ヒロイン失格2 ~花火大会のデート~
ズドォンッ! ズドォンッ! バンッッ! バンッッ!
花火の煌めき、十重二十重
開いては消え、また、開いては消える。
その一瞬を逃すまいと真剣に見つめる私のとなりに、
一言もしゃべらない君がいます。
「わぁ! きれーい。京くん、すっごい花火! あの花火、“割れ茶碗”って言うんだって。何でかなぁ? お茶碗落して、パチンって割れた音に似てるからかなぁ?」
私は必死だった。
花火を見上げながら花火の映像が何一つ記憶に残っていない。
打ち上げられた花火がつまらなかったからじゃない。
花火は綺麗で凄かった。
記憶に残らなかったのは別の理由。
「京くん、今の花火すごくなかった? ズバンってすごく大きく広がって、しばらくしてズドンってお腹に響くような音がして!」
対岸に設置された砲台からは、星の瞬きにすら負けてしまうような小さな小さな火珠がひゅるひゅると打ち上げられてゆく。
それが煙に霞む中空に到達する頃、ズバンっと炎の傘が開くみたいに美しく炸裂するのだ。
同時に、ズドンと凄まじい音が響き渡り、遠くの山々で木霊する。
「綺麗だなぁ。ねえ、京くんもそう思う?」
川縁の土手の上、隣に座っている彼の方を向く。
でも相変わらずソッポを向いたまま。
私と反対側の方向、屋台も人も花火もない暗い川の下流の方をずっと見つめている。
そっちには何も無いのに……。
その様子がまるで私を避けているみたいに思えて怖かった。
「京くん……花火みてる?」
そっと聞いてみる。
「見てるよさっきから。何回も言わなくても見てるって」
「……」
強い言葉が返ってきて、思わず身体が震えてしまう。
京君はまた川下の方をプイと向く。
「……わぁ、きれいだなぁ」
私は無理に感嘆してみせる。
嫌われているのかもしれない。
身体が震えていることを悟られないようにする。
みるみるうちに身体がカチコチだ。
私は天空を見上げながら、そこに咲き誇る美しい花火に心を奪われた“フリ”をし続けた。
「わぁ、大っきい……」
花火はとても鮮やかで煌びやかで美しい。
でも、夜空は辛かった。
ちりん、ちりん
ふと、耳にする可愛らしい音。
それは、終盤の仕掛け花火に差し掛かる頃のことだった。
一瞬だけれど、花火を見上げる大勢の人達の声が止まり、沈黙が訪れた。
そのとき、ふいに背後から可愛らしい音色が聞こえてきたのだ。
ちりん
「風鈴屋さんだ」
京君の透き通った声。
抑揚のない呟きだけど、花火の音に消されることなく私に届く。
足元の浴衣の裾を摘まんだ私の右手が、きゅっと閉じられた。
フワリ。
夏の夜風が微かに香る。
「……」
京君の視線の先を追うと、暗がりの中に一軒の屋台がポツンと佇んでいる。
他の屋台のように人で賑わっていない。
アレ?
さっきまで、あんな屋台あったかな。
煌々とした白色灯に照らされて、屋台の軒先には、沢山の風鈴が飾られている。
京君はするりと立ち上がると、吸い寄せられるようにして屋台のほうへ歩いてゆく。
「あ……まって」
私も後を追う。
ちりん、ちりん
屋台の前では、色とりどりの可愛らしい風鈴達が、まだ青い若竹で組まれた竿に吊るされている。時折頬を撫でるように吹く静かな夜風に揺られて、ちりん、と可愛い音を鳴らす。
私はそっと京くんの背中に浴衣の袖を触れさせた。
ピトリ……。
京君は、風鈴の一つを指さした。
「この青いやつ、蓮華に買ってやるよ」
「……え?」
たくさん並んだ風鈴たちの中で、ひと際目立つ青い色の風鈴が揺れる。
ちりん
可愛らしい音。
ひとつ。
まるで、京君の指先に応えるかのように、小さな短冊が揺れている。
風鈴の丸いガラスは、頂点に向かって青色がどんどんと濃くなる。
その中を一羽の赤いヒヨドリが飛んでいる。
とても綺麗。
そして可愛らしい。
それを私に買ってくれるというコト?
「あ、ありがとう。でも、どうして……(買ってくれるの?)」
「……」
京君は私の問いかけには答えてくれない。
その代わり、屋台のおじさんにこう告げた。
「おいちゃん、その青いやつ頂戴」
屋台のおじさんは、京君の顔を見ると目を細めた。
「あいよ坊主、400円ね」
それから、青竹の竿から青い風鈴を一つ、取り外す。
「蓮華……これ持ってろよ」
私の顔を一度も見ることなく、ぶっきらぼうに風鈴を手渡す。
それから、お代の400円をおじさんに渡すと、さっさと一人で川縁の方へ歩き出した。
スタスタスタ。
え?
あ、待って!
心の中で叫んだけれど、声には出せなかった。
一人屋台に取り残された私は、京君の背中をぼーっと眺めている。
そんな私の頭上で大輪の花火がキラキラと瞬いた。
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「蓮華のステータス」
1,命の残り時間 :変化なし
2,主人公へ向けた想い :初恋レベル
3,希望 :★★★★☆
4,絶望感 :☆☆☆☆☆
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