日が沈みきるのを見た。海の波音が、優しい子守唄みたいに自然に、わたしたち二人を包んでた。
「俺の家は、この桟橋から徒歩十分くらいだから、すごいご近所さんだよ。優里……ちゃん、と、同じ中学校にも通うね。俺は来年三月卒業で、そしたら、島の外の高校行くけど、それまでは」
陸くんは言うと、頬を染めて下を向いてしまう。「ちゃん」呼びに自分で照れてる。
「いずれは俺たち、親が再婚するだろうし、家族になるって思ってるよ。だけどさ、ごめん。さっきだって、家出る時に、気安く触っちゃったよね」
陸くんは本当に申し訳なさそう。しゅんとしてた。
「ううん。いいよ。これからよろしくお願いします!」
わたしはぺこりと頭を下げて、陸くんに握手を求めた。陸くんはまだ恥ずかしそうだったけれど、可愛く、ニコッと笑う。温かい手で握り返してくれた。
夕飯は、お母さんがこれから仕事する民宿で、「歓迎のご飯」を三人、いただくことになった。
陸くんは、民宿の息子さんと顔見知りのよう。なにかふざけ合って、スマホゲームの画面を見せ合ったりしてる。大人たちは何人かで、お酒を飲んで談笑中。若干の「孤独」を感じてると、陸くんが、民宿の息子さんとの会話に混ぜてくれた。
男子同士の会話ってテンポがいい。おまけに、陸くんも沖縄の方言を使ってるので、何を話してるかはさっぱり。
民宿の息子さんはわたしと同じ中学校一年生なんだって。
「航一って言うさ」
航一くんは人懐こく笑うけれど、よく聞き取れない方言を次から次にわたしに浴びせてくる。困ってしまって陸くんを見てしまう。
「沖縄の方言って独特だからな。説明するよ、ゆっくり。まずはご飯。これ、ジーマーミー豆腐。食べてみ?」
陸くんがわたしにとってくれたのは、小さなお豆腐。箸ですくって食べてみると、なんとも言えない不思議な味わい。
本来、お客さんが座る食卓には、所狭しと沖縄の料理が並んでる。ミミガーという料理や、ゴーヤチャンプルー、とろとろの豚肉の煮物が乗ったソーキそば、など。
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