第1章『告白と嘘』1

「俺は……人を殺した。」


 アキラの低い声が部屋中に響き渡り、その言葉が落ちるたびに空気は重く、冷たく変化していく。


 参加者たちは一斉にアキラへと視線を向けた。彼の手首には「1」の数字が刻まれている。その衝撃的な告白に対して、驚きや疑念が入り交じったまなざしが投げかけられた。


「殺した……って?」

 端に座っていたミカ(3)が、驚きと戸惑いを滲ませた声で尋ねる。


「俺もよく分からない。ただ……そういう記憶の断片が、頭の中に残ってるんだ」

 アキラは苦しげに言葉を続ける。


 彼の告白が引き金となり、広い部屋には不穏な空気が漂い始めた。


 参加者たちの反応

 カズキ(5)

 無口で筋肉質な青年が、鋭い目でアキラを睨む。

「記憶が曖昧なのに、そんなことを言うのか? 本当に人を殺したのか?」


 サクラ(2)

 無邪気な雰囲気を漂わせた少女が、興味津々な表情で手を挙げた。

「ねえねえ、殺したってどんな感じだったの? 痛そうだった?」


「おい、冗談じゃないだろ!」

 彼女の言葉を遮ったのは、ユウスケ(4)。警官らしい正義感を漂わせる男性で、拳を机に叩きつけるような勢いだ。

「人殺しを認めるなら、まずそこを追及しなきゃいけないだろ。もし嘘なら、何のためにそんなことを言った?」


 ゲームマスターの宣告

 突然、冷たく無機質な声が部屋に響き渡った。

「質問タイムを開始します。告白者に対する質問は、一人一回までとします」


 アキラは円卓の中央で息を呑み、参加者たちの鋭い視線を一身に浴びながら身構えた。


 質問タイム開始

 質問1:ユウスケ(4)

 正義感を前面に出した口調で、ユウスケが問いかける。

「殺したっていう断片的な記憶だと? だったら相手が誰かくらい思い出せないのか?」


 アキラは額に手をやり、きつく目を閉じたのち、苦しげに言葉を絞り出す。

「分からない……でも、ものすごく悲しい気持ちがあったんだ。何かを守ろうとしてたような気がする」


 質問2:カズキ(5)

 短く重い声でカズキが口を開く。

「その“殺した相手”って、本当に人間か? それとも動物か、何か別の存在か?」


 アキラは目を大きく見開き、驚いたように答えた。

「それは……人間だと思う。でも、どうしてそんなことを聞くんだ?」


 カズキは腕を組んだまま、無表情でアキラを睨み続ける。


 質問3:アイリ(8)

 円卓の端に座る、神秘的な雰囲気を漂わせる女性が静かに口を開く。

「あなた、雨の中で誰かを殺したという記憶があると話してたけど……その時、何を感じていたのか、覚えている?」


 アキラは一瞬言葉に詰まるが、やがて低い声で答えた。

「……恐怖。自分がそんな行為をしていることが……信じられないくらい怖かった」


 アイリは静かに頷き、黙り込む。


 質問4:ケンタ(10)

 ムードメーカー的な存在のケンタが手を挙げた。

「その時、周りに誰かいなかったの? 例えば目撃者とかさ」


「……一人だった」

 アキラはきっぱりと答えるが、その語調にはどこか曖昧さが残る。


 判断タイム

「質問タイム終了」

 冷たい声が再び告げると、参加者たちは一斉にそれぞれの結論を固め始めた。


 判断1:ユウスケ(4)

「嘘だ」

 ユウスケは冷ややかな目つきで言い放つ。

「断片的すぎて説得力がない。信じるには要素が足りなさすぎる」


 判断2:サクラ(2)

「真実!」

 サクラはくすくすと笑いながら言う。

「だって、あんなに悲しそうな顔をしてるんだもん」


 判断3:アイリ(8)

「……私は真実だと思う」

 静かにそう言うと、アイリは伏し目がちに続ける。

「恐怖を感じる表情は、簡単に偽れるものじゃないから」


 判断4:ケンタ(10)

「俺は……嘘かな。曖昧すぎるんだよ、いろいろと」


 結果発表

「最終判断が出ました」

 無機質な声が響くと同時に、モニターに文字が映し出される。


“嘘”


 アキラの顔が青ざめる。

「嘘……なのか?」


 続けて、冷たく事務的な声が告げた。

「正解者には記憶をひとつ返還。不正解者には記憶をひとつ消去します」


 記憶の報酬とペナルティ

 正解者:ユウスケ、ケンタ、カズキ(5)

 ユウスケは一つの記憶を取り戻し、警官としての職務中に隠蔽した“ある不正行為”を思い出す。

 不正解者:サクラ、アイリ

 サクラは頭を抱え込み、悲鳴にも似た声を上げる。

「なにか……なにか大事な記憶が消えちゃったよぉ!」

 アキラは「人を殺した」と告白しておきながら「嘘」と判定されたことに混乱する。自分の頭にある記憶の断片は何なのか――確信が持てないまま、ただ部屋の冷えた空気だけが一層重みを増していくようだった。


 ◇◇◇◇◇


「次の告白者を指名します。」

 無機質な声が響き渡り、参加者たちが固唾をのんでモニターを見つめる。その数字は──


“3”


「私……?」

 ミカ(3)は自分の手首を見やり、驚きと戸惑いが入り混じった声を漏らした。


「気にしすぎるな。話すだけだろ」

 低い声でそう言い放ったのは、カズキ(5)。大柄な体躯と冷たい目つきが、その一言に威圧感を与えている。


「話すだけ……? 簡単に言わないで」

 ミカが震える声で返すと、カズキは鼻で笑った。


「簡単だろ。お前が何を隠していようと、本当か嘘か判断するのは俺たちだ」


 ミカはその言葉に何も言い返せないまま、戸惑いを含んだ表情で立ち上がろうとする。そのとき、円卓の向かい側からケンタ(10)が声を上げた。


「おーい、深刻になりすぎだって。ほら、笑顔、笑顔!」


「ケンタさん、それは違うよ」

 サクラ(2)が無邪気な口調で言う。

「怖がるのは仕方ないよ。だって、すっごく大事なことを話すんだもん!」


「確かに」

 端に座るアイリ(8)が、小さく頷いた。どこか不思議な空気をまとった女性が静かに続ける。

「でも、それがミカさんの“運命”なのかもしれないわ」


「運命とか、そういう話じゃない」

 レンジ(9)は落ち着いた声で割り込む。

「ここでは誰がどう動くかがすべてだ」


「ちょっと静かにして!」

 母性的な雰囲気を漂わせるアヤコ(11)が、やや強い調子で制止した。

「ミカさんが話しやすいように、ちゃんと聞いてあげなさいよ」


 ミカはアヤコにちらりと目をやり、感謝するように小さく頷くと、大きく深呼吸をする。

「……わかったわ。話すわね」


 ミカの告白

「私は……人を助ける看護師だった」


 その言葉に、参加者たちの表情がわずかに和らいだ。しかし次の瞬間、ミカの言葉は部屋の空気を一気に凍りつかせる。


「でも……私は、助けないと決めたことがあるの」


 全員が一斉に息を呑む。


「目の前で助けを求めていた人がいた。それでも、私は手を出さなかった」


「どういうことだ?」

 カズキ(5)が眉をひそめ、冷たく問いただす。

「お前が看護師なら、人を助けないなんてありえないだろ」


「……彼には、助けを求める資格がないと思ったの」

 ミカの声は小さく震え、表情には苦悩が浮かんでいる。自然と、ほかの参加者たちの視線が彼女に集中した。


 そこへ、再びあの無機質な声が響く。


「質問タイムを開始します」


 質問タイム

 質問1:ユウスケ(4)

「その“資格のない人”って、具体的にどういう人物なんだ?」


 ミカは眉を寄せ、瞼を閉じて記憶をたぐるように話す。

「犯罪者……みたいだった。自分の罪から逃げるために助けを求めていたような……そんな印象があるの」


 質問2:ケンタ(10)

「その場には他に誰もいなかったのか? 周囲の目があれば、助けないって選択はしにくいはずだろ?」


「……私しかいなかった。でも、彼が誰かに追われていたのは確かよ」

 ミカは視線を伏せながら答える。


 質問3:サクラ(2)

「ねえねえ、その人を助けなかったとき、どう思ったの? 罪悪感とか感じた?」


 ミカは唇を噛みしめ、苦しげに言った。

「……あった。でも同時に、安堵も感じたの。私が手を貸したら、もっと悪いことが起こるんじゃないかって……怖かった」


 質問4:アヤコ(11)

「その場面で、彼はあなたに何か言ってきたの? どんな言葉をかけてきたか覚えてる?」


「助けてくれ……って叫んでいた気がする。でも、その叫びには……何て言うか、自分を正当化しようとする意図が感じられたの」

 ミカは小さな声でそう続ける。


 判断タイム

「質問タイム終了」

 機械のように冷たい声が告げると、参加者たちはそれぞれ自分なりの結論を固め始めた。


 判断1:ユウスケ(4)

「真実だ」

 ユウスケは強い口調で断言する。

「罪悪感と安堵……そういう相反する感情ってのは、むしろ生々しすぎる」


 判断2:ケンタ(10)

「俺は嘘だと思うな」

 ケンタは軽く笑いながら首を傾げる。

「ここまで曖昧だと、あとから作った話にしか見えないよ」


 判断3:サクラ(2)

「真実! ミカさん、優しそうだもん」


 判断4:アヤコ(11)

「……私は嘘じゃないかって思う。罪悪感と安堵を同時に語るなんて、都合が良すぎる気がするから」


 結果発表

「最終判断が出ました」

 無機質な声が響くと、モニターに“真実”という文字が映し出される。

 ミカは浅く息をつく。


「正解者には記憶をひとつ返還。不正解者には記憶をひとつ消去します」


 記憶の報酬とペナルティ

 正解者:ユウスケ、サクラ


 ユウスケは「隠蔽した不正」の記憶を取り戻し、眉をひそめる。

 サクラは「幼少期の幸せな家族の記憶」を取り戻し、嬉しそうに目を輝かせる。

 不正解者:ケンタ、アヤコ


 ケンタは肩をすくめ、「ま、いっか!」と軽薄に笑うが、その胸中を悟る者はいない。

 アヤコは小さく首を振り、「何かが……消えたわ……」と呟いて顔を曇らせた。

 一方、真実と判定されたミカは、今なおその“助けなかった”という行為の重さに囚われているようだった。

 ――彼女の選択が、今後のゲームにどう影響していくのか。その答えはまだ誰も知らない。



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