第3話 鬼灯 椿
あまりにも現実味のない光景に少しだけ面を食らってしまったがそういえばここに来るまでにも転移させられてたなと思い正気を取り戻す。
僕なんてたかが26年生きただけの若造やし知らんことなんていっぱいあるやろしな。うん。鬼?とかもおるんやろ割と。
「んお?どうしたんじゃ扉の前でそんな突っ立って。ほれ椅子に座るのじゃ」
「あっはい」
従順に椿さんが手を指した椅子へと座り至近距離で椿さんの白い角を見る。
うん。本物っぽいわ。鬼さん確定やねこれ。食われたりすんのかな僕。
「ほれほれどうしたんじゃ新人。緊張しとるのか?自然体でいいぞ自然体で」
「そんなん言われましても僕まだ混乱を……新人?」
「ん?新人じゃろ?求人に応募したんじゃし」
「いや面接とかあるじゃないですか」
「あっそういやそうじゃの。なんせ初めて応募してくれた人が来てくれたもんでな。少しテンパっとるのじゃ」
僕が初めての応募……。
「まぁこんな事言うのもあれですけど胡散臭さカンストしてましたしね」
「いやそう言う問題でもなくての。あの求人表は特定の条件を満たしたものしか見れんようになっとるんじゃ」
特定の条件を満たさないと見れない……。もー驚かん。もー驚かんぞ僕は。あれやな現代ファンタジーの世界に迷い込んだと思っとかなあかんわこれ。
「特定の条件って?」
「儂らが望む素質を持ってること、じゃな」
「素質?」
「うむ。そこら辺は説明し始めると長くなるから明日するとして……一先ずそなたの名前を聞いていいかの」
「
いやぁ僕この苗字好きちゃうねんなぁ……。小3で僕置いてった両親のものってのがどうしても嫌やねん。遺産で食いつないどいて何様やってのはあんねんけどさ。
「ふむふむ蓮じゃな。んじゃ次の質問じゃが──」
その後も趣味や特技についての質問をされたり少し雑談をしたりした。人とこんなに楽しく喋れたのは久しぶりだった。人じゃないかもしらんけど。
「ふむ、性格的にも問題は無さそうじゃし採用で良さそうじゃな」
「本当ですか?」
「うむ。今日からでも我が組織の一員となってもらいたい。蓮は家族とかはおるかの」
「おりまへんね」
「む、訳ありかの?辛いことを聞いて申し訳ないのじゃ」
「いえ大丈夫ですよ。むしろ誰かに聞いて欲しいくらいで」
自分でもなんでこんな事を言ったのか分からない。誰にも話したいなんて思ったことなんて今まで無かった。それでも何故かこの人にだけは聞いて欲しいと思ってしまった。
「なら遠慮なく話してくれ。これから儂らは家族になるんじゃから」
「……実は──」
その言葉を聞き、今までの辛さや苦しさが溢れ出す。思わず感情的になってしまい文法もぐっちゃぐちゃ、聞き取り辛いはずのソレを椿さんは静かに聞いてくれた。
それが何よりも救いだった。
「辛かったの、蓮。ずっとずっと1人で頑張ってきたんじゃな」
話を聞き終えた椿さんが僕を抱きしめてそう話す。
「これからは儂らが家族じゃ。辛いことも苦しいことも分け合って、これからは一緒に頑張っていこう」
「っ……はい……!」
一切の悪意も、敵意も、害意もないその言葉に堪えていたものが涙と共に決壊する。
こうしているとこの人が秘密結社のボスなんて言うことを忘れそうだ。こんな事を言ってくれているが、もしかしたらこの人は凄い悪人でこれから大変な仕事をいっぱいさせられるかもしれない。
でも、それでもいい。それでもいいから、この温もりをただ感じていたかった。
◈
「落ち着いたかの?」
「いやほんますんませんこんな歳やのに……」
「若造が何を言っておるんじゃ。辛い時は辛いって言ったらいいし!悲しい時は泣いたって良いに決まっておるじゃろうが!」
「……ありがとうございます椿さん」
あの後少し……少し?感情が溢れてしまった僕を落ち着くまで抱きしめてくれた椿さんと離れる。
「これから儂らは家族になるんじゃから椿で良いぞ蓮。敬語も不要じゃ」
「じゃあありがたくそうさせてもらうわ」
「うむ!……む?はっ!そうじゃ!良いことを思いついたぞ!」
「良いこと?」
「うむ!蓮は今の苗字が嫌いなんじゃろ?」
「まぁそうやね」
出来るなら変えたいって常々思っとるよ。
「ならば新は今日から鬼灯蓮と名乗るが良い!儂も今日から鬼灯椿と名乗るのじゃ!」
「鬼灯……蓮……」
「うむ!いい名前じゃろ!?」
鬼灯……鬼灯……と口の中で咀嚼しながら噛み締める。気付けば口角が上がり無意識のうちに言葉が漏れる。
「いい名前やね……ほんまに」
そうじゃろう!と笑う椿さん……いや、椿の顔はこれまで見たどの笑顔よりも美しかった。
◈
「よし、それじゃ採用も決定して、家族にもなったってことじゃし面接は終わりにするかの。なにか質問はあるか?」
「質問……椿って角生えてるけど鬼なん?」
質問したいことは山ほどあるがまずは気になっていた2本の角から触れる。
「ん?うむ。明日話す内容にリンクするんじゃがお察しの通りじゃろうが儂は鬼と呼ばれる種族でな?昔は酒呑童子と呼ばれていたものよ」
「酒呑童子って……あの?」
「多分想像通りのやつじゃな」
「そうなんすねー」
「……儂がこんな事言うのもあれじゃがもっと驚いてくれてもいいんじゃないか?他のやつはもっと驚いとったぞ」
「うおー!すげぇー!酒呑童子とかまじかよ!どひゃー!」
「下手すぎんか?」
ついつい椿と話すのが楽しくてふざけたくなってしまう。僕は中学の時はふざけたりするのが大好きやったからな。高校からはお察しやけど。
「まぁいいのじゃ。他に質問はあるか?」
「えーっと……この秘密結社の目的ってなんなん?何人所属してはんの?」
意識的にラフに話すように務めながら質問を重ねる。これで世界征服が目的とか言われたらどうしよ。どうもせんか。椿が望むんやったら着いてくだけやな僕は。
「目的は明日話した方が分かりやすい筈じゃから明日まで待っとってくれ。メンバーは儂と蓮を入れて5人じゃな」
「案内の時のメイドさんも抜いたら知らんの2人か僕」
「うむ。1人は今休暇をとっとるから紹介出来んが後で残っとる1人を紹介するのじゃ」
「助かるわ。後でメイドさんも紹介してな」
「もちろんじゃ」
このあとも沢山話をして、椿と親睦を深めていった。椿と話してるだけで凄く楽しくて幸せな気持ちになって、あぁ死なんくてよかったな、って改めて思った。
今日は良い日や。
────────────────────
蓮君が幸せそうで僕嬉しいよ。椿への思いがちょっと重そうだけど……まぁ仕方ないよね境遇的に。
読みにくい所や表現が違う所があれば教えてください。
モチベに繋がるので感想や♡や星沢山ください。星100目指してます。
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