はいむるぶしの見える島で〜義理のお兄ちゃんになる人との淡い恋〜
瑞葉
第1話 南の島へのお引越し!
「お母さーん。この荷物、こっちに置いていいの?」
「優里(ゆうり)。そこに置くとすこーし邪魔だよ。窓際に置こうよ」
二人きりの引越し作業は、決して順調には進まない。わたしのお母さんは四十二歳。わたし、七海優里(ななみ・ゆうり)は十三歳。
七つの海、という変わった名字を持つわたしたちは、今日から、沖縄県の離島、竹富島(たけとみしま)に引っ越してきたんだ。
竹富島の家屋は、屋根にシーサーがついていたりする瓦の家が大多数。我が家もそうだ。
シーサーに見守られる生活が始まるんだな。
お母さんは東京都内の水族館の掃除勤務から、一念発起して、南の島の民宿のフルタイムパートの掃除勤務になった。これには、ちょっと裏事情がある。
大人の事情。
「全く! 深瀬さんはなんで来ないの? お母さんの『婚約者さん』じゃない?」
深瀬さんというのはお母さんと同じ東京出身のシングルファーザーさんなんだけれど。この島に惹かれて、二十年も前に移り住んだ四十五歳の男性。そして、お母さんとマッチングアプリで「婚活」をして、カップル成立した人。
わたしは写真でしか見たことない。
髭面で、お世辞にもカッコよくない。「クマさんが山賊さんみたいな、もっさりした人だなあ」としか思えない。
お母さんはもちろん、何十回と、深瀬さんとリアルにデートをしていた。そして、やはり、お母さんも沖縄の竹富島が好きだったらしい。若い頃はダイビングとかしてたって。その、竹富島に、娘のわたしともども移住したんだ。
この竹富島、島内に高校がない。
わたしはあと何年かしたら、親元を離れて、石垣島かどこかの高校に通うために、下宿しないとならないの。わたしは反対したんだけれど。押し切られた。大人の恋愛。
「深瀬さんは外せない仕事なんだ。でもね。深瀬さんのお子さんが手伝ってくれるみたい。そろそろ着くはずだけど」
お母さんが言ったとたん、わたしたちの家の呼び鈴が鳴らされた。
初めて聞いた呼び鈴。チリンチリン、と、南国の風鈴みたいな音がした。
「深瀬陸(ふかせ・りく)です」
玄関のドアを開けると、背の高い男子が、照れくさいのかな。わたしと目を合わせずにボソリと言った。
一七〇センチは越すと思う。バスケとかやってそうな。そして、お父さんに全く似ていない。痩せてるけれど、きっと、スポーツ万能だろうな。とわかる。
「陸さん?」
ちょっと胸が高鳴る。いずれは、義理の兄妹になるかもしれない人だもん。
「そう。陸。うちの亡くなった母さんが、こだわってつけた名前だから」
男子くんはボソリボソリと小さな声で、恥ずかしそうに言ったけれど、次の瞬間、くしゃりと微笑んだ。
「親父、用があるから今日、来れないんだ。ごめんな」
その言葉は、打って変わって、大きな声で言った。まばゆい太陽を背中に、明るく笑ってる。わたしの肩を軽くトンと叩くと、スタスタ歩いて、お母さんのそばに行っている。
「荷物、どれからほどきますか?」
なんて、お母さんと会話しながら、テキパキと荷解きを始めていた。
この男子くん、初めて会ったのにな。なんか懐かしいよ。まるで、お兄ちゃんみたいに思ってしまうよね。
陸さん。ううん。「陸くん」って、心の中でだけ、呼んでしまった。中学三年生で、十五歳のはず。すごく大人っぽいな。色が浅黒い。高校生みたいに見える。髪の色は少し赤みがかった黒色。きっと、南国の陽に焼けたのかな?
新たな生活が始まるんだな。
そんな、予感がした。
沖縄の空気はもわっとしていて慣れない。でも、きっと、いい生活になるよね。
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